3月にカナダ・モントリオールで行われた世界フィギュアスケート選手権2024。シーズンを締めくくる大舞台に2年振りに帰ってきた選手がいる。
20歳の鍵山優真(かぎやまゆうま)。完成度の高い演技でショートは2位につけると、続くフリーでは、公式戦初となる4回転フリップを決めて、堂々の銀メダルを獲得した。
![世界フィギュアで銀メダル 鍵山優真(20)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/3/c/700mw/img_3c51ffe6139c10aaf949a898b4616adc261201.jpg)
ここまで来られたのは、父がいるから。
鍵山優真が父と共に進んできたその道のりを見つめた。
父と二人三脚で始まったスケート人生
浅田真央や宇野昌磨(しょうま)など、数々の名スケーターを輩出した中京大学。
ここが優真の練習拠点だ。
ディレクター:
初めてスケート靴を履いた時を覚えていますか?
優真:
全然覚えてないです。気づいたらここにいました。
滑ることがずっと日常。
練習は、週6日 午前と午後の約1時間、父とのセッションを行っている。
武器は「4回転ジャンプ」。
出来栄え点は群を抜き、“世界一美しい”とも称される。
コーチは父、鍵山正和(52)。リンクサイドでこう語りかける。
![コーチの父・鍵山正和](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/0/700mw/img_80af1d605addc10fb8d120e3d2c97d4c70060.jpg)
「(着地は)膝じゃなくて上体を揺らし始めると吸収できなくなっちゃうからリズムは悪くない。踏みきり自体は問題ないよ」
正和はオリンピアン。
1992年のアルベールビル五輪では13位、1994年のリレハンメル五輪では12位。
日本男子フィギュアスケートの道を切り拓いてきた人。そして、「4回転ジャンプ」に挑んだ初の日本人。それが正和だった。
その父の想いを受け継いだのが、当時5歳だった息子の優真だ。カメラの前でこう答えている。
![5歳の頃の優真](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/6/4/700mw/img_64fc375c0c53cfcb15a73c8200e33d1a152524.jpg)
「パパがオリンピックに出て、スケート始めようかなと思った」
父の病をきっかけに強くなった自分
こうして優真は、父と二人三脚でフィギュアスケーターへの道を歩むこととなった。
だが、当時、父・正和には複雑な想いもあった。
「個人スポーツって結構、孤独感もあったりするので、『本当にいいのかな』」という気持ちの方が強かったですね、(優真が)小さい頃は。でもその孤独感というのを、彼自身は感じていないとは思うんですけど」
練習も日常もずっと一緒の二人三脚。けれど小学生時代は表彰台に一度も登れず。
それでも父には焦りはなかった。当時を振り返りこう語る。
「本人はすごくじれったい部分があったと思うんですけど、親として焦りは感じていなかったですね。『きっかけ』ができる時は必ずあるんですよ。だからこちらはドッシリ構えてやるべきことをコツコツ、コツコツ重ねていく。もうそれしかないと思っていましたね」
中学3年。「きっかけ」を待つ優真に試練は訪れる。
父・正和が脳出血を発症
優真は、臨時コーチを依頼し、練習メニューは自ら組み立て、前を向き続けていた。 当時のインタビューでは。
「父がいつもどこかで見ている感じで頑張って出ています。このシーズンは難しいかもしれないけれど、来シーズンからまた父が帯同できるようになってくると思うので、そこで成長した姿を見せられたらと思っています」
半年間続いた父の入院を「成長の糧」にした優真。
その証となった試合が、高校1年の全日本ジュニア選手権だ。
![高校1年で出場した全日本ジュニア選手権](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/e/700mw/img_7e9da8bd72b58a624850cdfa9955f867157047.jpg)
フリーで使用した曲は、1988年の映画『タッカー』の中から「スピードウェイ」。
現役時代、父が使用した曲を選んだ。
4回転ジャンプを含めノーミスの演技を見せ、初の栄冠。非公認ながら、当時のジュニア世界最高得点だった。
「きっかけ」をつかんだ息子に父は。
「本当に強くなったなと思いますね。精神的な部分の成長じゃないですかね。 そこは本当に感じますね。親として言うのであれば、インストラクターとしてではなくて、ちょっと寂しさも感じる部分ではありますよね。自立をしていくわけだから、『手が離れていくな』という部分ではちょっと寂しさは感じますけど、それは仕方がないことなので、今日はしっかりと喜んでおきたいと思います」
2022年 優真18歳の北京五輪
父との二人三脚は、その通過点に銀メダルを実らせた。
しかしその後、男子フィギュアの勢力図は一変する。
世界フィギュア2連覇(2022、2023)の宇野昌磨や同世代の三浦佳生(かお)、佐藤駿ら群雄割拠の国内男子に加え、世界初の「4回転アクセル」を成功させたアメリカのイリア・マリニンを筆頭に、次世代スケーター達も台頭。
そんな中、優真は長年にわたり酷使してきた身体が限界に。2022年夏、左足首を疲労骨折してしまう。
![ケガで2022シーズンを棒に振った](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/a/8/700mw/img_a89af7a7f69057ea45f3019c8082b932181844.jpg)
2022シーズン、国際大会の出場はなし。耐え忍ぶ日々が続いた。
2023年 渡欧して「芸術性」に磨きを
迎えた2023シーズン。優真は「復活と飛躍」を期してイタリアへ渡った。
カロリーナ・コストナーに教えを乞う。それが目的。
![2023年9月 イタリアへ渡った](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/a/700mw/img_da51ab37ff361456dd2d5a0fe35a7c2c252701.jpg)
コストナーは2014年ソチ五輪の銅メダリスト。芸術性の高さで知られている。
感情表現や物語性を演技に吹き込む。そのために優真が選んだコーチだ。
![新コーチのカロリーナ・コストナー](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/b/e/700mw/img_be82c63aa70fea529cc41390a48a04bb265009.jpg)
「もっともっとこう自分の、誰も真似できないようなスケートがしたいなという風に新しい視点で考えて、そこは父だけじゃ足りない部分もあると思いました」
この日は、ショートプログラムの練習。もっと躍動的に滑ることができるとコストナーは見抜き、優真にコーチする。
![コストナーの下で「芸術性」を学ぶ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/3/4/700mw/img_343da629caac9bdcdd3dca42c8981228153230.jpg)
「足を高く上げずに、前に伸ばしてつま先をしっかり伸ばせば、全身の筋肉に力が入るわ。 やっている時には上を見る?それとも目線は水平?上を見ると難しくなるから。 ここでは頭の動きを大きく強調させて、『爆発』の振り付けは大きな動きで見せて」
ジャンプやスピンなど技術面だけでなく、芸術性をさらに高めるのが鍵山親子の狙いだ。正和も期待を寄せる。
「今のショートやフリーの芸術性をアップさせていく上では(コストナーコーチは)欠かせない存在だと思っていますので、 二人三脚と言われていたのはすごく嬉しいことなんですけど、彼が目指す彼になるためには新しいコーチというのは必要不可欠だと考えていたので、大きな強みになると思いますね」
コストナーがコーチに加わったことの成果はどれほどあったのか。
世界フィギュアで2度の銅メダルに輝いた本田武史は、こう分析する。
![鍵山の「表現力」を分析する 本田武史](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/1/700mw/img_91b59f226183424867e07e7cf5174b7c100773.jpg)
「その曲に合わせた強さというところが演技の中でも出ていると思いますし、その強さにスピード感がプラスされたので、2022シーズンよりも2倍も3倍も力強さがありますね」
2022年の全日本選手権と2024年2月に行われた四大陸選手権のショートプログラムの演技を比べてみる。
![左:2022年 全日本選手権/右:2024年 四大陸選手権](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/b/700mw/img_db3efd6d89f453e6601cfa43050bd43e121211.jpg)
例えばひとつの場面。左手を前に伸ばす直前、全日本では動きを一瞬止めていた。 それが四大陸選手権以降では、切れ目なく、一連の動きになっていたのだ。 本田もその進化を認めた。
「鍵山選手のスピード感を生かすために、動きを止めずに躍動感を出した演技になっていると思います。動きにスピード感が出るので、リンク全体を大きく使っています。立体感を出してプログラムを表現していますね」
自分を信じて。未来信じて。
「知らない景色」を見るために、優真は自らのプログラムに磨きをかけた。
「何がゴールか、僕の理想かっていうのはまだ全然分からないですけど、 まだ成長途中というのはすごく感じているので、僕の理想のスケートができるように頑張っていきたいです」
2024年 父と子で掴んだメダル
そして迎えた、2年ぶりの大舞台。世界フィギュアスケート選手権2024のショートプログラム。
曲は「ビリーバー」。
優真の演技に会場はスタンディングオベーション。
圧巻のパフォーマンスで、ショートプログラムは2位につけた。
![2024年 世界フィギュア選手権 SP演技後の笑顔](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/b/700mw/img_dbbc623f4276d43736ee6ee16436cd74229916.jpg)
優真:
やった!
ディレクター:
お父さんはなんて言ってくれましたか?
![SP演技後 父と抱き合う](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/c/c/700mw/img_ccacdde9d0ade0b97992a9ceab83376c197970.jpg)
優真:
なんて言ってたっけ。興奮してあんまり覚えてない。でも良かったって言ってくれたと思いますよ。ずっと見てくれている人の視点だと、もうちょいできたかなという部分はあったんですけど、でも最低限はやり遂げたじゃんないかなと思います。
一方、父・正和にディレクターが声をかける。
ディレクター:
明日、楽しみと心配、どちらが大きいですか?
正和:
楽しみという言葉出てくるのはどんな試合においても僕は持てないですね。悔いがないようにやってくれれば、僕はそれでいい。
そして、迎えたフリーの演技。
優真は圧巻の世界観を表現し、ジャンプでは公式戦で初めてとなる「4回転フリップ」を決めた。
結果は、合計得点で309.65。
![父と子 二人三脚で掴んだ銀メダル](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/d/700mw/img_7d70c95f730d70e675fab4060b33bf70219338.jpg)
今シーズン自己ベストを叩き出し、自身3回目となる銀メダルを獲得した。
2年後、2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪で金メダルに輝くために。
父と子の旅は続く。
![](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/a/d/700mw/img_ad80553e62b7569149cc09b48d0f249a440888.jpg)
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