食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「手羽先」。東京・大岡山の大衆酒場「やかん」を訪れ、“白黒つけがたい”店の看板メニューを紹介。
15歳から45年以上ラグビーを続ける現役ラガーマン店主の異色の経歴と人情味あふれる店づくりにも迫る。
2つの要素をあわせもつ大岡山の大衆酒場
植野さんがやってきたのは渋谷から約20分の場所にある、東急目黒線と大井町線が乗り入れる大岡山駅。
去年、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して新たに誕生した「東京科学大学」もすぐ近くで、正門から続く桜並木は春の名所として知られている。駅の周辺には商店街もあり学生街と住宅街、2つの要素をあわせもつ町だ。

2016年開店の大衆酒場「やかん」はそんな大岡山駅から徒歩8分のところにある。店名にもなっている大きな「やかん」が置かれたL字カウンターは、店主の手捌きが楽しめる特等席。奥にはテーブル席もあり、団体客や宴会にも対応している。
ぶっきらぼうだけど愛される元商社マンの店主
店主・伊藤浩之さんは、ラグビー歴45年以上のベテランで、その体格から一見コワモテに見えるがとっても気さくな、愛されマスターだ。

常連客からは「このおじさん(店主)はね、ぶっきらぼうだし(コミュニケーション)下手だけど、僕は人となりも分かる。(店主は)映画・音楽・ファッションも大好きで客が少ない時はそういう話を一緒にしている」との声。
アルバイト歴半年のスタッフも「めっちゃ優しい。まかないをラグビー部男子の量出してくれる」と笑いながら話した。

元商社マンの伊藤さんは、大衆酒場好きが高じて脱サラしている。50歳で飲食店に修業に出て、自らの店を構えた店主の手から生み出される料理は、春巻きの皮で包んで揚げた「カリカリウインナー」や自家製のたれに漬け込んで焼いた「チャーシュー」。

チーズを挟んだ「貴族のハムカツ」に対して、チーズなしの「昭和のハムカツ」。そして「とり天たるたる」など、酒飲みの心をつかんで離さない、安くておいしい料理であふれている。温かみのある空気に包まれ、つい時の経つのを忘れてしまう、人情味あふれる酒場だ。
大衆酒場もラグビーも全力で楽しむ
植野さんから開店の経緯を聞かれると、「僕は脱サラしていて、50歳の時に(開業を)考えて」と伊藤さん。もともとは、食品系の商社マンとして中南米を中心に世界中を飛び回っていたという。
昔から大衆酒場が大好きで、「いつか自分の店をもちたい」と、50歳で脱サラ。1年半ほど、居酒屋やそば店で修業し、2016年、「やかん」を開店した。
店名の由来について伊藤さんは「僕はラグビーが好きで、昔は頭を打たれたりすると、やかんの水を頭からかけていた。あと、焼酎もやかんで出したかった」と“やかん”への愛着を語る。
実際、店のカウンターに置かれた大きなやかんの中には焼酎が入っていて、そこから注いで提供している。

今でもラグビーを続けているという伊藤さんは「小学生のスクールでコーチをやっています。日曜日も営業しているので、午前中に二子玉川まで行って河原で子供たちとじゃれ合っています。怖いコーチに映っているのかもしれないけど、(子供達から)元気を貰ったりしている」とラグビー愛を話した。
50歳から追いかけた夢の舞台。大衆酒場もラグビーも、全力で楽しむ伊藤さんの姿に元気をもらえる。

本日のお目当て、やかんの「手羽先」。
一口食べた植野さんは「手羽先のしっとりとした噛み応えとコラーゲンのトロっとした感じが絶妙」と絶賛した。
やかん「手羽先」レシピを紹介する。
