普段、何気なく交わしている会話やコミュニケーション。

しかし、中には発達障害や吃音、難聴などさまざまな理由で言葉に遅れが生じ、会話やコミュニケーションがうまくできない子どもたちもいる。

そんな子どもたちと親を支援するのが小児言語聴覚士の仕事だ。まだ認知度は低く、資格者の数も多くない。子どもを、そして家族を支える小児言語療法の現場を通して、小児言語聴覚士の大切な役割とその必要性を訴えていく。

(全2回、#2はこちら)

言葉の発達の遅れに不安…

言語聴覚士は、脳卒中後の失語症や聴覚障害、言葉の発達の遅れなどに対し、対処法を見出すための検査や評価を行ったり、必要に応じて訓練や指導、助言、援助をする仕事だ。

対象は小児から高齢者まで多岐にわたるが、小児言語聴覚士は、子どもを対象とし、それぞれの子どもが抱える行動面・言葉の遅れの原因を探り、発達段階に合わせた言語療法を行い、サポートしていく。

春に新しい一歩を踏み出した、小学1年生(取材当時)の弘幹(こうき)くん。

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先天性の病気で治療を受けてきた弘幹くんは、その影響もあり、サ行をうまく言うことが出来ず、言葉に幼さが残っていた。

両親も弘幹くんの成長に少し不安を感じることがあったという。

新潟市にある新潟南病院・はったつ外来は、コミュニケーションや発達の遅れなどで悩みを抱えた親子が訪れる。ここでは、子どもの成長を促す小児言語療法が行われている。

小学校に入学するまでに弘幹くんの発音が良くなればと、母・菜々子さんは小児言語療法に望みを託した。 

小児言語聴覚士と訓練をする弘幹くん

新潟南病院のはったつ外来は、医師と訓練を行う「ST」と呼ばれる言語聴覚士が支援を行う診療部門だ。発達障害や発音障害のある小学校入学前の子どもを対象に、小児言語聴覚士が苦手な部分を克服できるよう、遊びを交えた訓練を行っている。

新潟南病院・山崎佐和子医師

新潟南病院の山崎佐和子医師は「1歳半検診で行動面・言葉の遅れを指摘されたお子さんから、年長さんでおしゃべりがまだ不明瞭であるというお子さんまで受けさせてもらっています。自分の言いたいことをしっかりアピールしたり、周りのお子さんともやりとりできるような、コミュニケーションの力を少しずつ伸ばしてあげることを目標にしています」と話す。

はったつ外来へ通うようになって1年ほどで弘幹くんは、苦手なサ行の発音もできるようになった。母・菜々子さんも「来てみてすごくよかった。私はずっと一緒なので分からないのですが、半年ぶりに会った人に『しゃべり方が上手になった』と言われてビックリされました」と笑顔を見せる。

新潟南病院では医師と連携

新潟県内2ヵ所の発達障害支援センターに寄せられた12歳以下の子どもに関する相談者の数は、人口が減少する中でも徐々に増加。

また、子どもの発達具合を確認する新潟市の1歳6ヵ月児検診では、5682人のうち発達の心配があるとされる子どもの数は全体の約3割(2018年度)だ。

一方でその全員が小児言語療法を必要としているわけではなく、ニーズの見極めが難しくなっているという現状がある。

子どもの発達相談が増える中、新潟南病院の院長・渡部裕さんは、はったつ外来の設置を強く推し進めた。

「みなさんがすごく成長するかと言ったら、残念ながら、小児言語療法による到達点も子どもによってまちまち。ただ何もしないというよりは、何かをした方が伸びるのは間違いないと思っています。我々が何かすることで、お子さんが少しでも成長できる手助けをしているという自負があります」

新潟南病院では、子どもの状況を調べ、小児言語聴覚士(ST)が評価と協議を行いサポートプログラムを作成し、言語聴覚療法を実施していく。その成果を、医師や小児言語聴覚士が話し合い、子どもの成長に合わせてプログラムを変更しながら時間をかけて取り組んでいるという。

小児言語聴覚士と訓練をする弘幹くん

医師と小児言語聴覚士の連携は重要だ。新潟南病院では医師が客観的な立場から発達の遅れなど、子どもの成長を総合的に評価。一方、小児言語聴覚士は言語聴覚療法を行いながら、親子に寄り添い、悩みを共有する。それぞれの立場から、子どもに合った支援で親子の成長を促していく。

山崎医師も「医師とSTの間のコミュニケーションを密にしていくことが、親御さんや患者さんの還元につながると思っています」と話した。

言葉の発達以外にも不安が…

祥史(やすひと)くん(4歳・取材時)も、はったつ外来に通っている。

先天性の病気で甲状腺が半分しかなく、その影響でほかの同い年の子どもより成長がゆっくりで言葉が少ない。

言葉がなかなか出なかった祥史くんが、最初に話した言葉はお母さんを意味する「かか」だった。

不安なことは言葉の遅れだけではなかった。

色と言葉の結びつけが苦手で、黄色を認識して言葉に発することが出来なかった。

「黄色」と言われて青色の車を手に取る祥史くん

このことに気づいた幸恵さんは、「何がわかっていて、何がわからないのかがわからなかったんですけど、STさんに(祥史くんの)弱い部分を教えてもらってから、わかっていると思っていたけどわからなかったということがわかった」と納得しながらも、「先のことを考えるとどうすればいいんだろう…」と不安を口にした。

祥史くんが小児言語療法を受けるようになり、1年が経った頃には、少しずつ色と言葉の結びつけができるようになってきていた。

小児言語聴覚士と手作りの蝶々を作り、指示した色のカードに蝶々をとまらせる訓練は、遊びのように楽しみながら、苦手な色や大小の理解を深めることが狙いでもある。そして、正解したときは大きなリアクションで褒めてあげる。

この訓練は、親子で取り組むことも大切にしているという。

「赤や青の色の教え方がわからなかったんですけど、楽しく教えるやり方を実際に見ているので、家に帰ってからも同じようにすることができます」と幸恵さんは話す。

親子の支えとなる小児言語療法。

後編では、小児言語聴覚士の課題と不足する小児言語聴覚士の育成の取り組みを追っていく。

(第29回FNSドキュメンタリー大賞『かか 親と子のかけ橋 ~小児言語聴覚士の希望と現実~』)

【後編】“コミュニケーション”が取れない子どもたちをサポートする小児言語聴覚士が直面する課題