「コロナ禍の状況が続いていて、その中でしっかりと感染対策を取りながら試合をして、常に注意を払わなければいけないですし、(海外遠征から)帰って来てからも隔離がある。そこが難しいです」

この記事の画像(8枚)

これは間もなく開催される「FIBAアジアカップ2021予選」を直前に控え、ナショナルトレーニングセンターの一室からリモート取材に応じた、バスケットボール男子日本代表で五輪代表の有力候補でもある田中大貴選手の言葉だ。

今、東京五輪に向かう選手たちはこれまでにない状況に直面している。
自身のコンディション調整はもちろん、代表選考での生き残り、チームとしての強化、そこに関係者全員でのコロナ対策といった要素が加わる。

特にバスケのようなコンタクトをともなうスポーツの場合、一人でも感染者が出れば、周囲への大きな影響が避けられないだけに、より神経を使うことになる。

もちろん海外遠征をすれば帰国後の隔離は免れない。チームスタッフもナショナルトレーニングセンターに泊まり込み、一切の外出を控えた生活で外界との接触を経っているという。

1年4ヶ月コロナに翻弄された国際大会

そんな彼らが東京五輪を控えた今、立ち向かう大会もまたコロナに翻弄されている。

「FIBAアジアカップ2021予選」

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大で、昨年2月の試合を最後に、延べ1年4カ月に渡って延期や、中止が繰り返されて来た大会だ。

選手たちは代表招集をされながらも、戦わずして解散という経験をしてきたが、ようやく今週16日からフィリピンで、バブル形式による感染対策を施して集中開催される。
そのフィリピン国内では、多くの感染者が出ていて、連日百数十人が死亡しており、国民のワクチン接種を急いでいる状況だ。

来月に迫る五輪を控えた今、日本代表チームが国内で調整するのではなく、海外で国際大会の予選を戦うという日程は過酷に映るが、日本が“50年ぶり3度目制覇を狙う”アジア杯の本大会に進むには避けては通れない道でもある。

そればかりか、この1年4ヶ月もの間、一切の対外試合が出来なかった日本代表チームの強化という意味では極めて重要な大会になっている。

残り試合には、世界ランキングで格上の中国との対戦が2試合など、計3試合が予定されており、現地には約1週間という弾丸遠征だ。

チームを率いるラマス・ヘッドコーチは、「16ヶ月の時間は大きな時間だ。活動が出来ず苦しかった。試合が出来なかった事も苦しかった。しかし失われた時間を取り戻し、最後に戦った試合の時より進化した姿を見せる」、それが目標のひとつと語る。

そして代表候補の選手たちも、この戦いの先に五輪を見据えている。

かつてNBA入りを目指しアメリカに挑戦したこともある司令塔の富樫勇輝選手は、期待を語る。

「東京五輪が決まって以来、五輪に出場するために、日本代表に選ばれるために何をすべきかと思って、日本に帰って来てBリーグでプレーしているので、ワクワクする想いでいっぱいです」

チームの精神的支柱・篠山竜青選手は、「これまでも何度か集まって合宿をしていましたが、その度に大会の中止が発表され、この1年間は本当にいろんなことがありました」と振り返りながら、そんな中でも「東京五輪の夏をモチベーションにやってきました」と意気込む。

さらに一昨年のW杯の本大会では5戦全敗。

世界のレベルを思い知らされた経験を踏まえ、「ワールドカップの5試合を忘れてはいけない。アジアでは何とかやれてきたことが通じなかった。世界を肌で感じた部分を常に頭に思い描いて、国内でもプレーしてきました」と、今大会で世界レベルを意識する訳を語った。

五輪代表に生き残れるか?選考はここからが本番

しかし実際には、まだ誰一人として東京五輪の代表入りが約束された訳ではない。
5人で戦うバスケの場合、五輪のベンチメンバーはわずか12名。

この大会の後にアメリカNBAで活躍する八村塁選手、渡邊雄太選手が帰国し合流すれば、代表争いはさらに狭き門になる。

ラマス・ヘッドコーチはこう語る。

「次の選手の絞りこみとして現在の17名から15名に絞ります。この大会の最終戦のあとに、カットをする考えです」

母国での五輪出場は、アスリートたちの限られた現役生活でまさに「一生に一度のチャンス」にほかならない。

チームにとっても、選手ひとりひとりにとっても、一切の予断が許さない戦いが待ち受ける。コロナという見えない敵と戦いながら。

(取材・文 吉村忠史)
 

FIBAアジアカップ2021予選

・6月16日(水)日本対中国(フジテレビ地上波:深夜1時25分~3時40分)
・6月18日(金)日本対チャイニーズタイペイ(BSフジ:深夜0時30分~2時30分)
・6月22日(火)中国対日本(フジテレビ地上波:深夜1時25分~3時40分)

https://www.fujitv.co.jp/sports/basketball/asiacup/qualifiers/index.html