食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「中華風カツ丼」。
横浜・石川町にある広東料理の老舗「旭酒楼」を訪れ、とろとろ卵の餡が揚げたてのトンカツをやさしく包み込む一杯を紹介。3代目、4代目へと受け継がる味と心、そして街の歴史とともに歩んできた一軒の中華料理店の歴史にも迫る。
古き良き広東料理が堪能できる
植野さんがやってきたのは、横浜中華街まで徒歩7分のJR根岸線石川町駅。
中華街以外にも異国情緒を感じる「横浜山手西洋館」といった人気スポットのほか、外国人に親しまれる店が集まり発展してきた歴史を持つ「横浜元町ショッピングストリート」も。洗練された雰囲気が漂い、ショッピングも散策もゆったりと楽しめる。

石川町駅から徒歩3分の場所にあるのが、1910年開店「旭酒楼」。10年前にリニューアルした店内はテーブルとカウンター合わせて30席。

厨房の中心に立つのが3代目店主の林孝雄さんと、息子で4代目・令訓さん。さらに、接客と配膳を担当する女将の敏恵さんに、4代目の妹・里奈さん、家族4人で切り盛りしている。中国のことわざ「食は広州にあり」を体現するような、古き良き広東料理が楽しめる店だ。
喜んでほしい気持ちから増えたメニュー
「旭酒楼」の創業者は、初代店主でもある初代店主、譚文旭(たん・ぶんきょく)さん。孝雄さんの「親の親」にあたる。

初代が中国から来日し、店を開いたのが始まりで、そこから家族代々、受け継いできた。「今とメニューは違いましたか?」と植野さんが聞くと、孝雄さんは「全然違う。本当にスタンダードの町中華。炒飯・焼きそば・サンマーメン・五目そば…その程度でした」と振り返った。
味は抜群でも品数が少なかった「旭酒楼」。
「喜んでほしい」という気持ちから、客の声に応え続けた結果、気づけばメニューがどんどん広がり、3代目・孝雄さんの代でメニューは100種類以上にも増えた。

そんなある日、常連客から「大将!カツ丼ってないの?」と聞かれたそう。こうして生まれたのが中華風カツ丼だった。
「3代目の後を今、4代目が継ごうとされているわけですよね?」と植野さんが尋ねる。

すると、4代目の令訓さんは「ずっとアイスホッケーをやっていて、アイスホッケーで上の世界を目指したいと思っていました」と語る。幼少期から打ち込んできたアイスホッケーの道を志し、カナダの強豪校へ留学したが、夢破れて帰ってきた。

夢に区切りをつけ、日本へ帰国したあと中国料理店で修業を積み、28歳の時に4代目として「旭酒楼」に戻ってきた。そんな4代目も、父の精神を受け継ぎ、客が食べたいと思うものを提供し、喜んで欲しいという思いで厨房に立っている。

本日のお目当て、旭酒楼の「中華風カツ丼」。
一口食べた植野さんは「中華スープのベースとごま油の香りでカツ丼よりもコクがある、カツ丼だけど全然違う。見た目はカツ丼なのでそのイメージで食べると口の中で『あれっ?』って感じがするけど、全体がまとまっていてジワジワきますね。これは初めての味わいです」と絶賛していた。

旭酒楼「中華風カツ丼」レシピを紹介する。
