東京都の最深部に位置する奥多摩町。

都会の喧騒を忘れさせる自然美や野生動物など、登山を愛する人たちに高い人気を博し、晩秋の時期は週末に多くの登山客が訪れます。

しかし、登山客にはある不安が…。

登山客:
身内の者は心配していました、やっぱり「大丈夫なのか?」って感じで。クマがね。
奥多摩では、11月29日にも中学校近くでクマが目撃されるなど、クマの目撃情報が多数寄せられています。
『サン!シャイン』は、そんな奥多摩町や青梅市など周辺の山で遭難救助活動を行っている、青梅警察署山岳救助隊に密着。晩秋の山で起きるトラブルを追いました。
登山客にも影響…クマの目撃相次ぐ
青梅警察署山岳救助隊の禰寝大秀(ねしめ・ひろひで)さん。隊員歴16年の大ベテランですが、今年は“ある異変”を感じているといいます。

青梅警察署 山岳救助隊 禰寝大秀隊員:
(登山客は)少なく感じますね。9時の電車だったら、前は紅葉シーズン(登山客が)ドバーッと降りて、私達が声かけられないぐらい来ていたから、少ないですね今シーズンは。やっぱりクマですかね。

全国でクマの被害が相次ぐ中、東京都でもクマの目撃件数は急増。
今年(2025年)は、すでに300件近くの目撃情報が寄せられています。

密着取材中の11月29日にも、子どもたちが通う中学校に近い場所でクマの目撃情報が。

藤岡哲副隊長「この辺ですか?」
警察「ここを降りていったそうです、体長1mぐらい体高が60cmぐらい」

すぐに青梅警察署山岳救助隊が現場にかけつけ、付近に潜んでいる可能性があるため、爆竹を使って追い払います。

追い払った先である川を確認しますが、姿はありませんでした。山に戻っていったのでしょうか…。
禰寝さんが近くの登山道を確認していると、そこにはクマの仕業とみられる表面がえぐり取られた道標が…。

禰寝大秀隊員:
これはひどいな…。この辺、爪の跡っぽくないですか?
(登山客が)どこに向かっているか、分からないですもんね、これじゃあ。道迷いのポイントにもなっちゃうんですよね…。

別の日、クマがいるとみられる山中から重症者の救助要請がありました。
現場は奥多摩駅からほど近い場所、林業の男性が間伐の作業中に事故が起きてけがをしたといいます。

登山道ではなく、切り立った崖すれすれの場所を進み救助に向かう山岳救助隊。
現場に到着すると力なく横たわる男性の姿が…。

禰寝隊員「背中ね、背中触りますよ」
けがをした男性「そこが痛い」
禰寝隊員「脊損だな…。間伐中に倒木にぶつかった?木が倒れて自分にぶつかった?」
けがをした男性「上にはねて、背中にぶつかった」

背中が痛いと訴える男性。伐採中に予期しない方向に木が倒れ、体に直撃したといいます。

脊椎を損傷している可能性があるため、ヘリコプターでの救助を要請。周囲に樹木がない開けた場所まで、男性を移動させます。

発炎筒を炊いて、駆けつけた東京消防庁の航空隊ヘリを誘導し、無事、男性は青梅市内の病院に搬送されました。

背骨を骨折する重傷でしたが、命に別状はなかったといいます。

禰寝大秀隊員:
林業の伐採の事故にあっては、この秋から冬にかけて木が乾燥した時期ですね、この時期にみられる間伐・伐採なんですけど。その時、たまたま難しい木があって、それを切った時にはねた(ことによる)けがになると思います。
緊張感から解放され、一息つく隊員たち。しかし、ほっとしたのもつかの間…。

隊員「ラクラクラク!!!危な!怖っ!」

突然、隊員たちのすぐそばに30cmを超える石が転がり落ちてきました。
動物の仕業なのか…、大事には至りませんでしたが、現場に緊張が走りました。
ライト持たず入山 下山できなくなった親子
すっかり日が沈んだ午後6時、山中から遭難の通報が入りました。

遭難したのは親子3人の登山客。
なんとか電話がつながったので、隊員が「どちらの方向に向かったか」を尋ねると、外国人なのか少し片言の日本語で、「川苔山からJR鳩ノ巣駅に向かっている途中だった」と答えます。
午後7時、隊員たちが登山道の入り口に到着する頃には、あたりは完全に真っ暗になっていました。

隊員「(遭難者は)ライトは全員持ってない。あと笛も持ってないから、こっちがどんどん呼びかけるしかない」

遭難者3人はいずれもヘッドライトや笛などは所持しておらず、身動きが取れない状態だといいます。
遭難者の位置が特定できない中、念のため、クマスプレーや爆竹などを準備、リュックにはクマよけの鈴を付けて、クマを警戒しながら午後7時すぎ、入山を開始します。

藤岡副隊長「クマいるか?いないことはないか…」
入山してから約30分。大声で遭難者の名前を呼んでみますが、返事はありません。
山からはうっすらと動物の声が聞こえ、道には動物の排せつ物が落ちています。
藤岡副隊長「動物の声かな…何かがいるな」
入山開始から約1時間。捜索を続ける隊員の目に飛び込んできたのは、ほんの一瞬光った小さな光。

再び大声で遭難者の名前を呼びかけると、「はい」と遠くから声が聞こえてきました。

藤岡副隊長「待ってて!」
遭難者「分かりました」
声が聞こえた場所から登ること10分。ついに遭難者を発見しました。

禰寝隊員「動かないで、動かないで。山岳救助隊です、寒かったですね」
遭難者「ありがとうございます」
藤岡副隊長「ケガは?痛いところない?」

急斜面の登山道で立ち尽くしていたのは、外国籍の夫婦とその娘の3人。
この日、昼前に登山を開始した3人は、日没までに下山することができず、動けなくなったといいます。

午後8時半、3人にヘッドライトを着け下山を開始、下山中もクマを警戒します。
1時間半かけて山を下り、無事に登山口まで戻ることができました。

遭難者:
下りてくるところが大変だったことが、想像外になりました。本当に迷惑をおかけました すみませんでした。
クマの目撃情報が相次ぎ、遭難救助の現場もさまざまな影響を受けた奥多摩。

禰寝大秀隊員:
まずハプニング・事故でもあったら遠慮なく110番していただきたいと思います。
(山に入る際は)クマ鈴だったり、クマスプレーを持ち歩いていただいて、計画ももちろんですが、事前の準備を登山者の方は大事にしてもらいたいと思います。
(「サン!シャイン」 12月22日放送)
