コロナの流行前まで「Zoom」という名前すら知られていなかったツールが、今では当たり前になるなど、近年の環境変化は激しくなっている。

十数年のうちに起きる変化も予想が難しく「今の自分を良しとしている成功者ほど、対処法を誤り、痛手を負う確率が高い」と、親の成功体験が子どもを不幸に陥れる可能性を指摘する。

こうした考えを提示するのは、進学塾VAMOS(バモス)代表の富永雄輔さん。

著書『AIに潰されない「頭のいい子」の育て方』(幻冬舎新書)から、子どもの未来を支える上で、親の認識が変わらない危うさについて一部抜粋・再編集して紹介する。

変化めまぐるしい時代、確実さはリスク

私が経営している塾の子どもたちを見ていると、幼いなりに彼らは「変わりゆく世界」にしっかりついて行っています。

特別な説明を受けるまでもなく、彼らにとって世の中はどんどん変化するのが当たり前であって、確実なものなどありません。

現に、今の時代についてVUCAという言葉で語られるのを聞いたことのある人も多いでしょう。

VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。

変化がめまぐるしく、未来の予測が困難で「正解」の見えない時代であることを、一言で表しています。

問題は親世代です。

今、価値のある仕事はAIに淘汰されないのか?(画像:イメージ)
今、価値のある仕事はAIに淘汰されないのか?(画像:イメージ)
この記事の画像(5枚)

世の中は変化することを理解しつつも、「だからこそ、変化に負けない確実な職業を」などと考えている人が多いのです。

とくに、50歳近くともなると、弁護士だったり、公認会計士だったり、大企業の役員クラスに上り詰めているような人だったりは、同窓会に行けば「確実な仕事に就いている成功者」として扱われているはずです。

つまり、遠からずAIに淘汰(とうた)されてしまう職業にもかかわらず、いまだに「価値のある仕事」と思っているし、思われているわけです。

しかし、確実な道を歩もうとすることは、これからの時代、崩れゆく崖を歩くのと同じで、リスク以外のなにものでもありません。

価値観の古さが我が子をミスリードする

にもかかわらず、まだ30代であっても、そうした発想転換ができていない人がたくさん見受けられます。

彼らは、子どもたちが鋭い肌感覚で進もうとしているのに、その道を理解できず、自分の価値観の古さに気づかず、良かれと思って我が子をミスリードしてしまいます。

私の塾では、親子揃っての面談をよく行います。加えて、子ども本人とだけ話すこともあるし、親からの相談を受けることもあります。

要するに、子どもたちの傾向と親たちの傾向の両方がわかっています。

“わかっている親”だけが先を走っている(画像:イメージ)
“わかっている親”だけが先を走っている(画像:イメージ)

そうした経験を通して強く感じるのは、「一部の“わかっている親”だけが、相当先を走っている」ということです。

大半の親は、我が子の将来どころか、今はそこそこ稼げている自分の数年後がとんでもないことになっている可能性についてさえも、大甘な認識しか持っていません。

一方で、かなり鋭い親はすでに動き始めており、結果的に、子どもたちに大きな格差がついてしまうだろうと思えるのです。

ユーチューバーになりたいと言ったら?

ユーチューバーなる若者が登場し、「なんだそりゃ」と半分バカにして見ていたら、我が子が「将来はユーチューバーになりたい」と本気で言い出した。

今“ちゃんと稼げている親”としては、さぞかし心配なことでしょう。

みなさん親世代は、誰でも知っている職業や、誰でも知っている会社に大きな価値を見いだしてきました。そうでなくとも、小さな会社を選んだり独立したことのある人は、その先にでっかい目標を掲げていたのではありませんか?

少なくとも、自分で撮影した映像をインターネット上で公開することなど、到底仕事とは捉えてなかったはずです。

もしかしたら、「そんなことは、まともに仕事に就けなかったやつが暇つぶしでやっているんだ」などと考えていたかもしれません。

今、成功している親こそ問われている

しかし、子どもたちの頭の中にある仕事のイメージは、親世代とはすっかり異なっています。

20年くらい前までは、はっきりとした姿の見えないインターネットの世界はリスキーなものだと思われていました。ところが、GAFA(Google・Apple・Facebook<現Meta>・Amazon)の存在が、そうしたイメージをすっかり変えました。