中学受験に合格する子どもの親には、共通する“子育てのルール”が存在する。
入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、毎年塾生を難関校に合格させていると評判の進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんはそう断言する。
親世代の受験から30年近く経って、様変わりした今の受験をどう乗り越えるか。
親の影響を受けやすいひとりっ子・長子を伸ばすための具体的な指導法と家庭でできることを記した著書『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)から一部抜粋・再編集して紹介する。
勉強は机に向かう姿勢で9割決まる
幼いうちは、そもそも机をどういう状態に整えればいいのかわかりません。
そのため、勉強を始めるまでに時間がかかり、40分の勉強時間を確保したつもりが、正味20分しかやっていなかったなどということになりがちです。
ましてや、兄や姉というマネできる存在がいないひとりっ子の場合、親がお手本を示してあげねばなりません。ただし、毎回やってあげる必要はなく、1回お手本を示したら、次からは子どもにやらせましょう。
なお、整えるのは机だけではありません。椅子の座り方、手の置き方など「姿勢」も大事です。
VAMOSでも、勉強のできない子は体がぐにゃぐにゃしたり、足をぶらぶらさせたりと「勉強をする型」になっていません。とくに男の子の場合、そわそわ落ち着かない子が多いので、親がしっかり示してあげましょう。
準備のルーティンを早めにつくることはとても大事です。
「ルール化」が学習のエンジン
勉強は自発的に取り組むことが大事ですが、幼い子どもにとって自分を厳しく律していくことなど不可能です。
そこで、「1時間計算をやったら15分はゲームをしていいよ」「夕飯前に漢字を30個書くようにしよう」などと、いろいろなルールをつくり、それを守らせるようにするといいでしょう。
そのルールについては、その子がやりやすいものであることが大切で、正解はありません。
たとえば、毎日、図鑑を読むルールを設定しても、どうしてもできない子もいます。そういう子にむりやり図鑑を与えても時間の無駄です。その分、違うルールをつくって伸びるところを伸ばしてあげましょう。
そもそも「お手本」がないひとりっ子は、ルールについても「なにをどうしていいかわからない」状態です。
だから、親が一緒になって一からつくっていけばいいのです。
合格する子の親に共通する子育てのルール
ひとりっ子の場合、兄や姉という比較対象がないため、親はつい「自分の頃」と比べてものを考えてしまいます。しかし、そこにはおよそ30年の開きがあります。その間に、教育事情は大きく変化しています。
とくに、中学受験をめぐる環境は様変わりしました。
親世代の頃は、中学受験にかける準備期間は約2年でした。3年生になってから塾に通い始めれば良かったわけです。しかし、今は3年から3年半が必要になっています。
つまり、3年生のうちに塾に入ってなんとかギリギリというところです。
こういう状況について、「過熱」を指摘する声もあります。
本来、子どもの学びは学校で得るものであって、幼い頃からせっせと塾に通わせるのはおかしいというわけです。子どもに対する理想が高いひとりっ子の親は、「のびのびと育てたい」という気持ちから、こちらの方向に傾くケースも多々あります。
その意見は尊重しますが、中学受験を考えているなら、塾に通わせることはほぼ不可欠です。
というのも、今の公立小学校のカリキュラムや授業の体制は、親の時代とは違い、中学受験にはおよそ対応できないものとなっているからです。
上の子を育てた経験がある親はそのことに気づいていますが、ひとりっ子の親はわかりません。だから、まず「自分たちの頃とは違うのだ」という認識を持って、さまざまな情報に接してください。
ちなみに、欧米諸国では、日本のような塾文化はありません。彼らの国では「飛び級・降級」が設定されていて、優秀な子はどんどん上の授業を受けられるからです。
しかし、日本の義務教育は、広く一般的な知識を与えること優先で、個々のレベルに合わせるのは不可能です。そういう状況にあって、塾というものをいかに上手に使っていくかが、大事なポイントになってきます。
大事なのは、自分の子どもに合った勉強方法や進路を考えることです。
高成績の子どもほど親子の日常会話が多い
中学受験でも、その後の大学受験でも、今は日常世界とリンクした出題が多くなされます。要するに、世の中のことを知らない人間は求められていないのです。
小学生の子どもたちを見ていると、同じ年齢であっても精神年齢に大きな開きがあります。そこには、普段から家庭でどのような会話がなされているかが大きな影響を与えていると私は思っています。
たとえば、私がある親子と面談しているとき、子どもも親も積極的に意見を述べ、お互いに相手の言葉に耳を傾けているようなケースは、たいてい難関校に通ります。
逆に、「ちゃんとした話は大人がするもの」とばかり、子どもを置き去りにして一方的に話す親もいます。これでは、なかなか子どもは自立できません。
確かに、大人には大人の世界が、子どもには子どもの世界があります。しかし、その境界線を強く引いたままでひとりっ子を育てたら、兄や姉のいないその子は、いくつになっても幼児のままです。
本当は、大人に囲まれているひとりっ子ほど「世の中をよく知るチャンス」に恵まれているはずです。その環境を生かしてあげましょう。
一緒にテレビを見たり、ニュースに触れたりしながら、子どもとたくさん会話を交わしてください。そのときに、子ども言葉を使わずに、一人の人間として意見のやりとりをしてください。
テレビ番組や本の好みについても、親と似た傾向を示す子どもも多くいます。それらの情報を親子でどんどん共有していきましょう。
期待ではなく「応援」する
親が子どもに期待するのは当然で、ひとりっ子であればなおさらその度合いは強くなります。しかし、子どもにとって親の期待は、9割方「プレッシャー」というマイナス要素になります。
子どもが求めているのは、期待ではなく「応援」です。
一口に応援と言ってもいろいろあって、習い事の送り迎えをするというのは物理的な応援です。一方で、車で送り迎えされるより友だちと一緒に通いたいという望みを聞いてあげるのは精神的な応援です。
子どもはどれだけ物理的な応援を受けても、精神的な孤独を感じているケースがあるので親は注意が必要です。
小さな声かけ、ラインでのメッセージなど、子どもが 「親がいつも見ていてくれる」と感じられる応援をしてあげましょう。どんなときも、子どもにとって親が唯一の存在であるということを忘れないでください。
富永雄輔
進学塾 VAMOS 代表。
京都大学を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。学習指導のみならず、さまざまな教育相談にも対応し、年間400を超える保護者の受験コンサルティングを行っている。
自身の海外経験を活かして帰国子女の教育アドバイスにも力を入れているほか、トップアスリートの語学指導、日本サッカー協会登録仲介人として若手選手の育成も手掛けている。
著書に『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)などがある。