食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

植野さんが紹介するのは「ロゼッタ」。目黒にあるイタリア料理店「トラットリア・チャオロ」を訪れ、手打ちパスタでプロシュートコットを包み、軽やかでクリーミーなベシャメルソースが絡むラザニアの一種を紹介。

現地で腕を磨いたオーナーシェフの感性が光る、毎日食べても飽きない素朴であたたかな味を追求するシェフの思いにも迫る。

坂の町「目黒」のイタリア料理店

植野さんがやってきたのは、JR目黒駅。例年、秋に開催される「さんま祭り」では、宮城県気仙沼で獲れた新鮮なさんまが無料で振る舞われる。

そんな目黒は“坂の町”という側面も。傾斜が特にきつい「行人坂」、晴れた日には富士山がきれいに見える「東京富士見坂」など、町のあちこちに坂がある。

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なかでも有名な「権之助坂」は、飲食店が約8割を占める人気エリアで、ラーメン店をはじめ多彩なお店が軒を連ねている。

今回の店は、以前餃子を頂いた「中国酒家 辰春」や、タコライスを学んだ「草花木果」、手羽先唐揚げを学んだ「銀角」などの近く。JR目黒駅から徒歩5分にあるビルの地下一階にある。

イタリアのおふくろの味を届けたい

イタリア料理店「トラットリア・チャオロ」の店名に付いているトラットリアとは、イタリア語で「大衆食堂」を意味する。そして、チャオロは親しい仲での挨拶「チャオ」から名付けたという。

店の外にもテーブル席があるほか、ワイン片手にキッチン前で立ち飲みができたりするなど、かしこまらずカジュアルに楽しめる。

オーナーシェフはイタリアで2年半修業した金箱友樹さん。現地で感銘を受けた“お袋の味を届けたい”という思いで店をはじめた。

水牛のモッツァレラチーズ「ボッコンチーノ」の温かいカプレーゼや、濃厚な旨みが層になった熱々でとろける「ラザニア」、メカジキの旨味をサクサク衣で閉じ込めたパン粉焼きなど、本場で学んだ腕によりをかけた料理が充実している。陽気で暖かな雰囲気の中、イタリア気分が味わえる店だ。

息子同然に可愛がってくれたマンマのロゼッタ

開店の経緯について、金箱さんは「もともと高校時代から温泉旅館で働いていて、和食をやっていました。19歳の時にお金を貯めてイタリア旅行に行きました。そこで“バチッ”とイタリアンに目覚めて。自分としても人柄や雰囲気がイタリアンの空気感が合うなと思った」と振り返る。

チャオロの味の原点となったのが、イタリアで最初に修業した90歳のマンマがいた店。マンマが作ってくれた一杯のスープを飲んだ時に、素朴ながら体中に浸みわたるような優しい味わいに感動。それ以来、毎日食べても美味しいイタリアの家庭料理を目指し精進しているそう。

今回教えてもらったロゼッタも、忘れられないもう一人のマンマの味。帰国前の1年間、住み込みで働き、息子のように金箱さんを可愛がってくれたという。そして、日本へ帰ることになった金箱さんにマンマが 「帰るんだったらロゼッタを名物料理にしなさい」と言ったという。

こうして、チャオロの名物メニューが誕生した。

そんな金箱さんには大事にしているモットーがある。

「料理は人なり。(店に)入ってきた時、現代人は疲れ切っているけど、出ていくときにはみんな笑顔になって欲しい。そのためには僕たち働いている人が常に笑顔で元気よく真面目に仕事をする」

料理の味と同じくらい、元気の出る店づくりを大事にしている金箱さん。チャオロが愛される理由は、そこにもある。

本日のお目当て、トラットリア・チャオロの「ロゼッタ」。 

一口食べた植野さんは「コット(加熱ハム)の歯ごたえと深い旨味がソースと合わさって口の中で融合。ベシャメルソースも重くないが味はしっかりしている」と絶賛していた。 

トラットリア・チャオロ「ロゼッタ」のレシピを紹介する。