パワハラやセクハラ、差別はダメ。
それを頭ではわかっていても、「どうすればいいか」を具体的に考えて、実行できる人はどれだけいるだろうか。
進学塾VAMOS(バモス)の富永雄輔さんは、その「どうすれば」の中でも難しいのが叱り方であり、それこそAIにはできないことだという。
著書『AIに潰されない「頭のいい子」の育て方』(幻冬舎新書)から、親子・上司部下の関係を破綻させない、時代に合わせた「叱り方」について一部抜粋・再編集して紹介する。
時代に合わせた「叱る能力」の見直しを
なかでも難しく、「ではどうするか」を熟考しなければならないのが叱り方です。
「叱る」という行為について、古いやり方を用いていたら、親子関係も、上司と部下の関係も、破綻しかねません。
とくに私が痛感しているのは、今の時代、「全体を叱る」は成り立たないということです。
この記事の画像(5枚)私の塾でも以前は、誰かの一部の子どもが騒いでいるときに「おまえら、うるさいぞ」と全体を叱ることができました。
すると、騒いでいる子どもは自分が叱られたと認識して黙り、騒いでいなかった子どもは、自分のことではないとわかった上で、騒げば叱られるのだということを理解してくれました。
言ってみれば、一部の子どもたちの失敗を活用して、当たり前のルールや物事の善し悪しを全体に周知させることができたわけです。
しかし、今はそうではありません。
AIにはできない代表格が「叱る」
あるとき、一人の男の子の親から「うちの子どもが騒いでいたら叱ってやってください」とリクエストされました。
こういうことはよくあって、親は我が子が厳しく指導されることを嫌がっているわけではなく、むしろ望んでいます。ただ、そこでは従来になかった細やかさが求められています。
従来の方法ではいけないとわかっていた私は、全体ではなくその子に向かって、少々厳しい物言いをしました。そして、その子自身は理解してくれたようでした。
ところが後日、その子のそばに座っていた子どもの親からクレームが入りました。
「うちの子は悪くないのに、大きな声を出されるとびっくりするのでやめてください」というわけです。
叱り方を相手に合わせて変えるのが大事、というわけです。
大変ですが、子どもに対しても部下に対しても、これからは個々の特性をしっかり把握し、より丁寧に対応していくしかありません。
たとえば、同じように「それはダメだよ」と指摘しても、相手によって受け止め方は違います。
「自分はこう指摘するのがやりやすい」というのはどうでもよくて、「この相手はこう指摘すれば伝わりやすい」を第一に考える必要があるのです。
AIが多くの重要な仕事を受け持ってくれる時代において、人間はAIにはできない繊細な作業をしなくてはなりません。そして、その代表格が「叱る」ということなのです。
経験や知識が価値を持たなくなっている
いくら時代が変化しても、年長者のアドバイスが下の世代を救うケースはなくなりません。ただ、その数は著しく減るでしょう。というのも、経験の価値が下がっているからです。
「A社の社長さんって、どんな人なんでしょうか?」
「関西支社には、どういう経路で行くべきか教えていただけますか?」
「プレゼンには、どんな服装がいいんでしょうか?」
「今日の接待で、私はどこに座ったらいいですか?」
「祝儀袋に、どう名前を書き入れればいいでしょうか?」
などなどテーマの大小にかかわらず、わからないことを知りたければ、そばにいる年長者に聞くのが一番でした。
でも、それは過去の話であり、今はなんだってネット検索すれば事足ります。