最高幹部に対して死刑が求刑されている、特定危険指定暴力団「工藤会」。

知られざる内幕を元組員が証言した。約半世紀に渡り、組織に身を置いた元組員が見た工藤会の繁栄と変化、そして衰退の歴史とは?

元組員が語る工藤会"暴走の歴史”

ーー人を殺した経験がある組員はいた?

元工藤会組員:
いますね

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ーー実際、あなたが人を殺したことは?

元工藤会組員:
ないですよ。自分は

テレビ西日本のインタビューに答える、特定危険指定暴力団・工藤会の元組員の男性。

男性が工藤会に入ったのは90年代始めの頃。当時、工藤会は北九州のあらゆる利権を手に入れるため、市民に攻撃を繰り返していた。

1988年1月には、”みかじめ料”を断った健康センターに殺そ剤を投げ込み、150人を越える市民が中毒症状を起こした。

健康センターにいた人:(1988年)
バーンとしたような、目がチカっとするような、あんな瞬間

さらに3月には、警察の捜査かく乱のため中国総領事館に発砲。

記者リポート:(1988年)
総領事館に向かってきた車の中から、1発の散弾が撃ち込まれたのです

「公共工事にも“みかじめ料”」市民への暴力も

そして1990年3月には、土地問題で揉めた相手に至近距離から散弾銃を発砲した。

工藤会本部事務所 家宅捜索(1990年1月)

警察:
上の者、呼ばんかい

組員:
なんしょっちょるか、言いよんぜ!

「逆らう者は容赦しない」市民に対して明確な姿勢を示した工藤会は、北九州一帯を支配下に置き、莫大な利権を手に入れていく。

ーーどういったことで、儲かっていた?

元工藤会組員:
“カスリ(みかじめ料)”じゃないですか。ぶっちゃけた話、月々なんぼっていう感じですね、ここで商売するなら。大きい公共工事も、工事費の何パーかですね、納めないと工事できない状態やったし

ーー最高月収は?

元工藤会組員:
1,000万円、2,000万円は当たり前。平均しても200万ぐらいやないですかね

ーー(みかじめ料を)出し渋るところに対しては?

元工藤会組員:
暴力。戦闘力はあった。組のためなら何も考えずに“行く人間”がいた

2000年、長年トップを務めた溝下秀男氏が組の運営から退き、野村悟被告が組の実権を握る。そして工藤会は、更に凶悪化の一途を辿ることになる。

2003年8月、暴力団追放の旗振り役だった男性が経営する北九州市小倉北区のクラブに工藤会組員が手りゅう弾を投げ込み、12人が重軽傷を負う事件が起きた。

元工藤会組員:
無茶苦茶するねって思いました。一般市民に対して。けど、組織運営のためにはしょうがないかという感じ。その考えはおかしいんですけどね、今考えたら

2007年4月には北九州での発砲事件(会社襲撃事件)や、翌2008年9月には社長襲撃事件など襲撃事件は続く。

記者:(2008年9月 社長襲撃事件)
ドンドンという音を聞いた男性が、運転席から振り返るとオートバイの2人組が県道に逃走しました

2004年から2009年までの4年間に、北九州地区を中心に一般市民や企業を狙った40件近くの襲撃事件が発生。そのうち10件が工藤会の犯行と断定された。

ーー襲撃の命令っていうのは、どんな感じで?

元工藤会組員:
まあ、行ってこいでしょうね。殺すんか、殺さん程度にくらいの指示くらいはある

続く暴走…ついに警察組織に牙をむく

2011年、工藤会は野村被告が総裁の座につき、ナンバー2の会長には腹心の田上不美夫被告、そしてナンバー3の理事長には自身の派閥に属する菊地敬吾被告を据えた。

元工藤会組員:
全部、田中組の出身ですよね。もう独裁的な感じ。なんでも田中組、田中組って感じ

そんななか、男性が工藤会脱退を考えるある事件が起きた。

記者:(2012年4月)
北九州市小倉南区で、元警察官の男性が銃撃されました

2012年、工藤会捜査を担当していた福岡県警の元警部が組員から銃撃され重傷を負った。

警察組織に牙をむいた工藤会に対して、警察庁は、全国の警察から北九州に機動隊員など約400人を招集。異例の態勢をとる。

元工藤会組員:
(警察相手に)そこまでしたらいけんやろって(思った)。潰されるという感じですね、国が本気になったら。今の組織について行けん。もうそろそろかなっていう感じで

元警部銃撃事件の後も、工藤会の暴走は続く。

記者:(2012年8月)
警察によりますと午前1時頃、女性が自宅の前でタクシーを降りた直後、男から突然刃物で顔を切りつけられました

2012年8月、福岡県は暴力団員の飲食店への入店を禁じる標章制度をスタートした。すると店舗が入居するビルへの放火に加え、飲食店の女性が顔を切りつけられるなどの襲撃事件が立て続けに起きた。その事件の多くが工藤会の犯行と断定された。

元工藤会組員:
一般市民、カタギに手を出す。ヤクザとしては笑われるようなこと

ーー嫌がっている組員はいた?

元工藤会組員:
いましたね、やっぱり。なんで自分がいかないけんかって。現に後悔してる人間も見てきてますし、カタギになりたいって言うのもおった

2013年、男性は工藤会を脱退した。

警察が「頂上作戦」開始 主要幹部を次々逮捕

記者:(2014年9月野村悟総裁宅 家宅捜索)
野村総裁の自宅に警察が入ります

そして2014年9月、警察は頂上作戦を開始。野村被告ら主要幹部を次々と逮捕した。

野村被告の逮捕後、工藤会は衰退の一途を辿る。組員は減少を続け、その数は野村被告の逮捕前の半分に減った。

さらに工藤会の象徴とされた本部事務所も。2019年、固定資産税の滞納を理由に北九州市が差し押さえ、本部は売却された。

頂上作戦から2530日余り。事件の関与を否認する野村被告らに元組員の男性は…

元工藤会組員:
(市民襲撃事件に関わった組員は)無罪ではないでしょうけどね。全く接点もない人間、誰が行くんですかね。メリットないですもんね。やった人間の意思ではなく、上からの指示やないかなとは個人的に思います

(テレビ西日本)

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