実の父親から性的暴行を受けた福山里帆さん。その裁判で、被告人である父親に懲役8年の実刑判決が下されました。

判決の日、里帆さんは「もし無罪だったらどうしよう」「どんな判決が下るだろうか」という不安で、前夜はなかなか寝付けず、裁判所へ向かう道中も胃が痛むほどの緊張の中にいました。

富山地裁の法廷に入ると、前回証言台に立った時と同じように、思っていた以上に体が震えたといいます。
「自分がやってきたことにどんな結果がくだるのか」。固唾をのんで見守る中、裁判長が言い渡したのは、検察の求刑通りの判決でした。

実名で顔を明らかにして被害を訴えてきた里帆さん。記者会見で、判決を聞いた瞬間の気持ちを語りました。
「やって良かった」求刑通りの判決に安堵

――判決を聞いた時、どのように思われましたか?
里帆さん: すごく安心しました。検察側の主張より(刑期が)短くなる可能性があるというふうに聞いていたので、今回8年と言っていただけて、より私の証言、私の気持ちを組んで下さったというふうに感じて、すごくやって良かったなっていうふうに思いました。
判決では、里帆さんの供述について「高度の信用性が認められる」と繰り返し言及されました。一方で、父親である被告人の弁解は「全く信用できない」と断じられました。
そればかりか、「里帆さんの人格をないがしろにして、冒涜するような発言をしている」と厳しく指摘。実の父親として娘を守るべき立場にありながら、自己の性欲を満たすために被害者の人格を無視した「卑劣で悪質な行為」だとしました。

里帆さんは、この判決理由を聞き、自らの思いが裁判官に伝わったと感じたといいます。
里帆さん: 私のことを全面的に「高度に信用にたる」という風に言ってくださって、私が3月の証言ですごく大変で嫌な思いをして、泣きながら行った甲斐が、ここで報われたのかなという風に思う。しっかり裁判官の方にも伝わったのかなと感じて。頑張って良かったな、しっかり自分が頑張ったことに対して、このように社会が、裁判官が、認めてくれたんだなっていう風に感じました。
「思っていた以上に辛かった」裁判がもたらす二次被害

警察に相談してから判決まで、2年半という月日が流れていました。「長かったなと思います」と、里帆さんはこの期間を振り返ります。
特に、法廷で被害を証言するまでの過程は、想像を絶する苦しみを伴うものでした。
――裁判が進む中で、どのような状況だったのでしょうか?
里帆さん: 思っていた以上に、大変辛かったっていうのが正直な感想です。こんなにも詳細を語らなければいけないのかと。本当に人の前で、親しい人の間柄の中でも喋らないようなことを話さないといけないので、非常に辛かったです。

里帆さん: 検察の証言に臨む時に、練習を何度かして、この期間が一番辛かったです。何度も何度も追体験。過去の14歳だった自分、15歳だった自分に戻って、本当に詳細を映像として思い浮かべる。記憶にふたをしていたものを思い出して、それを言葉にする。言葉にすると頭にまたそれが染み込んできて、忘れていたのにすごく脳みそにまた刻み付けられて。
家に帰ると、当時の映像がフラッシュバックし、心身に不調をきたすこともありました。練習に向かうために電車に乗ろうとしても、気持ちが悪くなって乗れない日もあったといいます。
さらに、被告人側の弁護士からは、「もっと拒否できたんじゃないか」といった趣旨の質問も投げかけられました。「なんでこんなひどいことを聞かれないといけないんだろう」。公平な裁判のためと頭では理解していても、心は深く傷つきました。
「彼女の明日を諦められなかった」夫の献身的な支え
この長く、過酷な道のりを、里帆さんは一人で歩んできたわけではありません。夫であるよしきさんの存在が、何よりの支えでした。
里帆さん: (夫の)佳樹さんのサポートをなくして、ここまで来ることっていうのはできなかったと思います。
里帆さん: 父を訴えるということは家族と決別するということなので、裁判や告訴する前に籍を入れたんですね。「もう家族がいなくなるから心細いだろう」と籍を入れてくれて。私にはもう親はいないけれど、よしきさんという新しい家族がいるからなんとか頑張れると。心と体のサポートをしてくれて、なんとか今、裁判を終えることができたと思います。

夫の佳樹さんは、里帆さんと初めて出会った日に被害について聞き、「力になるよ」と約束したといいます。その日から今日まで、隣で支え続けてきました。
佳樹さん: 彼女の明日が欲しい。そのためにここまで一緒にやってきた。もし私が彼女を信じなかったとしたら、おそらく彼女の明日は本当になくなるんだろうなと。彼女のいない社会を自分が受け入れるのか、彼女のいる社会を作るために自分自身の他の全てを犠牲にするのか。その選択に迫られた時に、彼女の明日を私は諦められなかった。

家庭内での性被害は、被害者の心に深い傷を残します。佳樹さんは、被害者が置かれる過酷な現実を社会に知ってほしいと訴えます。
佳樹さん: 今でも私たちの自宅では、玄関の鍵が2つあって、さらには内鍵があって、さらには赤ちゃん用の鍵ストッパーがあって、4つの鍵をつけて初めて彼女は安心して眠ります。それが家庭の中で、安心できる環境の中で性犯罪にあった方の現実なんだと、社会に是非知っていただきたいと思います。
「次は私が恩返しを」家庭内性被害者を支える財団を設立

判決を受け、里帆さんと佳樹さんは、新たな一歩を踏み出しました。家庭内性被害に苦しむ子どもたちを支援するための財団法人「Second Birthday」を設立したのです。
里帆さん: 今回私はいろんな人に助けていただいて、このような判決を勝ち取ることができたので、次は私が恩返しとして社会に何かできることがないかということで、このような財団を立ち上げることにしました。
財団では、刑事告訴に立ち上がる被害者に対し、最大のハードルとなる裁判期間中の生活費を主に支援していくといいます。
佳樹さん: 家庭内性被害に関しては被告が家族ですから、それ以外の家族からの支援が受けられない可能性が非常に高い。そうなると経済的にも精神的にも孤立してしまう。被害者が立ち上がることができるためには、家族からの支援が得られない以上、社会全体で支援できる環境がなければならない。
財団名の「Second Birthday」には、「生まれ変わる」という意味が込められています。
里帆さん: 裁判を終えてまた新たな人生をリスタート切れる区切りになると思っています。私の場合は裁判を行って、第三者に区切りをつけてもらってリスタートを切るという選択を取りました。

最後に、里帆さんは今この瞬間も被害に苦しんでいる人たちへ、メッセージを送りました。
里帆さん: 非常に今、辛い思いをしていると思います。でもこうやって社会はしっかり、公平に見てくれるので、声を上げて「助けて」って、周りに信頼できる大人に相談して欲しいです。
里帆さん: 中学生、高校生の青春という時代を、子どもたちみんなが明るく楽しめるような社会になったらいいなと思って、少しでも微力ながら協力できたらと思います。