列車の旅のお供といえば、駅弁だ。鹿児島県霧島市のJR肥薩線嘉例川駅で土日・祝日だけ販売される「百年の旅物語かれい川」が、九州駅弁グランプリで2年連続5回目のグランプリを受賞した。販売開始から22年、明け方3時半からの手作りを守り続けるこの駅弁には、豪雨による運休が続くなかでも「お客様のために続けよう」と奮闘する作り手の思いが詰まっている。

築100年超の木造駅舎に息づく、土日限定の駅弁
嘉例川駅は、築100年以上の木造駅舎がレトロな雰囲気を醸し出す無人駅だ。列車が停まらない静かなホームにも、遠方からわざわざ訪れる観光客が絶えない。その目当てのひとつが、「森の弁当やまだ屋」が手がける「百年の旅物語かれい川」である。

地元の自慢の食材を使い、明け方3時半の仕込みからすべて手作り。22年前の販売当初から変わらない味を守り続けている。土日・祝日限定という希少性もあり、訪れるたびに完売してしまうほどの人気ぶりだ。
50の駅弁を抑え、2年連続5回目のグランプリへ
JR九州が毎年開催している「九州駅弁グランプリ」は、九州各地からエントリーした約50の駅弁を対象に競われる大会だ。今回、「百年の旅物語かれい川」が見事グランプリを受賞。通算では2年連続5回目という輝かしい実績となった。

これまで福岡のJR九州本社で行われてきた表彰式は、今回初めて地元・嘉例川駅で開催された。やまだ屋の山田まゆみ代表は「(駅弁販売を)始めた嘉例川駅に社長においでいただいて、素晴らしい賞をいただけて本当にうれしい。みんなで頑張ってきてよかった」と喜びを語った。

JR九州の古宮洋二社長も「やっぱり列車で食べる弁当は格別」と称えたうえで、「(肥薩線が)開通した時には地元がもっと盛り上がるよう、その中心にやまだ屋さんになってもらいたい」と期待を寄せた。
「10個も売れなかった」——豪雨後の苦しい日々
喜びの受賞の裏には、苦しい時期があった。嘉例川駅が属するJR肥薩線は、2025年夏の豪雨で線路の土台が崩壊し、今も運休が続いている。列車が来ない駅に観光客の足は遠のき、山田代表は「去年の8月、9月は10個も売れなかった」と振り返る。
それでも、やまだ屋は販売をやめなかった。「1人でもいるんだったらそのお客様のために続けよう」という思いで、土日・祝日には嘉例川駅での販売を続けた。
「お客様のありがたさと、続けることってやっぱり大事。それを感じた今回の受賞だった」——山田代表のその言葉には、22年分の積み重ねと、苦境のなかで灯し続けた地道な努力が凝縮されている。
ホームのベンチで味わう、変わらぬ一箱
表彰式が行われた25日は平日だったが、特別にグランプリ受賞の駅弁が販売された。思いがけず購入できた千葉からの観光客は、ホームのベンチに腰を下ろしてさっそく箱を開けた。
「新しいタケノコがおいしかった。シイタケも。この風もいい、鳥の鳴き声も。あとは列車が来ればね」——その言葉が、今の嘉例川駅のすべてを表している。

山田代表も「できる限り続けよう。列車の音がしないとね。駅だから」と静かに語る。
肥薩線の運行再開予定は2026年6月。列車が戻る日を、変わらぬ味の駅弁とともに、嘉例川駅は待ちわびている。
(動画で見る▶「九州駅弁グランプリ」王者に!築100年の嘉例川駅で愛される駅弁が5度目の頂点に 被災地からの小さな復興物語)
