品質の良さから高い評価を得ているクラウンメロンだが、実は今”ある危機”に瀕していることをご存知だろうか?

人気の高級フルーツ「クラウンメロン」

静岡県が誇る特産品の1つクラウンメロン。

袋井市を中心に主に県西部で栽培されている。

“クラウン=王冠”という名前の通り品質の高さが自慢で、今や国内のみならずアメリカやイギリスなど10を超える国と地域に輸出されている。

インタビューに答える人(袋井市内)
インタビューに答える人(袋井市内)
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生産が盛んな地域でクラウンメロンについて話を聞くと「食べた瞬間に広がる上品な感じ」といった声や「誇り。子供の頃からあるから、あるのが当たり前」といった感想など、みな地元の逸品を誇らしく思っているようだ。

高級メロンとして確かな地位を確立しているクラウンメロン。

しかし、実はいま、ある深刻な問題を抱えている。

県温室農協クラウンメロン支所の鈴木陽介 事務長が「生産者が毎年減少傾向にある。そうなってくると産地として発展が難しい」と嘆く通り、かつては850人いた生産者も1970年代をピークに減少が続き、今では200人ほどになってしまった。

クラウンメロンの生産者数
クラウンメロンの生産者数

誇れる仕事がしたかった

磐田市でメロンを育てる須山弘明さん(44)。

クラウンメロンの世界では実に33年ぶりとなる新規就農者で、「おいしいメロンを食べてもらって喜んでもらえる。すごく誇れる仕事だと思った。1玉1玉、愛情を込めて育てられるところが、すごくしっくりきた。職人のような仕事がしたかった」と話す。

静岡大学の農学部で学ぶなど農業に興味はあったものの、卒業後は広告会社で営業の仕事に就いたが、農業への思いを捨てきれず40歳にして一念発起し、13年働いた会社を退職した。

そして、3年に及ぶ研修を経て2025年4月に独立。

現在はひとりの農家としてメロンに向き合っているが、「いかに良いメロンを安定して作るか。天気によって水の量を変えなければいけない。そこを掴んでいくのがすごく難しいけれど、よくできた時に手応えを感じながら日々過ごしている」と、まだまだ試行錯誤が続いている。

過大な初期投資が参入の障壁に

それにしてもなぜ四半世紀以上もの間、新規就農者が現れなかったのか?

それは昨今の物価高にともなう資材の高騰はもちろんのこと、一番の理由は多額の初期投資が必要だからだ。

県温室農協クラウンメロン支所の鈴木事務長は「露地栽培と違って専用の温室、ガラス製の特別な構造の温室が必要で、それ以外にも1年中作るとなると、冬場は温室を温めるために燃料を使う。生産するためのコストがかかってしまう」と説明する。

メロン栽培をするためのハウスを建てるには1棟あたり少なくとも1200万円以上が必要で、さらに専業の農家として成り立たせるためには平均で8棟の温室が必要と言われており、ボイラー設備なども整えると投資は1億円を超える額となる。

ハウス内で作業をする須山さん
ハウス内で作業をする須山さん

こうした中、須山さんは高齢のためす引退した元農家を紹介してもらい、ハウスを借りることができたため初期投資の大幅な圧縮ができた。

ただ、施設は立派でも品質の高いメロンを供給し続けなければ農家として生計を立てることができないため、日々メロンと向き合いながら勉強する毎日だ。

太いネット(網目)が入ったメロン
太いネット(網目)が入ったメロン

33年ぶりの新人が感じる思い

7月からはいよいよ初めての出荷も始まり、この日は3回目の収穫作業の日。

須山さんと横井さん
須山さんと横井さん

元クラウンメロン農家で須山さんにハウスを貸している横井義明さんも「一生懸命やっているので、メロンも良くなってきた。夏場暑いけれど頑張ってやってもらいたい」と背中を押す。

生産者番号は「986」。

須山さんは自分の名前と番号が記された箱を前に喜びと同時に責任感も感じている様子で、「メロンを最初から最後まで自分の手で作って自分の名前で出荷したいというのが、1つの目標というか夢だったので、それが達成できてすごく嬉しい。クラウンメロンの組合員が築いてきてくれたブランドを外から入ってきた自分が汚すわけにはいかない。きちんとしたメロンを送り出したいという責任感が強くなってきている」と口にした。

誕生から100年以上の歴史を持つクラウンメロン。

須山さんのクラウンメロン
須山さんのクラウンメロン

品質の高さを将来へとつなぎ、国内外の需要に応え続けるためにも新たな担い手を増やすことは急務だ。

それだけに須山さんがそのロールモデルとなるのかに注目が集まっている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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