特定危険指定暴力団「工藤会」のトップ2人に死刑判決などが言い渡されて、8月24日で1年。

あの判決は工藤会にどんな影響を与えたのか。死刑判決後の工藤会はどうなっているのか? また、警察の工藤会対策に変化はあるのか? 工藤会と警察の”今”に迫る。

拘置所に大勢の組員 野村被告の衰えぬ影響力

7月、警察密着番組の撮影中、取材班のカメラが出くわした福岡拘置所(福岡市早良区)での一幕。

拘置所前には大勢の工藤会系組員らの姿があった
拘置所前には大勢の工藤会系組員らの姿があった
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記者:
めっちゃ、いっぱいおるやん

組員:
カメラ後ろ? 警察24時?

白バイ隊員:
そうですそうです。気にせんでください

組員:
うちの親分気付いとるけん、カメラ撮りよるのを。警察24時!?

白バイ隊員:
取締りしよったら、たまたまここへ

組員:
俺、警察24時に出たことあるよ!

取材を受ける白バイ隊員に「俺、警察24時に出たことあるよ!」 駆け寄り話しかけてきた黒服の男たち
取材を受ける白バイ隊員に「俺、警察24時に出たことあるよ!」 駆け寄り話しかけてきた黒服の男たち

テレビ番組の「警察24時」がよほど好きなのか、黒服の男たちは白バイ隊員に駆け寄ってきては話しかけてくる。

白バイ隊員:
こんだけ集まっていると、このまま帰る訳にはいかない

組員:
逮捕した方がいいと思いますよ。工藤会ですから。早く逮捕した方がいい

彼らは特定危険指定暴力団「工藤会」系の組員などだ。その数、約30人。工藤会ナンバーとも言われている「8」並びの車が駐車場に停車するほか、黒光りする高級車が入っていく様子も見られた。

「8」並びの“工藤会ナンバー”
「8」並びの“工藤会ナンバー”

白バイ隊員:
今日は何の用ですか?

組員:
面会です、面会。よそから面会に来られるから

この日は、東京に本部を置く指定暴力団「住吉会」の幹部が、拘置所に収容されている野村悟被告(75)に接見に訪れ、工藤会系の組員はその来賓対応をしていたのだ。

死刑の一審判決が出てもなお、野村被告との親睦を深めようとする他の暴力団。いまだ村被告が与える影響力は陰りを見せていない。

「裁判費用で会費が上がり…」現役組員が語る現状

2021年8月24日、工藤会の総裁である野村被告に死刑、ナンバー2の田上不美夫被告(66)に無期懲役が言い渡された。この一審判決から8月24日で1年。

野村被告は、法廷からの去り際にこんな捨て台詞を残していた。

野村悟被告:
公正な裁判をお願いしたのに、全然公正やないね。全部、推認、推認、推認! こんな裁判があるか! 生涯、このこと後悔するよ!

福岡県警 田中伸浩 暴力団対策部長:
野村悟被告が裁判長に向かって発言しましたように、凶悪性、粗暴性、そのような本質は変わっていない。弱体化しているけれども、いまだ組織としては機能していると捉えていますので、完全に壊滅するまで持って行くことが必要かと思います

工藤会の現状について語る福岡県警・田中暴力団対策部長
工藤会の現状について語る福岡県警・田中暴力団対策部長

工藤会の現状はどうなっているのか? 取材班は、工藤会の現役組員からペン取材のみを条件に話を聞くことができた。

現役工藤会組員:
工藤会の現状ですが、厳しいです。裁判費用のため工藤会の会費が上がっているので、キツイと思います。シノギも楽ではないです

組員によると、野村被告らの裁判費用捻出のため、組員が毎月工藤会に納める会費の値段が上がっているという。

その上、組員たちが収入を得る活動、いわゆる「シノギ」も警察の取り締まりなどで困難になっている。また、この状況は「福岡に限った話」だともいわれている。

現役工藤会組員:
九州と違って、関東にいる工藤会は大丈夫です。完全に九州の工藤会とはムードが違うと思いますよ。他の組織とシノギがぶつかっても、工藤会と分かれば勝手に引いてくれるので食えています

関東に”強力”な傘下組織 連絡はロシア製アプリで

福岡県警が野村被告らの逮捕に踏み切った「頂上作戦」とちょうど同じ時期の2014年頃、工藤会の傘下組織「長谷川組」が、千葉県を拠点に関東へ本格進出。

地元の人間を吸収し勢力を維持したまま、現在も工藤会の資金源活動を活発に行っているとみられている。

7月には「長谷川組」組員の荒井幹太被告(22)が男子大学生を車に監禁し、高級腕時計などを奪った疑いで警視庁に逮捕・起訴された。

組員の男が大学生に放った脅し文句は、衰退する工藤会のイメージを覆すものだった。

荒井幹太被告​:
工藤会がどんな組織か知っているのか? 殺されたいのか? 工藤会の仕事を手伝え

組員の男による脅し文句
組員の男による脅し文句

現役工藤会組員:
関東の工藤会は、何かあったら100人集められる組織力を持っています。若い子も入って来ています

またシノギの活動に一役買っているのが、痕跡の残らないロシア製の無料通信アプリ「テレグラム」だと明かした。

現役工藤会組員:
会合は、工藤会執行部の数人で伝達事項などを話し合い、末端の組員にはテレグラムを使って伝達します。伝達内容は自動消去できるように設定させられています

なぜ、いまだ工藤会を脱会せず、警察の目をかいくぐる暮らしを選ぶのか? その理由を尋ねると…。

現役工藤会組員:
工藤会をいま離れる訳にはいかないです。総裁と会長が無実と言えば、無実を信じるしかありません。私たちは、総裁と会長が社会復帰されるまで代紋を守るだけです

取材に応じた現役組員は、野村被告らの社会復帰を望んでいた。

工藤会を離脱した元組員 アドバイザーが就労支援

工藤会組員の離脱者数は、2022年に入ってから6月末時点でわずか5人。このペースでいけば、頂上作戦以降、年間の離脱者数は過去最低が見込まれている。

組員の離脱者数は減少傾向に
組員の離脱者数は減少傾向に

死刑判決後も散り散りにならないばかりか、一部組織は精力的にシノギを行っているとみられる。

しかし、福岡県警も捜査の手を緩めることはない。2012年に発生した不動産会社社長殺人未遂事件で、県警は2022年8月に工藤会組員らを通常逮捕した。

福岡県警 北九州地区暴力団犯罪捜査課長 山口正文:
発生から10年ほど経過しての検挙となります。今回の検挙は、工藤会にさらなる打撃を与えるものだと認識しております

未解決重要事件と位置づけて地道な捜査を重ね、工藤会系の組員らの逮捕に至った。また、工藤会対策には検挙と両輪をなす重要な取り組みがある。

県警本部内の一角、ある男性が向かった先は「組織犯罪対策課社会復帰アドバイザー室」。組員などの「離脱・就労支援」を担う現場だ。

これまで何度も就労支援に携わっている、社会復帰アドバイザーで福岡県警OBの山田さん(仮称)。今回、特別に職務の様子を撮影する許可が降りた。

山田さん(仮称):
もしもし、アドバイザーの山田です

元組員:
すみません

山田さん(仮称):
仕事中?

元組員:
ちょっと、いま洗車してました、すみません!

山田さん(仮称):
もうちょっと時間ずらしてから電話しようか?

元組員:
大丈夫ですよ。いま終わりましたんで

電話の相手は工藤会元組員の50代の男性。野村被告の死刑判決後、警察の就労支援を受け運送業に身を置いている。

山田さん(仮称):
就労してから9カ月くらいたいね。どんなふう、仕事は?

元組員:
そうですね、やっぱり(組員だった)以前は、労力に対して対価というものがありませんでしたし、体を動かした分だけお金が出ていく。今は体を動かした分だけ対価としてのお金が入ってくるので安定してますし、おかげさまでという感じで感謝しております

山田さん(仮称):
そげん思ってくれるんなら、こっちとしてもうれしいんやけど

「組員時代は体を動かした分だけ金が出て行っていた」。元組員の男性は、汗水流して働き対価を得ることの意義をかみしめているようだ。

山田さん(仮称):
チラッと聞いたら大型免許とったという話やったけど、どげんやった?

元組員:
おかげさまで社長から「大型でも取ってこいや」ということで、免許も取りに行かせて頂いて。資格が1つ増えました

山田さん(仮称):
費用はどげんした?

元組員:
費用は会社負担で

山田さん(仮称):
良かったね

アドバイザーには、もう1つ気になることがあった。

山田さん(仮称):
離脱してから、組関係者から連絡はありよらんや?

元組員:
全くないですね。元の携帯電話も解約して新しい電話に替えたので、関係者の電話番号も全く知りませんし

山田さん(仮称):
街中でばったり会ったりとかはないや?

元組員:
もうそんな時間ないですよ

それを聞いたアドバイザーは胸をなでおろした。

山田さん(仮称):
最後にこれ電話しよったのはね、テレビが取材に来とって

元組員:
何ですかそれ! 先に言ってくださいよ!

山田さん(仮称):
お前に言うたら嫌と言うかもしれんけんよ。最初に嫌と言われたら、どうも何もできんやんか。後になってこんな話して申し訳ないけど

組員らが心の奥底に抱える、今後の工藤会への不安をいかにすくい取るかが離脱・就労支援の鍵だと話す。

社会復帰アドバイザー・福岡県警OB 山田さん(仮称):
正直言って、本気で就労希望しているのかなというところがある人間もいましたけど。小さなところをいろいろ話を聞いていくと、本心が出てくる部分があるじゃないですか。その話を聞いて、本気で就労支援を考えるようにということで説得しています

死刑判決に慢心せず…工藤会対策は「道半ば」

暴力団捜査に長年従事してきた県警の暴力団対策のトップは、野村被告に下された死刑判決に慢心することはない。

福岡県警 田中伸浩 暴力団対策部長:
これは確定判決ではございません。現状、一番大切なのは確定判決がおりるまでに、いかに弱体化を進め壊滅まで持って行くのかということだと思う。まだ道半ばということで、今まで以上に工藤会対策を推進していくことが必要だと考えています

いまだ不穏な動きを見せ続ける工藤会と、闘う姿勢を断固として崩さない福岡県警。死刑判決から1年、両者の”にらみ合い”は続いている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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