不夜城ラスベガスに異変
「歓楽の不夜城」とも言われる米国のラスベガスに最近、閑古鳥が飛来し始めたらしい。
米国では夏の観光シーズンを迎えて、ラスベガスでも例年ならホテルもカジノも大いに賑わっている頃だが、今年はちょっと様子が違うようだ。

「ラスベガスは危機に瀕しているのか?」(ニューズウィーク電子版28日)
衝撃的な見出しの同誌の記事は、最近のラスベガスについて次のように伝えている。
「ラスベガスのパーティーは、まもなく終焉を迎えるかもしれない。経済的な困難と観光客・住民の流出が続く中、この街が『世界のエンターティンメントの中心地』の地位を失う恐れが出てきている」

「ホテルの稼働率は低下し、観光業の落ち込みは全米最悪のネバダ州の失業率をさらに悪化させる懸念がある。かつて『罪の都』の経済の中心だったカジノも、数カ月連続で収益の減少が続いている」
旅行業界誌「トラベル・ウィークリー」電子版21日によると、6月のラスベガスのホテル稼働率は14.9%低下しており、このままだと今年最大の月間減少となる。
この傾向は7月も続き、7月5日までの週では、ラスベガスは全米トップ25のホテル市場で最大の減少率を記録。稼働率は66.7%にまで落ち込み(16.8%減)、販売可能客室当たりの収益は28.7ドル減の102.75ドルになった。
ラスベガス観光不振の要因
その要因として、各マスコミが指摘しているのが次の3点だ。
【諸物価の高騰】
これはラスベガスに限ったことではないが、観光地では物価の変動が極端に現れるものだ。ラスベガスのホテルに宿泊した旅行客が、ベーグル(リング状のパン)一個が33ドル(約5000円)、ミネラルウォーターがひと瓶26ドル(約4000円)請求されたという話が旅行関係のブログで流布されている。

【経済の先行き不安】
米国の経済は好況が続いているが、関税問題の影響など 先行き不透明感が強いので消費者がラスベガス旅行のように高額な出費には慎重になることが考えられ、訪問客でも所得中間層が目立って減っていることがそれを裏付けている。
【カナダ人観光客の敬遠】
トラベル・ウィークリー誌の記事は「カナダからの旅行客を中心とした国際観光客の減少が主な原因だ」とするネバダ大学のスティーブン・ミラー経済研究センター長の分析を紹介している。
昨年、ラスベガスを訪れたカナダ人は142万人余にのぼり海外からの旅行者の3割近くを占める。カジノだけでなく絢爛豪華なショーやカナダ人にとって珍しい砂漠の光景に魅入られてのようだが、滞在期間も長く地元を潤すので歓迎されている。

ところが今年に限ってそのドル箱のカナダ人観光客が少ないのだ。6月だけでも、自動車で米国との国境を超えて入国したカナダ人は昨年比で33%減っており、航空旅行客も同様に減少している。
「トランプの乱暴な発言で、カナダ人の米国への観光旅行が劇的に落ち込んだ」(PBSニュース7月25日)
トランプ米大統領は今年3月「カナダが米国の51番目の州になれば税金が安くなる」とSNSに投稿。以来その主張を撤回せずことあるごとに繰り返している。
これに対して多くのカナダ国民が憤慨したのはいうまでもない。「トランプの米国に金を落としに行くことはない」と、今年のバカンスは中南米や欧州で過ごすことにしたカナダ人が多いというのだ。
観光業界の「トランプ・スランプ」
この夏の観光シーズンを前に米国の観光業界では「トランプ・スランプ」という言葉がよく使われた。
トランプと「スランプ(不振)」という言葉の韻を踏んで、トランプ大統領の経済や外交政策の影響で観光業界が不振に陥るのではないかという不安を示したものだが、ラスベガスに関してはこの「トランプ・スランプ」の衝撃をまともに受けたことになる。

トランプ大統領と言えば、今回の大統領選挙で「ホテルなどの従業員のチップ課税廃止」を公約して先月税法改正を行ったが、その前に「トランプ・スランプ」が始まって、ラスベガスのバーテンダーなどのチップの収入が半分以下になってしまった例もある(ウォール・ストリート・ジャーナル電子版7月26日)ということで、トランプ大統領はまるで「一人相撲」をとっているかのようだ。
こうした中でラスベガスでは「閑古鳥」が飛来して寂しい鳴き声を発しているわけだが、「閑古鳥」つまりは「カッコウ」を英語では「クックー(cuckoo)」と呼ぶ。
やはりその鳴き声から呼ばれるようだが、オクスフォード英英辞書を繰ると、同じ単語の形容詞は「クレイジー(愚か、非常識など)」とある。

カッコーは他の鳥の巣に自分の卵を産みつけ、巣の持ち主は気づかないままカッコーのヒナを育ててしまうことがあるので「無責任な鳥」とされているようだ。
ただ、本文で「閑古鳥」を引用したのは、あくまでも日本語で「人気(ひとけ)のない」という意味以外の意図はない。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)