パリの中心部を流れるセーヌ川は、トライアスロンの水泳やオープンウォータースイミングの会場となっている。しかし、懸念されるのが水質の悪化。大雨で下水道があふれると、汚水や路上のゴミが川に流れ込むことが原因だ。
このセーヌ川、実は1923年から水質汚染が原因で遊泳禁止となっている。
しかし今回のオリンピックを機に101年ぶりに泳げるようにしようと、政府やパリ市が大掛かりな水質改善に乗り出している。
さらに2025年にはセーヌ川の3カ所に市民が泳げる遊泳スポットも設けられるという。

パリ市などは約2200億円(14億ユーロ)を投じて、上流の汚水処理場の近代化を進めるほか、下水の流入を防ぐため、約146億円(9000万ユーロ)をかけて市内に4万6000立方メートルの巨大な地下水層を建設している。
「泳げるレベルに達した」
オリンピック組織委員会は2022年、事実上の「安全宣言」を出した。
パリの釣り協会によると、1970年代には4種類しかいなかった魚の種類が、いまは35~40種類にまで増えたという。
しかし2023年8月、テスト大会を兼ねたオープンウォータースイミングのワールドカップが連日の雨の影響で中止となり、パラリンピックのトライアスロンも水泳が中止となった。理由はいずれも「選手の健康を守るため」。

不安を抱える選手は少なくない。仏メディアによると2020東京五輪の女子オープンウォータースイミングの金メダリスト、アナ・クニャ選手がセーヌ川での大会に苦言を呈した。
「選手の健康が第一。セーヌ川以外の開催も検討すべきです」
そのセーヌ川を泳ぐと公言するパリのアンヌ・イダルゴ市長と、フランスのエマニュエル・マクロン大統領にいま、大きな注目が集まっている。
発端はイダルゴ市長の一言だった。2024年1月10日の年頭挨拶で次のように発言したのだ。
「私たちはセーヌ川で泳ぎます」
さらにフランスメディアの取材で「泳ぐ際にマクロン大統領も誘うか」と問われると…
「大統領が来たいと言えば、当然歓迎します」
と大統領を誘ったのだ。
誘いを受けた形のマクロン大統領はと言えば、2月29日に選手村を視察した際、記者が「セーヌ川を泳ぐか?」と問うと…
「もちろん泳ぎます。あなたたちが来るから日程は教えないけどね」
と笑いながら答えた。

それもそのはず、マクロン大統領は自身のX(旧Twitter)で「セーヌ川を泳げるようにすることは、パリ五輪のレガシーの一つになる」と投稿しており、セーヌ川の浄化には並々ならぬ意欲を持っているのだ。
ではパリジャンはどう思っているのか聞いてみた。
―あなたはセーヌ川で泳ぎたいですか?
21歳男性:
百万年経っても無理!たとえ何百万ユーロ、何千万ユーロもらったとしても、絶対に飛び込まない。ありえない!
25歳男性:
あまりお勧めできないですね。セーヌ川の水をコップ一杯飲み込むのは、水道の水を飲み込むのとは違うと思います。
55歳女性:
セーヌ川?絶対に泳がないです、大腸菌とか汚いから!

―大統領と市長が泳ぐと言っているが?
21歳男性:
早く見たいよ。とても楽しいものになると思う!
33歳女性:
それは待ちきれないですね、本当に。拍手喝采ですよ!
55歳女性:
その人たちに任せます!セーヌ川は泳ぐところじゃないですよ。
この時期のセーヌ川は濁っていることも影響したのか、ほとんどの人が泳ぎたくないと答えたが、大統領と市長が泳ぐことへの関心は高いようだ。
イダルゴ市長はロイター通信のインタビューで、オリンピックデーの6月23日前後に泳ぐと語っている。パフォーマンスやレガシーも結構だが、何よりも選手たちの健康を第一に考えてほしいものだ。
(執筆:FNNパリ支局長・山岸直人)