特定危険指定暴力団「工藤会」のトップ2人に死刑判決などが言い渡されて、8月24日で1年。工藤会の本拠地がある北九州市の今を取材した。

鑓水航記者リポート(2021年8月24日):
主文後回しです。野村、田上両被告の主文は後回しです。極めて厳しい刑が予想されます

2021年8月24日。特定危険指定暴力団「工藤会」トップの判決公判で、殺人などの罪に問われた総裁の野村悟被告(75)とナンバー2の田上不美夫被告(66)に言い渡された判決に、廷内はどよめいた。

工藤会の総裁・野村悟被告(左)と会長・田上不美夫被告(右)
工藤会の総裁・野村悟被告(左)と会長・田上不美夫被告(右)
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裁判長:
野村被告は死刑。田上被告は無期懲役とする

2人が罪に問われたのは1998年以降、市民を標的にした4つの襲撃事件についてだ。

福岡地裁は、野村被告が首謀者、田上被告が犯行の意思決定に関与したと認定した。

「安全な街になった」2人の逮捕後に地価上昇

判決から1年。工藤会の“本拠地”である北九州の街は変わり始めている。JR小倉駅で待ち合わせをしたのは、北九州市の北橋健治市長(69)だ。

北橋健治市長:
IT系の企業の進出が続いています。(駅前のビルを指して)そこにもGMOを始め、IT関係の企業が進出していますし、この近くにも日本IBMの進出が決まりました

街の変化について語る市長
街の変化について語る市長

新たに北九州市に進出するIT関連企業が年々増加していて、この1年は20社以上が進出している。また、野村被告と田上被告が逮捕された後の2017年、小倉の商業地の地価が24年ぶりに上昇。価格は現在も上がり続けている。

就任15年目になる北橋市長自身も、街の変化を肌で感じているという。

北橋健治市長:
街の変化というのは敏感に感じますね。街が安全安心になったんだな、というのを感じます。昔は北九州ナンバーを見るとみんなが警戒するというような、そういう話もありました。でも今や、安全な街になってきたと思います

事件がトラウマに…被害者の心境にも変化

北九州の街を脅かしていた工藤会。

記者リポート(2003年8月19日):
北九州市の繁華街の高級クラブに爆発物のようなものが投げ込まれました。従業員など10人が重軽傷を負ったものです

手榴弾が投げ込まれた繁華街の高級クラブ
手榴弾が投げ込まれた繁華街の高級クラブ

2003年8月、工藤会系の組員により小倉北区の高級クラブに手榴弾が投げ込まれた、いわゆる「ぼおるど事件」。当時、店内にいてケガをした被害者の女性は次のように話した。

「ぼおるど事件」被害女性:
8時ジャストに急に戸が開いて。男の人が上から下まで黒い感じでズカズカズカって勢いよく入ってきて、「おりゃー」って言って物を投げた

女性は今も事件がトラウマとなっているが、トップへの死刑判決などによって気持ちの変化が生まれている。

「ぼおるど事件」被害女性:
今はもう安心して街を歩ける。警察がすぐに来てくれるという安堵感もありますね。まだ死刑判決が確定したわけじゃないですから、そこまでの道のりは続いている。まだ戦っている最中じゃないですか

本部事務所は社会福祉施設へ 住民に広がる安心

安堵感を示しつつも気を緩めてはいないが、一方でこの1年、工藤会の衰退は目に見える形で現れ始めている。

鑓水航記者:
「ユニオン田中」と書かれた建物の前に、鉄パイプなどが積まれたトラックが止まっています。足場の設置作業が進められています

小倉北区三萩野にある工藤会傘下組織最大の「田中組」本部事務所。2021年10月8日、建物の解体が始まった。

田中組は野村被告と田上被告の出身母体。かつて2人が組長を務めたことがある、工藤会内における、いわば有力組織だ。しかし、維持管理費の負担の大きさなどが要因となり、売却せざるを得なくなる状況まで追い込まれてしまっている。

工藤会傘下組織最大の「田中組」 2人はかつて組長を務めていた
工藤会傘下組織最大の「田中組」 2人はかつて組長を務めていた

周辺住民:
安心ですよね。建っているだけで不気味…。うれしいです。治安が良くなってくれると、すごく助かりますね

さらに小倉北区紺屋町の田中組の事務所の解体工事も進んでいる。2012年10月、付近に響く怒声の中を県警の捜査員が家宅捜索に入り、組員と取っ組み合いにもなった場所だ。

田中組事務所に家宅捜索に入る捜査員たち
田中組事務所に家宅捜索に入る捜査員たち

繁華街の一角にあった建物も現在は更地となっている。長年住民を不安にさせてきた建物が街から消えた、歴史的な1年になったのだ。

北橋健治市長:
安全な街にしようと様々な運動を強力に展開した結果、それを達成してきている。安心感というものが今、この街にあると思います

着実に“負の遺産”を払拭している北九州市。最後に、あるものを見せてくれた。

北橋健治市長:
希望のまちプロジェクトと福祉のボランティアの方が呼んでいる模型です。あの工藤会総本部事務所の跡が、このように生まれ変わるんです

工藤会の本部事務所跡地に2024年に誕生する予定の社会福祉施設。「希望のまちプロジェクト」としてNPO法人の「抱撲」が整備を担い、2022年からすでに市民が集う憩いの場として利用されている。

北橋健治市長:
良い面を発信することで、昔のロケットランチャーなどといった街が、危ないという印象が段々薄らいでいく。強烈な良い印象を、まばゆい明るい印象をたくさん発信することで、過去の暗いイメージを払拭していく

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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