長崎は2023年8月9日で原爆投下から78年を迎える。平和企画「伝えたいナガサキ」の1回目は被爆体験者の救済。原爆投下時、南北に細長いいびつな形の「被爆地域」の外にいたために、被爆者と認められない「被爆体験者」の救済はいまだ示されておらず、問題は解決されていない。被爆体験者は、自分たちが受けた被害を“なかったこと”にしないでほしい、被爆者と認めて欲しいと訴え続けている。

「被爆体験者事業と言わないで」

被爆体験者の岩永千代子さん(87)は原爆が投下された時は9歳で、爆心地から10.5kmの地点にある旧・西彼杵郡深堀村(現在の長崎市深堀町)付近にいた。

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被爆体験者・岩永千代子さん:
飛行機が2機、こう走った。ピカーッというのとドーンというのと。一瞬の出来事だった

あれから78年、甲状腺の異常や原因不明の手足のしびれなど、さまざまな病に悩まされてきた。

被爆体験者・岩永千代子さん:
「被爆体験者事業と言わないでください」と言いたくなる、被爆者でしょって。被爆者として、内部被ばくを認めてくださいと

岩永さんをはじめとする被爆体験者は、放射性物質を含んだ雲の下で死の灰を浴びた水や食べ物を口にし続けたことによる「内部被ばく」で健康被害を受けたと訴えている。しかし、国は「原爆の放射能の影響は一切ない」と断定している。

被爆体験者のシュプレヒコール:
被爆体験者は被爆者だ!

岩永さんを中心に、被爆体験者は20年前ほどから被爆者として認めてほしいと訴え続けてきた。

2023年、被爆体験者の平均年齢は84歳を超えた。活動は限界を迎えつつある。

被爆体験者・岩永千代子さん:
私たちは小さい動きだけど、おかしいことはおかしいと言い続けることには価値があると思う

被爆者認定を求めて長崎県と長崎市を相手に起こした裁判は、現在も続いている。
2023年度中に判決が出る見通しだが、被爆体験者は一刻も早く“政治判断”による救済を求めている。

「黒い雨」の事実調査へ

カギとなるのが、原爆投下直後に降った放射性物質を含む「黒い雨」や「灰」だ。

国は、2022年度から「黒い雨」を浴びた人を被爆者と認めているが、対象は広島だけで、長崎の「被爆体験者」は対象外となった。国は長崎に、「黒い雨」が降った客観的な資料がないためなどと説明している。

そんな中、「黒い雨」などの事実を調べる動きが始まった。

長崎県保険医協会は戦後、アメリカが設置した当時のABCC(原爆傷害調査委員会)による住民への聞き取り調査の結果などをもとに、原爆投下直後に雨が降ったとする場所を地図に落とし込んだ。その範囲は「被爆地域」の外にも広がっていたのだ。

長崎県保険医協会・本田孝也会長:
約900人がABCCの調査に雨に遭ったと回答した。確かにこの地点に雨が降ったということの客観的な資料であると言える

国も、県や市などからの要望を受け、国立長崎追悼平和祈念館が所蔵する約12万件の被爆体験記に「黒い雨」などについて記述がないか、7月18日から調査を開始した。

テレビ長崎が独自に調べただけでも、被爆体験者がいた当時の西彼杵郡矢上村で少なくとも3件、「黒い雨が降った」「雨を浴びた」という記述が見つかっている。

被爆体験者に“残された時間”

兆しが見えたように感じられるが、被爆体験者と支援者は“ある危機感”を募らせている。

1つは、国が一連の調査の完了までに「1年程度かかる」としたことだ。

被爆体験者・岩永千代子さん:
あと1年かけて調査して、結果がどうなるかわからない

被爆体験者を支援・平野伸人さん:
ちょっと遅すぎるんじゃないか。スピードアップができないか

もう1つの懸念は、国が「黒い雨に遭った人」だけを救済し、「灰」や「ちり」などの影響を受けた人が置き去りにされるのでは、ということ。岩永さんは「被爆体験者の中で分断を生むのではないか」という不安を抱いている。

被爆体験者・木下紀子さん(82):
広島の原爆より長崎の原爆は威力が強かった。だから雨が降る前に蒸発してしまっているから、長崎で雨があまり降っていないのは当然

被爆体験者を支援・平野伸人さん:
雨の状況は広島のようにひどくはないのではないかと、だから「黒い雨等」と書いてある。この「等」を忘れてもらっては救済につながらない。黒い雨があったかないかだけでなく、放射性粉塵の状況も調査の中に加えていただかないと

県と長崎市は、調査対象に灰などを含めるよう、すでに国に要望しているが、国がどのように対応するのかは未知数だ。

2022年8月9日に岸田首相は、精神疾患など一部の病気に対して医療費を支給している「被爆体験者支援事業」の拡大を発表したが、被爆体験者が求める根本的な解決である「被爆者認定」とは程遠いものだった。

被爆体験者に残された時間は決して長くはない。被爆体験者は「自分たちの訴えに誠実に耳を傾けてほしい」と願い、78年目の夏を迎える。

(テレビ長崎)

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