この夏、アメリカの大学生らが、広島の平和記念式典に参列した。彼らはG7広島サミットで各国首脳に被爆証言をした小倉桂子さんとのある約束を果たしに来日した。それは、小倉さんの体験を紙芝居を通して広め、核兵器について考えてもらうこと。国を超えてつながる平和への思いを取材した。

小倉さんが2022年に講演したアイダホ大の学生が広島に

8月6日、平和記念式典に参列していたアメリカの大学生。彼らは、ある約束を果たしに広島に来ていた。

8月6日 広島 平和記念式典
8月6日 広島 平和記念式典
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アメリカの北西部アイダホ州のアイダホ大学で音楽を専攻する大学3年生のデヴェン・マイカリスさん。(2022年秋当時)

デヴェン・マイカリスさん(日本語):
私は日本語の文化が大好きです

流暢な日本語はアニメ仕込みだという。彼は、2022年秋、友人と参加した大学の講演会で、忘れられない経験をした。講演会のスピーカーは、8歳で被爆した小倉桂子さん。

被爆者・小倉桂子さんのアイダホ大での講演(2022年9月 英語):
顔はもうほとんどなく、肌は焼けただれたおびただしい数の人が現れ、それはまるでゾンビや幽霊のようでした

小倉さん:
将来の世代に核戦争を残したくないんです

デヴェンさんは、アメリカの教育では教わらなかった原爆の悲惨さを知った。そして、広島の原爆について勉強し、鶴を折り始めた。

鶴を折るデヴェンさん
鶴を折るデヴェンさん

デヴェン・マイカリスさん(日本語):
核兵器は戦争の終わりの道具じゃない。世界の終わりの道具です

小倉さんは、アイダホ大でデヴェンさんが学ぶ日本語クラスも訪れた。そこで手にしたのは、被爆体験の紙芝居。

小倉さん:
これは紙芝居です。そして、この物語の英語版を作ってください。私の経験をこの地域の小中学生にあなたたちが伝えてほしいの。なぜなら、あなたたちは日本語ができる人たちだから

小倉さんは、アメリカに被爆体験が伝わっていくことを願っていた。
デヴェン・マイカリスさん:
紙芝居を英語に訳すことをぜひともやってみたい

「必ずやり遂げる」とデヴェンさんたちは、小倉さんと約束した。

それから半年をかけて、日本語クラスの学生たちは力を合わせ、授業の中で紙芝居の英訳に取り組んだ。昔ならではの単語や方言もあり、決して簡単なことではなかったという。

デヴェン・マイカリスさん(日本語):
この話はとても悲しい。でも、とてもとても、悲しいより大切。みんなは知るべきです

シェアハウスで暮らすデヴェンさんが、小倉さんと出会って、行動に移したのは…。

原爆投下と核兵器について話し合うように

デヴェン・マイカリスさん:
広島と長崎の原爆投下についてはどう思う?

シェアハウスで
シェアハウスで

学生:
あなたが話題にするまで考えたこともなかったわ。二度と原爆投下は起こってほしくない

デヴェンさんは、友人たちと核兵器や平和について話すようになった。
デヴェン・マイカリスさん:
私たちは広島と長崎で人々が経験したことを思い出し、定期的に、この問題について率直に話し続けることは、とても重要だと思う

小倉さんがまいた平和の種は、アイダホの地で確実に芽吹いていた。

そして8月、紙芝居の英訳を終え、代表の学生5人がこれを披露しに広島にやってきた。

デヴェン・マイカリスさん:
桂子さんの話は私にすごく大きな変化を、心の変化をもたらしましたから、桂子さんの話を伝えたいです

まず訪れたのは平和公園。慰霊碑に手を合わせた。
デヴェン・マイカリスさん:
ピースパーク(平和公園)は私にとって、すごく大切な所です

公園内をまわり、目の当たりにしたのは、自分と同世代の人たちが大勢被害にあった原爆のむごさ。デヴェンさんは幼くしてそれを見た小倉さんに想いを馳せていた。

デヴェン・マイカリスさん:
小倉さんは、歴史上、とても困難な時代を経験し、苦難を乗り越えてきた。その経験を通して、人々に何が起こったのかを伝え続ける姿は本当に強く、様々な面で驚かされます

小倉さんと1年ぶりの再会 外国人観光客にも紙芝居を披露

小倉桂子さん:
お久しぶりね。あなたたちがここにいるのが信じられないわ

8月 広島市 おりづるタワー
8月 広島市 おりづるタワー

小倉さんとおよそ1年ぶりの再会。そこで、学生が取り出したのは、小倉さんがアメリカで手渡した紙芝居。一年前のあのとき、その裏側の台詞は日本語だったが、今、そこには、学生たちが手掛けた英訳がしっかり記されていた。

英訳された紙芝居の台詞
英訳された紙芝居の台詞

小倉さんが見守る中、紙芝居が始まった。
学生:
「August 6 Keiko's story」(ケイコの8月6日)

学生:
「Water please. I need water」(水をください、水をください、と言っています。他の人たちも、「水!水!」と言うばかりでした)

デヴェン・マイカリスさん:
「あんなに恐ろしい経験を世界の誰にもさせてはいけない」

彼らは3日間に渡り、広島県内の様々な場所で、外国人観光客などへ紙芝居を披露した。

8月7日 宮島 大聖院
8月7日 宮島 大聖院

フランス人観光客:
私はこの瞬間を大切にしたい。桂子さんの被爆証言を心にとめておきたい

小倉さんは彼らの紙芝居を見守り続けた。

デヴェン・マイカリスさん(日本語):
ケイコ・オグラさんは大切な思いを私に伝えました。その思いを皆様に伝えたいです

小倉さん:
私のバトンを若い人たちに渡して、そのまま立ち止まらないで、走り続けてくれるんだなっていうことを心から感じました

小倉桂子さん(86)
小倉桂子さん(86)

紙芝居の披露を終えた学生たちは、アメリカに帰って地元の子供たちに紙芝居を伝えると誓った。まずは、知ることから。それが平和へとつながる。小倉さんの思いはアメリカの若者にまで受け継がれた。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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