パワハラやセクハラ、差別はダメ。

それを頭ではわかっていても、「どうすればいいか」を具体的に考えて、実行できる人はどれだけいるだろうか。

進学塾VAMOS(バモス)の富永雄輔さんは、その「どうすれば」の中でも難しいのが叱り方であり、それこそAIにはできないことだという。

著書『AIに潰されない「頭のいい子」の育て方』(幻冬舎新書)から、親子・上司部下の関係を破綻させない、時代に合わせた「叱り方」について一部抜粋・再編集して紹介する。

時代に合わせた「叱る能力」の見直しを

なかでも難しく、「ではどうするか」を熟考しなければならないのが叱り方です。

「叱る」という行為について、古いやり方を用いていたら、親子関係も、上司と部下の関係も、破綻しかねません。

とくに私が痛感しているのは、今の時代、「全体を叱る」は成り立たないということです。

今は「うるさいぞ」と一喝は通用しない(画像:イメージ)
今は「うるさいぞ」と一喝は通用しない(画像:イメージ)
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私の塾でも以前は、誰かの一部の子どもが騒いでいるときに「おまえら、うるさいぞ」と全体を叱ることができました。

すると、騒いでいる子どもは自分が叱られたと認識して黙り、騒いでいなかった子どもは、自分のことではないとわかった上で、騒げば叱られるのだということを理解してくれました。

言ってみれば、一部の子どもたちの失敗を活用して、当たり前のルールや物事の善し悪しを全体に周知させることができたわけです。

しかし、今はそうではありません。

AIにはできない代表格が「叱る」

あるとき、一人の男の子の親から「うちの子どもが騒いでいたら叱ってやってください」とリクエストされました。

こういうことはよくあって、親は我が子が厳しく指導されることを嫌がっているわけではなく、むしろ望んでいます。ただ、そこでは従来になかった細やかさが求められています。

従来の方法ではいけないとわかっていた私は、全体ではなくその子に向かって、少々厳しい物言いをしました。そして、その子自身は理解してくれたようでした。

ところが後日、その子のそばに座っていた子どもの親からクレームが入りました。

叱る際は個性や特性を把握して丁寧な対応を(画像:イメージ)
叱る際は個性や特性を把握して丁寧な対応を(画像:イメージ)

「うちの子は悪くないのに、大きな声を出されるとびっくりするのでやめてください」というわけです。

叱り方を相手に合わせて変えるのが大事、というわけです。

大変ですが、子どもに対しても部下に対しても、これからは個々の特性をしっかり把握し、より丁寧に対応していくしかありません。

たとえば、同じように「それはダメだよ」と指摘しても、相手によって受け止め方は違います。

「自分はこう指摘するのがやりやすい」というのはどうでもよくて、「この相手はこう指摘すれば伝わりやすい」を第一に考える必要があるのです。

AIが多くの重要な仕事を受け持ってくれる時代において、人間はAIにはできない繊細な作業をしなくてはなりません。そして、その代表格が「叱る」ということなのです。

経験や知識が価値を持たなくなっている

いくら時代が変化しても、年長者のアドバイスが下の世代を救うケースはなくなりません。ただ、その数は著しく減るでしょう。というのも、経験の価値が下がっているからです。

「A社の社長さんって、どんな人なんでしょうか?」
「関西支社には、どういう経路で行くべきか教えていただけますか?」
「プレゼンには、どんな服装がいいんでしょうか?」
「今日の接待で、私はどこに座ったらいいですか?」
「祝儀袋に、どう名前を書き入れればいいでしょうか?」
などなどテーマの大小にかかわらず、わからないことを知りたければ、そばにいる年長者に聞くのが一番でした。

でも、それは過去の話であり、今はなんだってネット検索すれば事足ります。