貿易相手国に関税戦争を仕掛ける米国のトランプ政権の足元で、インフレが急速に加速し出し、経済のプロの間から「トランプは経済がわかっているのか?」という声が上がり始めている。

3年先の予想物価上昇率が1年1カ月ぶりの高水準に

ニューヨーク連邦準備銀行は13日、3年先の予想物価上昇率が3%と前月比0.4%上昇し、1年1カ月ぶりの高水準になったと発表した。FRB(連邦制度理事会)が目標とする2%を大幅に上回ることになる。また食品やエネルギーなど中核の消費者物価も、1月は前年比3.3%上昇を記録し、インフレが予想以上に進行していることを示唆した。

「バイデン政権の経済政策の失敗がインフレを助長させた」と選挙戦を戦って勝利したトランプ大統領だったが、そのバイデンフレーションを退治できなかっただけでなく悪化させさてしまったのだ。加えて、トランプ大統領の目玉政策である関税引き上げを行うと、輸入製品の値上がりにつながり、インフレはさらに悪化すると大方のエコノミストは指摘する。トランプ大統領は13日、これについて記者に問われると次のように弁明した。

「物価は短期的には上がるだろうが、その後下がるはず」と述べたトランプ大統領(2月13日)
「物価は短期的には上がるだろうが、その後下がるはず」と述べたトランプ大統領(2月13日)
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「これから上がるのは就職率だ。上がるぞ。物価も短期的には上がるだろうが、その後下がるはずだ」

「インフレ再燃はトランプ政権にとって最大の脅威」

しかし、経済のプロたちは納得しない。経済専門紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は12日「トランプ経済学とインフレの上昇」と銘打った社説を掲載し、その冒頭で次のように皮肉を込めて問いかけた。

「トランプ大統領はマネーについて理解しているのだろうか?」

「マネー」と言っても現金のことではない。貨幣供給、金利で測られるお金の価値、そしてそれらがインフレに及ぼす影響について大統領が理解しているのかをウォールストリート・ジャーナル紙の社説は問い、こう続けた。

「その答えはノーであるように思える」

トランプ大統領は自身のSNSで、インフレ退治のために金利引き下げを求め「それで関税と相乗効果を生む」と関税引き上げを正当化しているが、社説は「知的混乱が重なった論理であり、理解するのは困難だ」と一刀両断に切り捨てている。

ウォールストリート・ジャーナル紙は共和党寄りの論調で知られ、今回の大統領選挙でも、トランプ氏を推薦こそしなかったが好意的な記事が目立った。しかしトランプ氏が大統領に就任してからはその経済政策には批判的で、大統領がカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課すと発表したときは、その社説で「最も馬鹿げた貿易戦争が始まった」と論じていた。

そして今回のインフレ加速の予兆を受けて、12日の社説はこう締め括っている。

「政治学的な観点から見ると、インフレの再燃はトランプ政権にとって最大の脅威かもしれない。トランプ氏が当選したのは、有権者がバイデン政権下でのインフレと実質所得の減少に反発したからだ。実質賃金は過去3カ月間横ばいであり、インフレは上昇している。この状況が続けば、トランプ氏の支持率53%も長くは持たないだろう」
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】 

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。