食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「銀だらの西京焼き」。
大井町の和食店「料理屋 幸森」に訪れ、うまみを引き出す白味噌でじっくり焼き上げる一品を紹介。和食一筋25年、地元で店を開いた幸森さんの思いが詰まった、旬の味わいと家庭でも応用できる丁寧な技を学ぶ。
子ども連れでも楽しめる和食のお店
植野食堂でたびたび訪れている、東京品川区大井町駅。沖縄いかすみ焼きそばを学んだ「かねまん大井店」や、マカロニグラタンを学んだ洋食店「ブルドック」で料理を教えてもらった。
今回は、大井町駅から徒歩10分の場所にある、2020年8月開店の「料理屋 幸森」。

厨房を囲むカウンターと小上がりで座席は最大16人。小上がりは子ども連れでも安心して利用できるようにと、段差を低めに設計している。
「子連れで土鍋ご飯とお刺身と日本酒を楽しめる店」は、2人の子どもを持つ店主ならではのコンセプトだ。
そんな幸森さんは和食一筋25年。毎朝豊洲市場で仕入れる新鮮な魚を使い、今が旬の季節感のある料理を提供している。

日々の仕入れで彩りが変わる「お造り盛り合わせ」や、ふっくらと炊き上げた「土鍋ご飯」に焼き魚や小鉢に水菓子もついた日替わりのランチセット。
夜には酒と一緒に楽しみたいメニューが豊富に用意されている。地元の人たちに愛され、遠方から訪ねる酒好きも多い、町の和食店だ。
刺身包丁は男のロマン
店主の幸森さんは品川区大井で生まれ育った。料理の道に進んだのは、高校生の時にたまたま始めた和食店での接客のアルバイトだった。

「途中板前さんが急にいなくなって、当時の料理長に『調理場でいもの皮でも剝いてこい』と言われて。しばらく剝いていたら料理長に『板前やれば?』と軽く言われて。それで学校辞めて板前になりました」と料理の道を選んだ経緯を語った。
16歳で厳しい職人の世界に飛び込んだ幸森さん。新橋の人気店「魚屋小次朗」などで修業、30代で日本橋の和食店で料理長をつとめ、40歳にして夢だった地元での開店に至った。

そんな幸森さんが和食を選んだのには、もう一つ理由がある。
「包丁が好きで板前やっていると言っても過言ではないぐらい」
自分の誕生日や子供が生まれた時など、節目節目に理由をつけては包丁を買うという幸森さん。その数、実に40本以上もあり、「刺身包丁は男のロマン」と熱く語る。
「今週はこの子、来週のこの子、気分と用途で変えている」とこだわりを話し、中には1本30万円の包丁も。このコレクションに幸森さんいわく、妻は「手は2本しかないのにね…」とあきらめていると苦笑した。
幸森さんのこれからの目標は「子ども連れでも安心して入れる店」だ。和食の魅力を子ども達にも知ってもらいたい。そんな思いで今日も幸森さんは自慢の包丁コレクションで腕をふるっている。

本日のお目当て、幸森の「銀だらの西京焼き」。
一口食べた植野さんは「西京味噌が銀だらの淡白で上質な、綺麗な美味しさを引き立てる」と感動していた。
幸森「銀だらの西京焼き」のレシピを紹介する。