「私の愛おしい料理は、能加万菜 郷のお造りの盛り合わせです」——街頭インタビューでそう答えた男性の正体は、そのお店の店長本人だった。自分の店の料理を愛おしいと語る、その真っ直ぐな想いの裏には、岐阜から金沢へ、観光客から店長へという、一人の料理人の熱い物語があった。

「ご自分のお店ですよね?」——思わず二度見してしまう、まさかの種明かし

この記事の画像(41枚)

石川テレビで毎週月曜日から金曜日の夕方に放送中の番組「石川さんパレット」の人気コーナー、「イトシメシ」。「愛おしい」と思う料理を県民に紹介してもらうコーナーだ。

街頭インタビューで、ある男性が答えた内容が視聴者の笑いを誘った。
「私の愛おしい料理は、能加万菜 郷のお造りの盛り合わせです」
そう答えた男性に、インタビュアーが「お仕事は何をされているんですか?」と尋ねると——「はい。店長です」という答えが返ってきた。

スタジオでは「何、そのパターンあるの?」「なにー?」と驚きの声が上がった。愛おしい料理として挙げたのが、他でもない自分が店長を務めるお店の料理だったのだ。
「ご自分のお店ですよね?」と確認すると、男性は少し照れながらも、「はい、そうです」とはっきり答えた。おすすめの理由については「地元のお魚にこだわって、お客様に楽しんでいただけるように仕入れ、仕込みをしています」と語った。

これほど自分の店が好きな理由を、もっと詳しく聞いてみたい。そう思い、金沢市本町にある和食店「能加万菜 郷」を訪ねることにした。

金沢駅から歩いて7分の場所にある和食店

「能加万菜 郷」は、金沢駅から歩いておよそ7分、専光寺の裏手に位置する和食店だ。年中無休で営業しており、「能加万菜」という名が示す通り、能登と加賀それぞれの魅力を料理で表現することをコンセプトに掲げている。石川県の食材と食文化に深くこだわった、この地ならではの和食を提供している。

店長の安達吉盛さんが、木製格子の棚が並ぶ落ち着いた店内で出迎えてくれた。「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

店長に就任してから2年。西岡アナウンサーが「お店へのラブ度合いはどのくらいですか?」と尋ねると、安達さんは間髪入れずにこう答えた。
「ラブラブ、100パーセントです。このお店を愛しています!」
なぜそこまでこの店を愛せるのか。その答えは、安達さんの半生を辿ることで見えてくる。

料理人の父の背中を見て育った少年が、金沢で出会った「運命の店」

安達吉盛さんは岐阜県生まれ。父親も料理人だった。幼い頃から、厨房に立つ父の姿を見続けた安達さんは、自然な流れで料理の道を志した。

修業時代、先輩からこんなアドバイスをもらったと言う。「金沢がアツいらしい」——その一言が、安達さんの人生を大きく動かすことになる。今から7年前、安達さんは旅行で初めて金沢を訪れた。その旅の中で足を踏み入れたのが、ここ「能加万菜 郷」だった。

「観光の時に能加万菜 郷に客として来ました。そうしましたら、石川県を題材とした食材、食文化とかね、いろんなものにこだわっていたお店だったので、すごく魅力を感じまして、まず働こうとすぐに思って、就職しました。」

客として訪れ、料理を一口食べただけで、安達さんの心は決まっていた。これほどのこだわりを持つ店で、自分も料理をしたい——その想いから、安達さんは社長に直談判し、ここで働くことにしたという。

惚れた店で腕を磨き続けて7年。今では店長として厨房に立つ。「自分の店が愛おしい」という言葉の重さが、ここで初めてリアルに迫ってくる。

「旬を追いかけるのが第一」——安達さんが毎日市場に立つ理由

店長として日々大切にしていることを尋ねると、安達さんは一言で答えた。「旬」だ。
「旬、和食で言うとやっぱり旬を追っかけるのが、まず第一かなと思ってますので。今でしたら春。市場に行きましたら、春の旬の食材があったりとか、魚がいろんなものに変わっていきますので、そのへんも目で見ながら、確認して、調理に向かっていくという流れになります。」

西岡アナウンサーが「そのとき、そのときに合った食材を楽しめるんですね。」と言葉を受けると、安達さんは「はい、そうでございます。」と、静かな誇りを込めて頷いた。

安達さんは時間があれば仕入れ先に足を運ぶ。野菜だけでなく、魚も自分の目で確認してから調理に臨む。この日、仕入れ先の鮮魚店で目に留まったのは桜鯛と金八(チカメキントキ)だった。

「一番まず最初はこのね、目のこの輝き、うるおい」を見るという。鮮魚店の店主も「目が芯が真ん中にギュンってしとればしとるほどものはいいです。」と太鼓判を押す。

「金八はおすすめです」という店主の言葉に、安達さんも「1キロサイズね。今からいいですよね」と応える。

「醤油に脂が溶け出します」——この日の主役は、旬のブリ

こうして丁寧に買い付けた「旬」が、安達さんの手によって皿の上に命を吹き込まれる。それが、安達さんが愛おしいと語る「お造りの盛り合わせ」だ。

「これが安達さんの愛おしいお造りの盛り合わせですか」と確認すると、安達さんは誇らしげに「はい、そうでございます」と答えた。

この日の主役は、ブリ。美しく盛り付けられた刺身を前に、西岡アナウンサーが一切れを口に運ぶ。「もう醤油に脂が溶け出しますね」

「とろける、脂がとっても甘くて、幸せな気持ちになります」——食べた瞬間から、言葉が次々と溢れ出す。それほどの一口だった。

安達さんに、さばく時の思いを尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「お魚一つによっても、いろんな種類がありますし、切り方、盛り付け方、見せ方、こだわっております。例えばブリの切り身だったら、どれくらいのサイズがちょうどいいのかっていうのはやっぱり決まっておりますので、食感っていうのはやっぱり考えながら包丁を動かしております。」
包丁を握るその指先には、食感への計算と、食べる人への敬意が同時に込められているのだ。

「これからおいしくなる魚」——キントキダイとの出会い

お造りの盛り合わせには、ブリだけでなく白身魚も並んでいた。西岡アナウンサーが「この白身魚、見たことないんですが、なんていう魚なんですか」と尋ねると、安達さんはこう説明した。
「これはキントキダイと言いまして、これからおいしくなる魚です」

金沢では金八とも呼ばれる、チカメキントキ。西岡アナウンサーが一口含むと、「弾力があります」という言葉が口をついて出た。さらに「ねっとりしてて、甘みがあってとってもおいしい魚ですね」と続けた。安達さんも「食感が特徴な白身魚になります」と答えていた。

旬の桜鯛、これから旬を迎えるキントキダイ。安達さんのお造りの盛り合わせは、今この瞬間の石川の海が凝縮された一皿だ。

ホタルイカと山菜の天ぷら、春を閉じ込めた一品

お造りの盛り合わせを堪能し、そろそろ締めかと思いきや、安達さんから一言。「もう1品。春の旬の食材でおすすめのメニューがありますので、召し上がっていただけませんか。」

安達さんが厨房に戻り、何やら揚げだした。

運ばれてきたのは、「ホタルイカと山菜の天ぷら」

「旬のおすすめのメニュー、ホタルイカと山菜の天ぷらでございます。本当に期間限定、短い期間でしかないですけども、このホタルイカも富山県産の大粒のものを使っております。どうぞお召し上がりください。」

一口食べるた西岡アナ、「うわ、おいしい」と語ると、安達さんは「身が大きければ大きいほど、内臓がたくさん詰まってますので、すごく好きな方はね、ファンが多いかなと思います」と説明した。

続いて山菜の天ぷらを口にした西岡アナが思わず言った。「うわ、春を感じる」

「薄衣で揚げる」——素材を生かすこだわりの技

安達さんの天ぷらには、特別なこだわりがある。衣が薄いのだ。西岡さんが「衣が薄い分、衣付けって難しいんじゃないですか」と問うと、安達さんはこう答えた。

「私のこだわりとしまして、薄衣で揚げるというのは一つあります。いい素材を使っておりますので、素材を生かして、味が分かりやすいように薄く衣を付けて揚げております。」

刺身醤油にも、金沢の"魂"が宿っている

実は、安達さんのこだわりは食材だけではない。刺身に添える醤油にも、独自の工夫が施されている。大野醤油をベースに、カツオ、みりん、昆布などを調合したオリジナルの刺身醤油だ。魚のうまみをさらに引き出すために作り上げられた、この店だけの一品だ。

「素材がね、愛おしいあまりに、もう手をかけちゃうんですよね」——スタジオでのコメントが、安達さんの料理哲学をひと言で表していた。最初にこの店の料理に惚れ込み、そのこだわりを自分が受け継いでいく。安達さんにとって、醤油の一滴にさえ、店への愛情が宿っているのだ。

大野醤油は金沢市大野町で作られる伝統的な醤油で、この地域の食文化を象徴する調味料の一つだ。能登と加賀の魅力を表現するという店のコンセプトは、醤油一つにまで貫かれている。

「次の店長候補」を育てる——愛おしさを次代へつなぐ

安達さんの「愛おしさ」は、自分一人の胸の中に留めておくものではない。今、安達さんが力を入れているのは後輩の育成だ。

調理や接客の指導はもちろん、仕入れ先での食材の選び方、店の人とのコミュニケーションの取り方——次の店長候補になれるような、総合的な指導を行っているという。

安達さんが後輩に伝えようとしているのは技術だけではない。この店の文化を、この店への愛情を、丸ごと次の世代に手渡そうとしているのだ。ラブラブ100パーセント——その言葉は、自分だけの感情に留まらず、店の未来を見据えた言葉でもある。

「今後もお客様に喜んでいただける料理を届けていきたい」

最後に、西岡アナウンサーが安達さんに夢を尋ねた。
「そうですね、料理に関してもいろんなことをさらにレベルアップをしながら、今後もお客様に喜んでいただける料理を届けていきたいなというふうに考えております。」

安達さん
安達さん

派手な言葉はない。しかし、そこには深い覚悟がある。岐阜から金沢へ、観光客として一度訪れただけで「ここで働く」と決めた男が、7年後に店長として厨房に立ち、さらにその先を見据えている。旬を追い、素材に向き合い、後輩を育て、店を愛し続ける——安達さんの料理人としての歩みは、まだ続いていく。

能加万菜 郷
住所:石川県金沢市本町2丁目4-30
定休日:年中無休
電話:076-255-2727
営業時間:午後5時~午後10時L.O(金・土のみ午後11時まで)

(石川テレビ)

石川テレビ
石川テレビ

石川の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。