デジタル技術によって組織のあり方や業務を効率化する「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」。近年様々な業界に押し寄せるその波は今、人命を預かる医療の最前線でも注目されている。
深刻な医療人材の不足と、超高齢社会に伴う患者数の増加。この二律背反する課題を打開するため、宮城県内の医療現場ではAIやデジタルツールを活用した「次世代の医療」への模索が始まっている。
DXで医師が患者と向き合える診察へ
東北大学病院は2019年、院内DXを専門に研究・開発する「医療AIセンター(AI Lab)」を設立した。
現在、同センターの園部真也副センター長が普及を進めているのが「診療記録の入力支援システム」だ。
診察室での医師と患者の会話をAIが文字起こしし、さらに医学用語を用いてカルテの形に要約する。AIが生成したカルテを医師が最終確認するこの仕組みは、事務作業時間を大幅に削減できるという。
東北大学病院 医療AIセンター 園部真也副センター長:
これまでは患者の話を聞きながらコンピューターに入力しなければならなくて、横を向きながら患者と会話をすることが多かった。
このシステムを導入したことで患者に専念できる。
患者は言葉ではもちろん自分の症状を訴えてくるが、表情やしぐさでもっとたくさんの情報を提示してくる。そういったサインに気づけるようになるので、診察が早くなるだけでなく、クオリティが高くなると思う。
また、大学病院の医師は臨床の傍ら、研究・開発を担う研究者でもあるため、DX化によって診療の負担が減るのは、大学病院にとってメリットのあることだという。
さらに、問診票をデジタル化することによって、情報を蓄積。普段と違う回答があった場合に知らせてくれるほか、ORコードを使って電子カルテに反映させるなど、大幅な省力化を実現している。
東北大学病院 医療AIセンター 園部真也副センター長:
医療に求められる質が年々高くなっていて、その分、医療スタッフの仕事がどんどん増えている。
一方で高齢化によって患者は増えているし、丁寧な医療もより求められるようになっているので、技術の力を使わないと回らなくなってきている。
人的資源が限られる民間クリニックのAI活用
DXの波は、限られたリソースで運営される民間病院にも広がっている。
仙台市内の宗像靖彦クリニックでは、AIによる電子カルテの自動作成のほか、チャット型生成AIを画像診断の分析や紹介状の作成に活用している。
宗像靖彦院長は、AIを「限界を突破するためのツール」と位置づける。
宗像靖彦クリニック 宗像靖彦院長:
民間クリニックは人的な資源が限られている。施設の設備も限られているので、限界を突破して医療の精度を上げるためにAIは必要なツール。
民間病院はいろんな患者を診なければならないし、一人の患者がいろんな訴えを持ってくるので、一人の患者を包括的に診るという、民間クリニックならではのAIの使い方が出来ていると思う。
また、併設する高齢者福祉施設では、多職種連携の要となるカンファレンスの議事録作成をAIで自動化している。
モークシャ愛子 鬼木孝規看護師:
会議した内容をもう一度振り返る手間がずいぶんかかっていた。そこが削減されている。
その時間を患者と向き合う時間に使うことができる。

「AIにできることをAIにやってもらう」。DX化によって、現場で働く人間にしかできないケアを患者に提供する時間を確保できるようになっているという。
さらに、AIによる議事録作成は、単なる効率化以上のメリットも生んでいる。記録する個人の能力差が無くなることで、情報の客観性と正確な判断材料が整うからだ。宗像院長は「本来の医療に近づけていける気がする」と期待を寄せる。
DX普及の現在地点と必須課題
医療現場のデジタル化を支援する株式会社ユカリアの小川一誠本部長は、現在の普及状況を「積極的に取り入れている所もあれば、取り入れていないところもあるまだら模様」と認識しつつも、今後の必然性を強調する。
ユカリア ヘルスケア事業本部 小川一誠本部長:
医療人材の不足は簡単には解決しないし、長寿社会の進行を考えると人間の一部の仕事をDXが代替しないと回らない。
医師・看護師が本来の医療医師業務看護師業務に専念できるように、それ以外のところをAIが巻き取ってくれる。業務のクオリティが均一化されてさらに高度化されていく。
医療現場の生産性向上につながるのではないかと思う。

医療技術の高度化と、求められる丁寧なケア。増え続ける負担には、技術の進化と活用が必須課題となっている。
東北大学病院 医療AIセンター 園部真也副センター長:
AIが我々の仕事を肩代わりしてくれるという発想よりも、AIを使うことによって我々の仕事がさらにスムーズに動くという発想でDXを進めていくことが大事と考えている。
AIは医師の代わりになるのではなく、医師を「本来の仕事」へと回帰させるための強力なパートナーとして、医療現場に浸透し始めている。
