決定的証人のはずが偽証の疑いも

中間選挙前の米政界の決戦場ともいわれる議会乱入事件特別委員会で、決定的証人とされたホワイトハウス側近の証言に偽証の疑いが指摘され、民主党主導の特別委員会の存続が危惧される事態にもなってきた。

アメリカ連邦議会議事堂を襲撃するデモ隊
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昨年1月6日の議会乱入事件を調査している下院の特別委員会は民主党と反トランプ派の共和党議員で構成され、原因究明というよりはトランプ前大統領の乱入への関わりを明らかにして11月の中間選挙で民主党の立場を強化すると共に、トランプ氏の2024年の大統領選への出馬を阻止する狙いがあるといわれてきた。

トランプ政権幹部側近が爆弾証言

6月13日から始まった公聴会ではトランプ氏が前回の大統領選の結果に強い不満を抱いていたことは明らかにされたが、乱入事件に直接関わった証拠や証言がないまま特別委員会のあり方が問われ始めていた折「決定的証言」とマスコミに前打ちしてトランプ政権のマーク・メドウズ首席補佐官の側近だったキャシディ・ハッチンソンさんへの聴聞会が行われた。

キャシディ・ハッチンソン氏の聴聞会(6月28日)

聴聞は2時間に及び、ハッチンソンさんは乱入事件当日のトランプ氏の行動について詳細に証言し、当日トランプ氏が暴徒が議会へ向かうのを止めようとしなかったことや、聴衆の中に武器を持っているものがいることを知っていたこと、さらに自分も議会へ向かおうとして運転手に指示しながら警備のシークレットサービスに反対されると警備官を襲い運転席に手を伸ばしハンドルを操作しそうになって制されたことなどを赤裸々に語った。

「キャシディ・ハッチンソンがトランプと乱入事件に投下した爆弾の全て」

当日のワシントン・ポスト紙電子版の記事見出しは、この証言がトランプ氏と同氏を支持する共和党保守派に致命的な打撃を与えたと伝え、主要マスコミの多くが同様の見解で報道した。

トランプ前大統領

トランプ氏に致命的打撃のはずが…

ところがそれから1日もたたない29日朝、トランプ氏には批判的なNBC放送のホワイトハウス取材キャップのピーター・アレクサンダー記者が次のようなツイッターを公表した。

「シークレットサービスに近い情報筋は、当日トランプ氏に同行していた首席警備官のボビー・エンゲルも専用車の運転手もトランプ氏に襲われたことはなく、トランプ氏が専用車のハンドルを奪おうとしたことはなかったと宣誓証言する用意があると私に話してくれた」

その後他のメディアでも同様の話が伝えられ、また特別委員会がシークレットサービスにハッチンソンさんの話の裏付けをとっていなかったことも分かってきた。

さらに公聴会では、聴衆の乱入を防ぐためにトランプ氏が公表するはずでしなかった声明の原案のメモが示された。首席補佐官と肩書きの入ったメモ用紙には「(不法にという文字が消され)許可なく議事堂に入ったものは直ちに立ち去ること」と手書きで記入されており、ハッチンソンさんは「メドウズ首席補佐官の口述で私が書きしました」と供述した。

トランプ氏の声明原案メモ

しかしその直後、ホワイトハウスの弁護士のエリック・ハーシュマン氏の代理人が「それはハーシュマン氏の書いたもの」と公表した。同代理人によると、ハーシュマン氏が書いた原文の「不法に」という部分に首席補佐官が疑問を呈して削除した経緯があったものだということで、これを自筆だと証言したハッチンソンさんには偽証の疑いがかけられることになった。

この他のハッチンソンさんの証言は、自分で目撃したことではなくホワイトハウスのスタッフからの伝聞を述べたものだが、連邦法第1621条には次のような規定がある。

「宣誓の上誤った情報を意図的に証言した時は罰金または5年以下の禁固刑に処す」

宣誓するキャシディ・ハッチンソン氏

この問題、ハッチンソンさんに対する疑惑だけでなく議会乱入事件特別委員会の信頼性にも疑念を抱かせることにもなりかねず、ひいては11月の中間選挙の行方からその先2024年の大統領選挙をも左右することになるかもしれないと注目されている。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

記事 265 木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。