この秋の米国の中間選挙では、バイデン大統領の次男ハンター氏をめぐる疑惑が「台風の目」的な存在になりそうだ。

ハンター氏はかねて父バイデン大統領の威光を借りて海外の企業などと不正な取引をしていたのではないかという疑惑が絶えず、2020年10月14日には大衆紙「ニューヨーク・ポスト」が、ハンター氏が役員として収入を得ていたウクライナのエネルギー会社の幹部を当時は副大統領だった父親に面会の労をとったことや、中国企業と新会社を設立して株式の10%を父バイデン氏に割り当てることを打ち合わせていたという同氏の電子メールを暴露した。

2020年10月14日のニューヨーク・ポスト紙
2020年10月14日のニューヨーク・ポスト紙
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前回大統領選の20日前のことで、選挙の行方を左右する「オクトーバー・サプライズ(10月のびっくり)になるかと思われたが、当時の公安当局は「ロシアによる偽情報」という情報を流したため、主要マスコミは無視。ツイッターもこの情報を規制、削除しフェイスブックも規制、結局この話は「なかった」形で選挙を迎えてバイデン氏がトランプ氏を破って当選した。

しかしその後もハンター氏をめぐる疑念は燻り続け、今年3月になってこれまで無視してきたニューヨーク・タイムズ紙が「ハンター氏の疑惑は根拠があり、当局が幅広い捜査を展開している」と伝え、今年秋の中間選挙への影響が注目されるに至っている。

そうした折も折、ハンター氏の所業をあげつらった映画が公開されることになった。

「My Son Hunter(我が息子ハンター)」がそれで、ドキュメンタリー映画のプロデューサーのフェリム・マッカリール氏らが多数の人が投資するクラウド・ファンディングで250万ドル(約3億4000万円)を集めて制作した。

映画「My Son Hunter」のポスター
映画「My Son Hunter」のポスター

ハンター氏の疑惑を伝え続けているジャーナリストのピーター・シュバイツアー氏の著作を元にしたドキュメンタリー・ドラマで、英国の俳優でテレビシリーズ「オクスフォードミステリー・ルイス警部」で助演したローレンス・フォックス氏がハンター氏で出演している。

映画は既に完成し、保守系のニュースサイト「ブライトバート・ニュース」から販売されるが、その日付も9月7日で中間選挙の選挙戦のスタート直後というタイミングを狙ったことは疑問の余地もない。

「扇情的で、衝撃的で、信じられないような、恥ずべき、腐敗し、検閲された、ショッキングな実話」

英国の大衆紙「デイリー・メイル」電子版は、この映画をこう表現している。

そのハンター氏の疑惑をめぐってもうひとつ新たな証言が飛び出した。

SNSフェイスブックの最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏が25日、人気のポッドキャスト「ジョン・ローガン・エクスペリエンス」に出演し、フェイスブックがハンター氏の疑惑情報を規制したことについてこう話した。

ポッドキャストに出演したザッカーバーグ氏
ポッドキャストに出演したザッカーバーグ氏

「連邦捜査局(FBI)の係官がやってきて『おい、十分に気をつけてほしいんだ。2016年の選挙ではロシアの多くの情報活動があったが、今度も同じような攻勢を仕掛けてくると通告されている。そこで十分警戒してほしいんだ』と言われたんだよ」

つまりFBIは、フェイスブックにハンター氏の疑惑は流さないよう圧力をかけたとも言えるわけで、この話は中間選挙の「爆弾」になるかもしれないと保守系のニュースサイト「ウエスタン・ジャーナル」は伝えている。

ニュージャージー州の「テクノメトリカ政策・政治研究所」が8月上旬にこのハンター氏の疑惑について世論調査を行ったが、79%の回答者が「もしハンター氏の疑惑の真実が公表されていたら、前回の選挙でトランプ氏が勝っていただろう」と答えている。

その疑惑の真実がさまざまに公表される中で行われる今回の中間選挙の結果を左右する大きな要素になりそうだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。