注目の的「名ばかりの共和党員」
米国の政界に「ライノ(RINO)」という言葉がある。動物のサイも「ライノ」だが、スペルが「RHINO」で違う。実はRepublican In Name Onlyの略で「名ばかりの共和党員」を意味する言葉だ。
共和党員でありながら、民主党の政治に賛同する政治家のことだが、その「ライノ」の一人が今ワシントンで注目の的になっている。
ワイオミング州選出の下院議員リズ・チェイニーさんで、昨年1月6日にトランプ支持者たちが米議会に乱入占拠した事件を調査する下院特別委員会の副委員長を務めている。
この記事の画像(5枚)チェイニーさんの父親はジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領を務めたディック・チェイニー氏で、その地盤を継いで2016年以来三期当選を果たしている。
父娘2代にわたりトランプ氏と犬猿の仲
父親のディック・チェイニー氏は大量破壊兵器の存在を理由にイラク戦争をはじめたネオコン論者で、それを批判する「アメリカ・ファースト」のトランプ氏とは共和党内でも犬猿の仲として知られる。
娘のリズ・チェイニーさんもその関係を継承してトランプ氏にはことごとく反対し、昨年1月下院がトランプ大統領の弾劾を決議した際、賛成票を投じたため共和党のナンバー3のポストである同党会議議長を解任された。それでもチェイニーさんの反トランプの勢いは収まらず、民主党が主導して設置された米議会乱入占拠事件調査特別委員会の副委員長になりトランプ氏の事件への関わりを厳しく追及してきた。
トランプ氏は対立候補を擁立
これに対してトランプ氏は11月の中間選挙でチェイニーさんを追い落とすべく、党内の候補者選びで対立候補の弁護士ハリエット・ヘイガマン氏を擁立して「ライノ」退治に乗り出した。
その結果、地元日刊紙「キャスパー・スター・トリビューン」の調査(7月7日~11日)によると、ヘイガマン氏に投票するとする者52%に対してチェイニーさんは30%で大幅にリードされることになった。しかも投票する候補未定とするものは11%しかいないので、チェイニーさんの再選は極めて困難と見られている。
ワイオミング州は伝統的に共和党優勢の州で、州民の71%が共和党に有権者登録をしている。チェイニーさんは「反党活動をする裏切り者」と見放されていることがあるとニューズレター「ワシントン・ウォッチ」は分析している。
侮れないトランプ氏の影響力
ワイオミング州の共和党候補を決める予備選は8月16日に行われ「ライノ」が失地挽回できるか注目されるが、もう一つの見どころがトランプ氏の影響力だ。
トランプ氏は今回の中間選挙で下院議員や上院議員、知事などに多数の候補者を推薦しており、その勝敗が同氏の共和党内での影響力を反映しひいては2024年の大統領選挙を占う目安になると考えられている。
これまでのところ、トランプ氏が推薦した候補者137人が予備選で勝利し、敗退した者は10人で勝率は93%にものぼる (BALLOTPEDIA調べ)。これに続いて、チェイニーさんが予備選に敗れることになると、同議員が主導している調査特別委員会の存在も影が薄くなり、ワシントン政界の風がいっきに「トランプ寄り」になびくことになるかもしれない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】