花の都とも称されるフランス・パリ。ただ、街を歩けばそのイメージとはかけ離れた現実が目につく。散乱したゴミや日本では考えられないほどの乱暴な運転。とりわけ、話題に上るのが路上に放置された犬のふんだ。オリンピックでパリを訪れる人もきっとこの“ふん害”を警戒していることだろう。
人気ドラマでも描かれる パリの“ふん害”
筆者は7月1日にパリ支局に着任したばかり。ただ、2014年に一度パリを訪れたことがあり、おぼろげな記憶では何度もふんを見かけ足下に注意を払いながら歩いていた。Netflixのドラマシリーズ『エミリー、パリへ行く』で描かれるパリでも主人公がふんを踏む洗礼を浴びていた。私の中にも、そうした“刷り込み“があった。
この記事の画像(6枚)ただ、いざ着任するとどうだろう。全く見かけない、ということはないが、通勤のために自宅から職場まで1時間歩いた際にも見かけたのはたったの1つ。着任してからの2週間で目撃したのは計7つだ。
あれほど恐れていた“ふん害“は今のところ肩すかし。この10年でパリは綺麗に変化したのかパリっ子たちに聞いてみた。
パリジャンのトレンド ポケットにビニール袋
犬を散歩させていた男性に声をかけてみた。「パリはまだまだ綺麗になっていないけど、一部の場所では良くなっているんじゃないかな」そう言いながらポケットから取り出したのは黒いビニール袋だ。
犬の散歩のお供としてかなり浸透しているらしく、色や形は様々だが、パリ市内ではどこで話を聞いても犬を連れている多くの人が持っていた。
2匹の犬を散歩させていた男性は、ちょうどふんを袋にいれて処理したところだった。犬を飼い始めた9年ほど前から、ふんを拾いゴミとして捨てるようにしているという。
ゴミ袋がなくなったときのために、ティッシュも持ち歩くようにしていて、ふんの放置対策は「市民への教育の問題だと思う」と強調。その上で「紙をゴミ箱に捨てるのが当たり前なように、ふんを放置せず持ち帰り処理するのがもっと当たり前になるべきだ」と話していた。
市民の意識が変化したきっかけの一つが、2016年に創設されたパリ市の「マナー違反防止部隊」だ。常に約320人のエージェントが動員され年中無休、24時間現場で活動し、犬のふんだけではなく不法投棄や吸い殻の投げ捨てなどの違反行為に対応していた。近年は所管がパリ市警察に移された。とりわけ効果が大きいのが、「罰金」だ。パリ市では、義務化されたふんの処理を怠ると、135ユーロ(約2万3000円)の罰金が科されることになっていて、話を聞いた人の多くがその存在を認識していた。
ただ、取材中にも何度か放置されたふんに遭遇した。近くをフレンチブルドッグと散歩していた男性は、「(ふんの放置について)特に夜中に犬の散歩する人が問題だ」と指摘し、「人通りが少ないのでバレないと思って、そのままにして立ち去る人も多いのが実態です」と指摘し残念そうに話していた。
一歩進んだ対策 ふんのDNA検査を行う自治体も
一方で、フランス国内には、さらに厳しくふんに対応している自治体もある。フランス南部のベジエ市では、2023年にペットのDNA検査を飼い主に義務付ける条例が試験的に施行されている。清掃作業員が道ばたでふんを見つけると、検体を採取して飼い主を特定するというのだ。ふんを放置した飼い主には、街の清掃代として122ユーロ(約2万1000円)の支払いが課されるという。ベジエ市では、年間8万ユーロ(約1370万円)の予算を犬のふん対策に割いているということで、その本気度がうかがい知れる。
パリ五輪の開幕まで一週間を切った。ステレオタイプのイメージから変わりつつあるフランスで、足下から目線をあげ、美しい町並みとスポーツの共演の取材に取り組もうと思う。
※1ユーロ=172円で計算(2024年7月17日現在)