おととし、山梨県内の小屋で18歳の女子高生の遺体が見つかり、夫婦が殺人の罪などに問われている事件の裁判が2日から始まっている。「夫と女子高生が仲良くしているのを知った妻の嫉妬が事件につながった」と報道されていたこの事件。

しかし、裁判で明かされた事件の構図は全く違ったものだった。連日多くの人が傍聴している裁判を振り返っていきたい。

妻は「心神耗弱状態」主張

小森章平被告(29)と妻の和美被告は(30)は、おととし8月、当時18歳の女子高生(Aさん)を車で連れ去り、山梨県内の小屋で首をロープで絞め、背中をナイフで刺して殺害した罪などに問われている。

殺人などの罪に問われている小森章平被告(29)
殺人などの罪に問われている小森章平被告(29)
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殺人などの罪に問われている妻の和美被告(30)
殺人などの罪に問われている妻の和美被告(30)

2日の初公判で章平被告、和美被告ともに「間違いありません」と起訴内容を認めた。

弁護側は妻・和美被告について、「依存性パーソナリティー障害などの精神障害で、章平被告が“絶対的な存在”であり、言われたら従うしかなかった」と主張。「心神耗弱状態だった」として責任能力を争う姿勢を示した。

冒頭でも触れたが、事件当初は「“妻の嫉妬”が事件につながった」と報道されていた。しかし、法廷では「章平被告がAさんから距離を置かれるようになったことを逆恨みしたこと」が事件につながったということが明らかになった。検察の冒頭陳述などから事件の経緯を振り返る。

距離を置かれ「裏切られた」

章平被告とAさんは2019年にSNSで知り合った。日常的な話や趣味である絵の話などをしていたそうだ。そんな中、2020年に章平被告と和美被告もSNSで知り合い、2021年5月には結婚することになる。

女子高生Aさんの遺体が見つかった小屋(2021年9月 山梨・早川町)
女子高生Aさんの遺体が見つかった小屋(2021年9月 山梨・早川町)

章平被告と和美被告の結婚後も、Aさんは章平被告とやりとりをしていたが、妻がいる章平被告から次第に距離を置くことになった。Aさんに好意を持っていた章平被告は、このことを“裏切られた”と思い、復讐を計画するなど逆恨みをするようになった。

まずは誘拐について。2021年8月25日、章平被告は和美被告のSNSのアカウントから和美被告を装い、「章平と接触しない旨を誓約する書類にサインしてもらうため、自分が8月28日に1人で東京に行く。10~15分程度で終わるので車の中で面会してほしい」という趣旨のメッセージをAさんに送った。

このメッセージを信じたAさんは28日に指定された場所に赴くが、実際には、そこに章平被告と和美被告の2人がいて、そのまま車で群馬県にある夫婦の自宅まで連れ去られたという。

「口封じ」のため殺害か

次に殺人に至る経緯。29日の夜、3人は自宅から車で移動を開始。車の中で2人はAさんを家に帰す話をしていたが、偶然見つけた山梨県内の小屋にAさんを連れ込んだ。検察はこの時点までに2人は「Aさんを殺害することを決意した」とした上で、「章平被告は口封じや逆恨みで、和美被告はAさんへの嫉妬から邪魔者のAさんを排除し、章平被告の愛情を自己に向けさせたいと思った」と指摘した。

自分たちの車に乗り込む章平被告と和美被告(防犯カメラより 2021年8月)
自分たちの車に乗り込む章平被告と和美被告(防犯カメラより 2021年8月)

小屋の中で2人はAさんの首をロープで絞め、ナイフを複数回突き刺して殺害。殺害後、逃走していたが、Aさんの母親からの110番通報を受けて、行方を追っていた警視庁が2人を発見。章平被告が警察を小屋まで案内し、Aさんの遺体が発見されたことから2人は逮捕された。以上が事件の経緯である。
事件の“首謀者”だった章平被告。章平被告は被告人質問で、誘拐はしたがAさんを静岡駅まで車で送り電車で帰すつもりだったと話した。しかし、静岡に向かっている時に道を間違えたことなどからパニックになり“殺意”が芽生えたというのだ。

「このまま帰すと他の男性と仲良くするかと」

検察官:なんでその時に殺意が芽生えた?
章平被告:自分のミスでもあるが道を間違えてパニックになって、本当に帰していいのかという思いが芽生えた
検察官:「帰していいのか」というのはどんな気持ち?
章平被告:Aさんを静岡に送り返すと二度と話したり、会ったりもできないだろうなと
検察官:それがなぜ“殺そう”となるのか?
章平被告:このまま帰すとAさんが別の男性と仲良くするんだろうなという嫉妬もあっての行動だと思う

章平被告は、被告人質問で「このまま帰すとAさんが他の男性と仲良くするんだろうなと思った」と語った。
章平被告は、被告人質問で「このまま帰すとAさんが他の男性と仲良くするんだろうなと思った」と語った。

好意を持っているAさんがもう自分と会ってくれない、他の男性と仲良くするのが許せないからAさんを殺害したという章平被告。

その後も事件の背景を詳しく聞こうと検察官などは章平被告に質問をしたが、「●●だと思う」「記憶にない」「●●した理由について分からない」などとはっきりとしない返答が多く、事件の背景が明らかにならないまま被告人質問は終わってしまった。

「どんな手段でもダンナを守ろうと」

一方、逮捕時には「自分が事件の首謀者です」と警視庁や検察に説明をしていた和美被告。嘘をついた理由については次のように述べた。

和美被告は、被告人質問で「どんな手段でもダンナを守らないといけないと思った」と語った。
和美被告は、被告人質問で「どんな手段でもダンナを守らないといけないと思った」と語った。

弁護人:誘拐や殺人について自分が主犯と言ったがこれは事実?
和美被告:いいえ
弁護人:どうして事実と違うことを証言した?
和美被告:どんな手段を使ってでも旦那を守らないといけないと思ったから

「前の夫からDVを受けていた自分を助けてくれた章平被告とは離れたくない」という思いから、“章平被告に言われた通り”Aさんの首をロープで絞め、ナイフを刺したと和美被告は説明した。

不妊治療の末に授かった娘を失った両親

臨床心理士になりたいという夢を持っていたAさん。高校2年の時、新しい環境などへの不安などから精神科に通い、臨床心理士のカウンセリングによって救われたという経験があったことから自分も人の心を救いたいと思ったそうだ。そんな大事な娘の命を突如奪われた父親と母親による意見陳述が9日に行われた。

初公判で、章被告と和美被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた(イラスト:大橋由美子)
初公判で、章被告と和美被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた(イラスト:大橋由美子)

Aさんの父親:いつも甘えてくれた愛おしい娘に二度と会うことができなくなりました。娘のいなくなった人生は絶望でしかありません。ただ生きてくれているだけで幸せだったのに。2人が死刑になったとしても許せないです。

Aさんの母親:不妊治療の末に授かった一人娘でした。自分の命よりも大事な娘でした。なんで娘が死ななければいけなかったのですか?なぜ殺されなければならなかったのですか?後悔や償いなんていりません。娘を返してください。

Aさんの両親は涙ながらにそれぞれ10分ほど今の胸の内を語り、法廷には時折、傍聴人が涙で鼻をすする音が響いていた。次の裁判は12日で、2人に対する求刑が行われる予定だ。

12日の裁判で、章平被告、和美被告に対して、求刑が行われる予定だ。
12日の裁判で、章平被告、和美被告に対して、求刑が行われる予定だ。

(フジテレビ社会部・司法担当 高沢一輝)

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社会部
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今、起きている事件、事故から社会問題まで、幅広い分野に渡って、正確かつ分かりやすく、時に深く掘り下げ、読者に伝えることをモットーとしております。
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高沢一輝
高沢一輝

フジテレビ報道局社会部記者。司法クラブ裁判担当。
2015年から「みんなのニュース」のADを担当。その後2017年に報道局社会部記者へ。検察、千葉支局、厚労省を担当し、2022年7月から現在の裁判担当に。