長崎は、2023年8月9日で原爆投下から78年を迎えた。核兵器の近代化やロシアによるウクライナ侵攻などから、「核の抑止力」を重視する傾向が強まる中、日本政府は反撃能力の保有など防衛政策を大きく転換させた。学識者などは、今こそ核兵器廃絶を訴える被爆地からのメッセージや役割が重要だと話している。

「核の抑止力」への依存で軍縮の行方は…

鈴木史朗長崎市長:
核兵器使用をタブー視する風潮がどんどん弱まっていることに、被爆地は危機感を強めています。長崎を最後の被爆地に!

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オーストリアで開かれたNPT(核拡散防止条約)の再検討会議に向けた第1回準備委員会(現地時間8月2日)には、2カ国で世界の核弾頭の約9割を握るアメリカとロシアも出席した。
軍縮などを話し合う場だが、現地で傍聴した専門家は厳しい見通しを示した。

長崎大学核兵器廃絶研究センター 中村桂子准教授:
これまでと同じ対立構造が繰り返されている。各国が全く同じ構図で相手を非難するという構図は、今の世界を象徴している

1970年に発効したNPTは、アメリカ・ロシアにイギリス・フランス・中国を加えた5カ国以外の核保有を禁止している。
一方、5カ国には、核軍縮に向けた交渉に誠実に取り組む義務がある。

しかし、5年に一度の「定期検査の場」でもある再検討会議は、直近の2回が決裂し、NPT体制の限界を指摘する声が強まっている。

背景にあるのは、「核の抑止力」への依存だ。

ロシア メドベージェフ前大統領:
1945年にアメリカが、日本の広島と長崎に原爆を投下したときのようにすればいい

ウクライナ侵攻後、ロシアは「脅し」にとどまらず、実際に核兵器を搭載できる「原子力魚雷」の生産を表明したほか、隣国ベラルーシには、戦術核の配備を進めている。

北朝鮮は2023年3月、新たな核弾頭とみられる「火山31」を公開した。
直径は40センチから50センチ、全長は90センチほどと推定され、これまでより小型化しているが、威力は長崎原爆に匹敵するとの分析もある。

世界の核弾頭は、推定1万2,520発。全体の数は減少しているものの、使用できる「現役」の割合は増えている。

「台湾有事」なら“最大の被害” 200万人以上が犠牲に

一方で、中国が掲げる「先行不使用」に不透明感が漂うと話すのは、長崎大学の西田教授だ。

長崎大学 多文化社会学部 西田充教授
長崎大学 多文化社会学部 西田充教授

長崎大学 多文化社会学部 西田充教授:
核をどちらかというと防御的に見て、自制的に扱っていたところが変わりつつあるのではないか、よりアグレッシブな方向に。ロシアのウクライナ侵攻とプーチン大統領の「核によるどう喝」を見て、これは利用できると思っている可能性も排除できない

中国の「変化」は、別の角度からも指摘されている。

長崎大学核兵器廃絶研究センター 鈴木達治郎副センター長:
プルトニウムについては、核保有国も含めて9カ国が自主的に公開することを約束し、毎年やっていたが、中国は2016年からやっていない。民生用の再処理施設や高速増殖炉から回収したプルトニウムを(軍事開発に)使うのではないかというのが我々の推測ですね

長崎大学などの研究グループは、最新の国際情勢を反映したシミュレーションを発表した。

長崎大学核兵器廃絶研究センター 鈴木達治郎副センター長:
北朝鮮、アメリカ、中国、ロシア、それに核テロリストが使う5つのケースを選びました

北東アジアで核兵器が使われた場合の各国の対応や被害の中で、200万人以上が犠牲となるなど最大の被害が想定されたのが、いわゆる「台湾有事」だ。

長崎大学核兵器廃絶研究センター 鈴木達治郎副センター長:
先制不使用をやぶって中国が核兵器を使う、この時もターゲットとして日本や韓国の米軍基地やグアム。それに対してアメリカが中国本土も狙う。この時が一番核兵器の数が多くて24発。(抑止力の)条件が壊れた時に何が起きるかを直視する必要があり、200万人以上の人が亡くなってしまう、そのリスクを直視してほしい

今こそ問われる被爆国のリーダーシップ

日本政府は、防衛政策を大きく転換した。

岸田文雄首相:
反撃能力は今後不可欠になる能力です

「安保3文書」に敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有を明記し、防衛費を5年間で約43兆円まで増やす方針を打ち出した。

「広島ビジョン」は、G7サミットとしては初めて核軍縮に焦点を当て、ロシアの「核の脅し」や中国の軍拡を批判した。
一方で、防衛目的で核兵器を持つ「核抑止」を事実上、肯定しているとして、被爆者などから批判の声が相次いでいる。

長崎原爆被災者協議会 田中重光会長:
平和憲法第9条がある中で、軍拡路線にのっていいのか。核抑止論が正当化されて、核廃絶が究極の彼方に送られた

軍縮などを研究する専門家たちからは、国際情勢が複雑化する今こそ、被爆地の発信や各国の若い世代の交流に大きな可能性があると話す。

長崎大学核兵器廃絶研究センター 中村桂子准教授:
今、非常に核軍縮にとって試練の時だが、新しいうねりみたいなものも間違いなく世界にはある

長崎大学 多文化社会学部 西田充教授
長崎大学 多文化社会学部 西田充教授

長崎大学 多文化社会学部 西田充教授:
「長崎を最後の被爆地に」というメッセージは、非常に強力な不偏的なメッセージなので、それを常に発信し続けることで、価値観を転換していったり規範の強化につながる

原爆投下から78年。国際社会が核の「抑止力」で揺れる今、被爆国・被爆地のリーダーシップが問われている。

(テレビ長崎)

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