14.9歳。現在、ペットとして飼われている犬の平均寿命だ。ペットの長寿化が進むなか、老犬を支える施設の取り組みを取材した。
年齢が10歳を超えるシニア犬
福岡・宗像市にある1軒の建物。中に入るとたくさんの犬が出迎えてくれる。

老犬を預かる老犬介護ホーム『Azul』。この部屋にいる犬たちの殆どは、年齢が10歳を超えるシニア犬なのだ。飼い主から預かった高齢の犬を24時間体制で食事や介護などの世話をしている。

施設の代表をつとめる小野洋子さんは、2016年に福岡・古賀市で『Azul』を立ち上げ、これまでに300匹以上の老犬を世話してきた

以前から犬の保護やセラピードッグ活動などに取り組んできた小野さんだが、下半身不随の老犬を引き取ったことを機に「老犬を介護する施設をつくりたい」と考えるようになったという。

「いろんな事情を抱えている子たちに、だんだん触れていって『他に何かできないかな』と思ったのも老犬ホームを作ったきっかけ」と小野さんは話す。

どの犬も介護が欠かせず、つきっきりのケアが必要とされる。「飼い主さんにとっては“大切な家族”なんですよね。12年とか16年とかの思いが詰まった子を預かるので、こちらもとにかく飼い主さんの気持ちに寄り添って預かる」というのだ。
深刻な犬と人間の“老々介護”問題
預けられる理由は、さまざま。特に多いのが、飼い主が闘病中であること。そして飼い主が施設に入られていることだという。「高齢な飼い主さんが多い。8割方は高齢の飼い主さんなので、65歳以上という人が多い」。高齢犬の飼い主もまた高齢なのだ。犬と人間の間にもいわゆる『老老介護』問題が横たわっている。

ペット保険会社の調査によると65歳以上の高齢者が、7歳以上のシニア犬を介護している割合は、全体の13%余り。

また「介護が必要になったとき、頼れる人がいない」と回答した人が40%近くにのぼっている。

飼い犬の平均寿命は、2024年時点で、14.9歳。飼い始めた当初は、お互い元気でも、年月とともに飼い主と犬の介護が重なるケースが増えている。

こうした『老老介護』問題の相談は福岡市の動物愛護管理センターにも寄せられている。愛護センターの吉栁善弘さんは「高齢者の人から『飼えなくなった』『入院するから』『施設に入るから』ということで、引き取りの相談というのはよくある」と話す。

愛護センターでは、2024年度に受けた10件の収容依頼のうち、半数以上の6件が『飼い主の病気』によるもの。その多くがシニア犬で、持病を抱えているケースも少なくない。
『看取りボランティア』として
愛護センターも危機感を強める人と犬の『老老介護』問題。『Azul』では、そんな犬たちの受け皿となるための活動も行っている。それは『看取りボランティア』。施設の立ち上げ当初より行っている。動物愛護センターなどでも譲渡が難しいシニア犬をボランティアで引き取り、最期まで世話をするのだ。

小野さんは「手がかかる。時間がかかる。お金がかかる。なおかつケアが難しい。里親に託すにはなかなか難しい子たち」だと話す。

足を悪くし、田んぼの畔道に置き去りにされていた犬。飼い主が亡くなって行き場を失った犬。小野さんはこれまで『看取りボランティア』として30匹の犬を引き取っている。
「飼い主がいる子であっても、看取りの子であっても、亡くなることに関しては平等なんです。死に関しては。そのときまでに、この子たちにとって毎日毎日が楽しい時間であること。それをサポートできるようなことを与えたい」と小野さんは犬たちを見詰める。
「置いて帰るときは泣きながら帰った」
『Azul』では月に1度、一般の人たちに施設を開放している。以前、飼い犬を預けていた人たちもよく訪れるそうだ。犬を預けた家族(親子)が取材に応じ、預けた当時の複雑な心境を語ってくれた。「本当はできることなら最期まで自分で看取りたかった。今でも、やっぱりだめですね…」と飼い主は目頭を押さえた。

8年前『Azul』に預けられた、ゆきちゃん(当時14歳)。高齢の母親と2人でつきっきりの介護をしていた。

そうしたなか、母親が体調を崩したことなどもあって『Azul』へ預けることに決めたという。「本当、老老介護です。辛いって言ったら、ゆきに申し訳ないけど、最期は辛かった」と飼い主は話す。

これ以上、家での介護は難しく、『Azul』に預けたものの苦しい決断だったと話す。「不安…、置いて帰るときは泣きながら帰った」と飼い主は話す。

『Azul』でも家族と同じ愛情を注いでもらったゆきちゃん。預けられて約1ヶ月半後に息を引き取った。

小野さんは「何か困ったときに『預かって下さい』って言って、安心して預けられる施設であれば、同時に自分が年をとったときに困らないシステムができればいいかなと思っている」と話す。

飼い主と犬が、最期まで幸せに過ごせるように。小野さんの活動はこれからも続く。
(テレビ西日本)
