どんな年齢であっても子どもが罪を犯すと、「親の育て方が悪い」とたびたび言われることがある。

ソーシャルワーカーとして、1000人を超える性犯罪者の加害者家族と向き合ってきた、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは、特にその言葉が向けられる矛先は「母親」に多いという。

性犯罪事件の加害者家族の“生き地獄”と再生に迫った、著書『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)から、性加害者の母親を追い詰める「子育て自己責任論」が、司法の場にも及んでいることについて一部抜粋・再編集して紹介する。

親の育て方と子の加害行為は関連しない

性加害者の親を追い詰めるのが「子育て自己責任論」です。

加害者家族に対して、しばしば「親の育て方が悪かったのでは」「親が気づいていないわけがない」という言葉が容赦なく浴びせられます。子どもが罪を犯したのは親の育て方に原因がある、と責める論調を子育て自己責任論と呼びます。

子育ての責任は母親が責められやすい(画像:イメージ)
子育ての責任は母親が責められやすい(画像:イメージ)
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たしかに躾(しつけ)やマナーの文脈では、「最近の若者はマナーがなっとらん。親の顔が見たいもんだ」と語る年配者もいますが、そもそも親と子は別個の独立した存在です。そして親の育て方と、子どもの加害行為との直接的な相関関係を示すエビデンス(証拠)は存在しません。

過去にクリニックで行った盗撮加害者521人を対象にした調査では、8割以上が原家族(自分が生まれ育った家族)に機能不全は「なかった」と回答しています。つまり彼らの多くは、ごく普通の家族に生まれ育ち、親から比較的愛情を受けて育ったというわけです。

この子育て自己責任論は、とくに母親を追い詰めます。世間が母親を責めるだけでなく、母親自身が「自分の育て方が間違っていたのでは…?」という価値観を内面化させていることが少なくないからです。

初診時には、父親は他人事のような態度で事件や裁判についてほぼ関与せず、母親たちがひとりで悩み、苦しんでいる様子が目立ちます。