2024年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。受賞は被爆者の長年の運動に光を当てると共に、今の世界に警鐘を鳴らしている。この夏、ノーベル委員長が初めて被爆地・長崎を訪問し、被爆から80年となるこの時に被爆者の声を聞く必要性を訴えた。

「長崎を訪ね、心揺さぶられる思いがした」

長崎に原爆が投下された8月9日を前に、ノーベル平和賞の受賞者を選考するノルウェー・ノーベル委員会のフリードネス委員長が長崎の被爆者を訪ねた。

被爆者を訪ねるフリードネス委員長
被爆者を訪ねるフリードネス委員長
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委員会が受賞者の母国を訪問するのは初めてのことだ。

フリードネス委員長は原爆落下中心碑に献花した
フリードネス委員長は原爆落下中心碑に献花した

フリードネス委員長は、「長崎を訪ね、心揺さぶられるような思いがした。今年は原爆投下から80年の節目。より世界の注目を長崎に寄せ、被爆者の声を聞く一助になれば」と語った。

フリードネス委員長と会談する日本被団協の田中重光さん
フリードネス委員長と会談する日本被団協の田中重光さん

日本被団協代表委員の田中重光さん(84)は「“二度と被爆者をつくらない”ということで会をつくって69年間闘ってきた。ノーベル平和賞という大きな賞をもらったことが励ましになっている」と喜びを語った。

受賞後に浮き彫りとなった被団協の「課題」

日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)は原爆投下から11年後の1956年に結成して以来、国の内外に向けて核兵器の非人道性や核兵器の廃絶を訴え続けてきた。その活動が評価され、ノーベル平和賞を受賞した。受賞後は被爆講話の依頼が増え、受賞による反響は大きかった。

事務局長を退任した木戸季市さん(右から3番目)
事務局長を退任した木戸季市さん(右から3番目)

しかし、5歳で被爆し、2017年から事務局長を務めた木戸季市(すえいち)さん(85)が健康上の理由から6月に退任した。

退任してもなお核廃絶を訴え続ける木戸さん
退任してもなお核廃絶を訴え続ける木戸さん

木戸さんは、「第三次世界大戦が始まっているんじゃないかと考える。“再び被爆者をつくるな”という被団協、被爆者の願いが最も人類を守る運動だ」と語る。

被団協は、今後活動を続けていく中で、「継承」をはじめとする課題が浮き彫りになっている。

受け継がれてきた被爆者の願い

結成から絶え間なく続けられてきた被爆者運動の原点は「長崎」にある。

車椅子で核廃絶運動をつづけた渡辺千恵子さん
車椅子で核廃絶運動をつづけた渡辺千恵子さん

「私にとってはその後のすべてが8月9日に変えられた」と語った渡辺千恵子さんは、長崎で被爆した際、鉄骨に挟まれ下半身不随になりながらも、車椅子生活で核廃絶運動を続けた。

1982年に国連軍縮特別総会に出席し、演説した山口仙二さん
1982年に国連軍縮特別総会に出席し、演説した山口仙二さん

長崎で被爆し顔や上半身に大やけどを負った山口仙二さんは、1982年に国連軍縮特別総会に出席。「ノー・モア・ヒロシマ、ノー・モア・ナガサキ、ノー・モア・ウォー、ノー・モア・ヒバクシャ」と訴え、平和活動に尽力した。

日本被団協50年史「ふたたび被爆者をつくるな」
日本被団協50年史「ふたたび被爆者をつくるな」

被爆者は20代のころから同じ痛みを共有する仲間と集い、支え合ってきた。原爆によって受けた体や心の傷をさらけ出し、きのこ雲の下で何が起きたのか、国の内外で訴え続けてきたのだ。

被爆から80年、全国の被爆者の数は10万人を下回った。

日本被団協 代表理事 横山照子さん
日本被団協 代表理事 横山照子さん

日本被団協代表理事の横山照子さん(84)は、ノーベル平和賞の受賞を一筋の光と感じながらも、残された者としての責任がますます大きくなっていると感じている。

両親と長崎に残された妹の律子さんは、爆心地から約4kmの自宅で被爆。妹は入退院を繰り返し、十分に学校へ行けないまま44歳の若さで亡くなった。横山さんは1972年に日本被団協の中核を担う長崎原爆被災者協議会に入って以来、50年以上、原爆被害を背負って闘う先輩被爆者を間近で見てきた。

故・山口仙二さんにノーベル平和賞受賞を報告する横山さん
故・山口仙二さんにノーベル平和賞受賞を報告する横山さん

「子供たちに自分たちのような思いをしないですむような世界にしたい」と、次の世代に先輩被爆者の思いや活動をつないでいくことが、これからの課題だと強く感じている。

「未来は若者の世界」被爆80年を核廃絶の転換点に

世界ではウクライナに侵攻するロシアが核の脅しをちらつかせ、中東ではイランと事実上の核保有国とされるイスラエルとの緊張も続いている。

「被爆者の声を世界に発信すべき」と訴えるフリードネス委員長
「被爆者の声を世界に発信すべき」と訴えるフリードネス委員長

ノーベル委員会のフリードネス委員長は「新たな核時代が到来している」と警鐘を鳴らす。「被爆者が私たちに体験を語ることができる今こそ、この機会を逃すことなく何が起きたかを学んでいくべきであり、被爆者のメッセージを世界に発信していく機会にしてほしい」と訴えた。

日本被団協の田中熙巳さん
日本被団協の田中熙巳さん

日本被団協代表委員の田中熙巳さん(93)は、「“私はこれから何をしないといけないのか”というふうには受け止められていないような気がする。感動した、というところで終わっちゃっている」と話す。

ノーベル平和賞受賞が終着点ではなく、さらに核廃絶への活動を高めるきっかけとなり、被爆者の思いが次の世代へ受け継がれなければならないと、被団協のメンバーは感じている。

横山照子さん
横山照子さん

横山照子さん(83)未来は若者の世界だと若者にちゃんと分かってもらわなきゃ、そのためには核兵器はどんなに恐ろしいものかを、“自分事”として捉えてもらいたい。

「ノーベル平和賞で終わらせない」。被爆80年に灯った希望の光を長崎から照らしていく。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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