食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

植野さんが紹介するのは「ピーマン餃子」。東京・国領駅近くの住宅街にある、手作り餃子の店「吉春」」を訪れ、豚肉のうまみとピーマンの爽やかな清涼感が絶妙にマッチした一品を紹介。中国・吉林省出身の姉弟が切り盛りする、本場中国の職人技を学ぶ。

遠方からも訪れる国領の小さな名店

植野さんがやってきたのは国領駅。京王線で新宿から30分ほどで、調布市の中央部に位置し、駅前には商業施設が充実。大通りにはマンションが立ち並ぶが、少し離れると閑静な住宅街が広がっている。

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近くには多摩川も流れ、公園の緑も多い利便性と住みやすさが両立した街だ。そんな国領の住宅街にありながら、わざわざ遠方から訪れる人も多い、町の小さな名店が2020年に開店した手作り餃子の店「吉春」。

職人の手さばきが楽しめるようにカウンター10席のみで、じっくり餃子と向き合える空間が広がっている。

特徴は中国式手作り餃子

店を切り盛りするのは、中国・吉林省出身の姉弟2人。残留孤児だった母親を追って30年前に来日した。主に仕込みを担当するのが、姉の吉村千恵子さん。小麦粉料理、特に餃子や焼売などの点心や麺類を専門に作る中国における調理師の国家資格「麺点師」の資格を持つ。

そして、飲食店で働いていた経験をいかし、調理を担当しているのが弟の隆一さん。

この店の最大の特徴は、注文が入ってから皮を伸ばして餡を包む日本では珍しいスタイル。理由は餡の水気が皮に移り、皮の味が損なわれないようにするためで、中国では一般的だという。

生地は北海道産の小麦粉を3種類ブレンドし、塩で味付け。一晩寝かせることでモチモチの生地に仕上げている。

餃子は基本にんにく不使用で、材料は地元・調布市の野菜をはじめ国産。定番の焼き餃子や水餃子のほか、トウモロコシやきゅうりなど、旬の食材を使った期間限定餃子まで常時13から14種類の餃子がラインナップされている。

さらに、豆腐を圧縮して水分を抜き麺状にした「干豆腐糸の水菜和え」や、自家製のピリ辛だれがかかった「よだれ鶏」など、餃子を待っている間も楽しめる前菜や副菜も充実。訪れるたびに餃子の新たな魅力に出会える店だ。

きっかけは祭りで出した「餃子の屋台」

開店のきっかけを聞かれてた千恵子さんは「夏の盆踊りに誘われて毎年、餃子の屋台を出した」ことだと説明。その時、餃子の味が好評で、お店を開くように勧められたという。

お店をやりたい夢は千恵子さんもずっとあり、弟もまた店をやりたかったことから、餃子専門店を開店した。

故郷の吉林省で餃子は家庭料理で、特に水餃子が定番。そのため、「最初は“水餃子専門店”をやりたかった」と千恵子さん。

しかし、周りの客からは「焼き餃子が好きです」と言われたことから、焼き餃子も出すことに。

また、水餃子に馴染みのない日本人客からも千恵子さんの水餃子はとっても好評だったため、「もっと水餃子の魅力を広めたい」と、日本の旬を取り入れた水餃子にチャレンジしている。

次に挑戦してみたいのは“魚餃子”。餃子の未知なる世界を探求する吉春。次はどんな餃子が誕生するのか楽しみだ。

本日のお目当て、吉春の「ピーマン餃子」。 

一口食べた植野さんは「ピーマンの青臭さは無くシャキシャキ食感と軽い青みが豚肉と合う」と感動。 

吉春「ピーマン餃子」のレシピを紹介する。