男性同士のホモソーシャルなコミュニティのなかでは、一体感や絆を深め合うために女性をモノのように扱うことで「男らしさ」をアピールする言動がしばしば見られます。
この加害生徒の盗撮のような違法行為に及ばなくても、女性を路上でナンパする、会社で上司とキャバクラや性風俗に連れ立っていく…などバリエーションはさまざまです。

形は違えど、いずれも女性を性的に消費することで、「自分たちは性的に搾取される側ではなく支配する側なんだ」と示すことができる点は共通していますし、盗撮をした男子生徒の場合も、「有害な男らしさ」に過剰適応した末の犯行だったといえます。
さらに最近では学校内で盗撮した画像や動画を生成AIを用いて加工し、それを転売するという悪質なディープフェイクポルノ事案の報告も現場では耳にします。現代の盗撮はデジタル型性犯罪の最前線であり、日本社会の縮図であるともいえます。
「性的同意」を知らない加害少年
性非行に限らず、未成年者が犯罪行為に走った場合は、その罪を罰するのではなく「どう立ち直らせるか」という点に力が置かれます。
私も非行少年に対して、少年鑑別所に出向いて司法サポートプログラム(刑事手続の入口段階で早期介入し、その後のプログラムの道筋をつくるアプローチ)を実施することもありますし、在宅での捜査の場合は、通院によるプログラムを行うこともあります。
プログラムを行うなかでは、「性的同意という言葉をはじめて聞いた」という少年がとても多いことに驚きました。
性的同意とは、セックスだけでなく、手をつなぐ、ハグやキスなどすべての性的な行為の際に、お互いが積極的に望んでいるかの気持ちを確認することです。
人にはそれぞれ「これはいい」「ここからはダメ」といった境界線(バウンダリー)があります。
性的な行為をする際には、相手がどこまで同意をしているのか聞くことは最重要事項ですし、自分と相手の身体を大切にするためにも、相手がやめてほしいと言ったら「そうなんだね」とその言葉を受け入れることが性的同意の基本原則です。
このように性的同意にはグラデーションがあり、連続したコミュニケーションとしての理解が重要です。
私がこのような性的同意の概念について説明すると、「もっと早い段階で正しい知識を学んでいたら、加害行為はしなかったかもしれない」と話す加害少年もいました。
2023年には文科省主導で「生命(いのち)の安全教育」が全国の学校で始まりました。
幼児や小学校低学年ではプライベートゾーンの概念、高学年ではSNSの使い方、さらに中学校・高校では性暴力やデートDV、性的同意なども扱います。これは性暴力の加害者にも被害者にも傍観者にもならないための取り組みとしては一歩前進といえます。
しかし、そもそも文科省が学校で教える内容を示す学習指導要領には、「妊娠の過程は取り扱わない」とする、いわゆる「歯止め規定」があります。そのため、なかなか学校では性交や妊娠について教えられないという足かせがあるのが現実です。

斉藤章佳
精神保健福祉士・社会福祉士。西川口榎本クリニック副院長。専門は加害者臨床で、現在までに3000人以上の性犯罪者の治療に関わる。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病』(ブックマン社)、『セックス依存症』『子どもへの性加害』(ともに幻冬舎新書)、『男尊女卑依存症社会』(亜紀書房)などがある。