故人の御霊を乗せた精霊船には、それぞれの人生が色濃く映し出される。59歳でこの世を去ったサーフィン愛好家の夫を見送る妻の思いに迫る。
サーフィンを愛した夫
「波に乗って帰ってもらうようにと思って、この船を作りました」

白と青の波模様で彩られた精霊船には、亡き夫のサーフボードが乗せられていた。

サーフィンが大好きだった入江浩之(59)さんの船だ。

「優しかったですね。ちょっとせっかちだったけど、何でも段取りを踏んでする。私がぼーっとしてるので。彼がいるから大丈夫と思える人だった。今思えば頼っていたんでしょうね」と話すのは、妻の香さん。
妻の言葉からは、几帳面で頼りがいのあった夫の姿が映し出される。

生活の中心がサーフィンだった入江さんは、毎日午後4時に波情報をチェック。いい波が来ると朝から海に行って波乗りをしてそれから会社に行くなどした生活だった。色々な場所でサーフィンを楽しみ、59歳でもがっしりした体格を保っていた。

マチュピチュへの旅行や、ハワイでの家族写真。思い出の写真には、夫婦の絆が詰まっている。
「もうちょっと一緒に生きたかった」と香さん。まだ寂しさが残る中、四十九日までの手続きや精霊船作りなど何かしら考え続けることで日々を過ごしてきた。

香さんひとりで小さい船を流そうと思っていたところ、地元のサーフィン仲間が船作りを手伝ってくれた。

船の上にはサーフボード、みよしの飾りの造花も白と青で波模様に。船全体が海や波をイメージしたものになった。

香さんは精霊船を見つめながら「波に乗ってお浄土に帰ってくれたらいいな」と語り、夫を見送った。
父にできなかった恩返しは母に
大きな白い造花が印象的な精霊船。

長崎魚市で30年以上勤務した田中武義さん(83)の精霊船だ。

妻のカツ子さんは、今でも武義さんと一緒にいる感じでいつも写真に話しかけているという。
「お盆が来て精霊船を出したら本当に1人になるような気になって。精霊船に乗って遠いところに行ってしまったねって思う」と寂しい気持ちを語った。

仕事をしているより、帰ってきてお酒を飲んで楽しそうに相撲を見ている父の印象が強いと語るのは息子の光さん。「お酒があまり飲めず、数える程度しか晩酌してあげられなかったのが心残りだ」と話す。
しかしその分、母に恩返しをすると決めているので、父には安心してもらいたいという気持ちを船に込めた。

カツ子さんは「お父さんに対しての気持ちはありがとうの気持ちでいっぱい」と話す。
「みんな元気で過ごさせてもらったし、今日はこんなことがあったって話しかけながら、やっぱ最後にありがとうしかない。」と、船を送った。
(テレビ長崎)