2025年8月1日、映画「長崎―閃光の影で―」が全国で公開される。原爆投下直後の長崎で看護学生らが被爆者の救護に奔走した実話をもとにしたストーリーだ。主題歌は長崎出身の福山雅治さんが自身の曲「クスノキ」をアレンジした。被爆三世の監督、出演者に作品への思いを聞いた。
被爆者救護にあたった看護学生の実話
物語の舞台は1945年、原爆投下で焼け野原になった長崎だ。

看護学校に通う幼なじみの3人が看護学生として負傷者の救護に奔走し、救える命よりも多くの命を葬らなければならないという非情な現実の中で、命の尊さ、そして生きる意味を問い続ける。

菊池日菜子さん(田中スミ役)、小野花梨さん(大野アツ子役)、川床明日香さん(岩永ミサヲ役)の3人が幼なじみの看護学生を演じた。

映画のもとになったのは、被爆から35年後の1980年にまとめられた手記「閃光の影で―原爆被爆者救護赤十字看護婦の手記―」だ。被爆者を救護した看護師や看護学生など51人の証言を、日本赤十字社長崎県支部がまとめた。

映画のメガホンを取った松本准平監督は、長崎県西彼杵郡(にしそのぎぐん)時津町出身。祖父が被爆者の被爆三世だ。「手記を読んだときは、胸が苦しくなるような気持ちだった」と振り返る。「2022年にウクライナ侵攻が始まった。ロシアが核兵器の使用をちらつかせるような場面があって、僕もプロデューサーも『この作品は今作らないといけない』と感じ、その思いに駆られて映画製作に動き出した」と語った。
出演者3人が考えた「今を生きる意味」
映画で看護学生の役を演じた3人の俳優は、「いまを生きる意味」を考えたという。

菊池日菜子さん(田中スミ役):一番印象的だったのは(登場人物の)勝さんに誘われて疎開先に逃げようとするシーン。1人の少女の迷いと人間として生きている姿がその瞬間に詰め込まれているような気がして、あの瞬間は一生忘れない。

救護活動における辛さや痛みを共有する仲間でも、原爆で失ったものや価値観はそれぞれ異なる。1人1人の体験や思いを積み重ね、原爆がもたらしたものを丁寧に描いている。

小野花梨さん(大野アツ子役):17歳ってもっともっと自分のことだけ考えていい、身勝手でいいはずなのに、目の前には遺体があって、明日、誰が死ぬかわからない極限状態の中で幼なじみ3人の会話はとても苦しい。腹の底から出てくるような切実な言葉たちだったし、自分の中でも印象的なシーンの1つだ。

役や作品を通して、戦争や平和への向き合い方にも変化や気付きがあった。

川床明日香さん(岩永ミサヲ役):ミサヲはこの作品の中で「誰かのために何かをする」「何を信じるのか」を考えている。世界が変わってきている中で小さな力ではあるけど、自分が平和を祈り続けること、過去を学び続けることが大切なんだなと思うようになった。
主題歌は福山雅治「クスノキ―閃光の影で―」
主題歌「クスノキ ―閃光の影で―」は、長崎出身の福山雅治さんがプロデュース・ディレクションを担当した。

楽曲の題材は、爆心地から800mの地点で被爆し、枯死寸前となりながらも今なお生き続ける、長崎市の山王神社にある“被爆クスノキ”だ。
松本監督の「祖父たちの被爆体験を受け継ぎ、平和を次世代に伝えたい」というオファーに福山さんが応え、2014年に発表した自身の楽曲「クスノキ」を、映画のために新たにアレンジした。
手記を寄せた95歳の元看護学生も特別出演
映画には松本監督たっての希望で、手記に体験を寄せた95歳の元看護学生・山下フジヱさんが特別出演している。

山下さんは当時15歳。日赤の看護学校がある大阪が空襲を受けたため、8月9日は長崎の自宅に戻っていた。
「11時2分に大きな『バーン』という音と共に音よりも一瞬早く光が走って、家の雨戸や障子が外に飛ばされた」と、当時を振り返る。
原爆投下の約3日後に召集の電報が日赤から届き、臨時の救護所や新興善国民学校で救護活動にあたった。
山下フジヱさん:浴衣を寄付してもらってハサミで切ってつないで包帯の代わりにした。患者の包帯を解くと、肥えたウジがぼろぼろ出てきた。

山下さんはその後も看護師として命に向き合い続け、45年前に当時の体験を手記に寄せた。

「映画でPRしてもらえれば、いかに残酷なことが原爆であったかが分かると思う。原爆だけは作ってはいけない」と山下さんは語る。
映画では、当時の山下さんの思いを、長崎出身の被爆者で歌手・俳優の美輪明宏さんが「語り」として声で体現している。
祖父の形見と共に「平和を考えるきっかけに」
7月、長崎スタジアムシティHAPPINESS ARENA(ハピネスアリーナ)でワールドプレミアが開かれ、約2000人の観客が集まった。

松本監督は祖父の形見のジャケットを着て登場した。祖父から直接、被爆体験を聞くことはできなかった。監督は観客を前に「映画を始めたときにいつか長崎、原爆のことを描きたい、それを通して祖父のことを描きたいと思って、今日この場に立つことができている。祖父と一緒にこの場を見届けられればと思って着てきた」と、思いを明かした。
「核兵器の世界に生きてしまっているわけですから、皆一人一人が当事者で皆一人一人が考えるべき問題だ。この映画で満足してもらっては困る話だけど、これが一つのきっかけになって長崎広島を訪れたり、調べてもらえたらうれしい。一人でも多くの方に年齢問わず見ていただきたい」と語った。

俳優の3人も、ワールドプレミアで一足早く多くの人に映画を観てもらえたことに感激していた様子だった。
小野花梨さん(大野アツ子役):若い方もとても多くいらっしゃっていて、それがとても印象的だった。戦争を知らない世代ですけど、決して無関心なわけではなく、平和への願いや戦争はいけないことだとの思いを持っている。それを改めて確認できたのが私の中では大きな発見だった。
川床明日香さん(岩永ミサヲ役):戦後80年という数字がどんどん大きくなり、かつ世界が色々変わってきている中で、この作品が上映されることはすごく意味のあることだと思った。平和について祈るきっかけの1つになればいいなと思う。

菊池日菜子さん(田中スミ役):私たちが演じた看護学生は17歳。今の青春とはほど遠いような青春を過ごしている。「こう感じてほしい」と強制はしたくないが、それぞれの感性で1945年をどう思うかを自分に問いかけてほしい。

映画「長崎―閃光の影で―」は、長崎ではすでに先行公開されていて、8月1日(金)からは全国で公開される。
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会
(テレビ長崎)