2022年1月にマスクの着用義務を撤廃したイギリス。
人気の海水浴場は、海岸をびっしりと埋め尽くすほどの人が訪れていますが、マスクをしている人は見当たりません。

ロンドン市内の飲食店でも、その席には日本のようにパーティションの設置もありませんでした。すでにコロナ以前のような、自由な生活を取り戻しているように見えます。

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こうした変化の理由は、マスクだけではありません。

2月24日には、コロナに関する国民への規制を完全撤廃。
これにより、陰性証明があるまでの自宅隔離勧告は継続されるものの、陽性者の隔離義務・接触者の追跡も撤廃されました。
また、濃厚接触者に関しても、隔離義務を撤廃。

さらに、3月18日には、出入国の際の検査等に関しても、ワクチン接種の有無にかかわらず完全撤廃しました。

ただ、施設などによっては任意で対策をしている場所も。
混雑のしやすい場所でのマスク着用推奨や、自主的にパーティションの設置を維持する店舗もあります。

規制完全撤廃で“感染者数の把握”はどうしているのか?

規制完全撤廃を行ったイギリスは、3月で一般市民への無料大規模検査も終了しました。
ただし、高齢者や基礎疾患がある人などへの無料検査は継続しています。

ではどうやって、感染者数の把握をしているのか?
それは、自主的または、救急搬送などで行った先の病院で検査を行い、陽性となった人を新規感染者としてカウントしているというのです。
簡易キットでの自主検査に関しては報告義務がないため、“実数把握”はできていない状態です。

愛知医科大学感染症科の三鴨廣繁教授は、「規制が何もない状態では、無症状や軽症者への検査が難しく正確な人数の把握は非常に困難。潜在的な感染者数はもっと多い可能性が高い」と指摘しています。

変化したコロナに対する国民の意識

イギリス在住のジャーナリスト小林恭子氏は、現在のイギリス国民のコロナに対する意識をこう語ります。

ジャーナリスト 小林恭子氏:
今、ほとんど規制がない状態なのですけれども、アンケートなどを見るとコロナに対する恐怖心が消えているわけではなくて、だいたい30%~40%の人がまだ怖いという気持ちを持ち続けてはいます。
しかし、実際にマスクをする人は皆無と言っていいくらいです。
もし陽性になっても、隔離が5日間なのですけれども、それも自己申告みたいな感じで、5日間終わりましたら、陰性証明とかテストとかしなくていいんですよ。
ですので、このまま風のように立ち消えになっていくのを待っているという感じです。

ーー規制解除当初、規制が必要という意見はなかったのか?

ジャーナリスト小林恭子氏:
それはもう非常に強かったです。一度に解除するのは無理だと。やり過ぎだという意見がありました。
イギリスは日本よりもかなり死者の数が多くて、人口は日本の半分なのですが、これまでに18万人の方が亡くなっているんですね。
それもありまして、特に医療関係者、それから家族がコロナで亡くなった方、ご遺族の方からかなり慎重論があったのですけれども、やはりビジネス関係者はどうしても撤廃してほしいと言うことで、それに押し切られたという感じがありますね。

イギリスはなぜ“全面撤廃”に踏み切ったのか?

反対の声がある中で、なぜ全面撤廃に踏み切ったのか?
その根拠のひとつがワクチン接種率です。
規制の完全撤廃が行われた2022年2月の段階で、1回目の接種率は91.5%。
2回目は85.2%、3回目は66.4%でした。

また、小林氏によれば規制の撤廃を国民が受け入れるもう1つのきっかけがあったと言います。それは、これまで行ってきた3回の“ロックダウン”です。
3回のロックダウンを行ってきたことにより、まずは経済に大きな打撃がありました。
さらに、ロックダウン中のDV件数がイギリス国内で約5万件も増加したというのです。
このことは、当時現地メディアもロックダウンとの関係性を指摘し、大きな社会問題として話題になりました。

ーー規制撤廃への不安とともに、ロックダウンによる不利益という思いも胸の内にあったのか? 

ジャーナリスト 小林恭子氏:
そうですね、経済への打撃がひどいです。
そして、家庭内の不和というか、そういうことが社会問題にもなりましたので、とにかくロックダウンとか規制を解除しなければならないという、大きな機運があったことは事実ですね。

規制撤廃で医療機関は?入院者数は増加・死者は減少

2022年の2月24日に規制を撤廃後の入院者数はどう変化したのでしょうか?
規制をやめた後の5カ月間と、やめる前の5カ月間それぞれの数字を見てみると、やめる前は約16万人、規制撤廃後は約19万人と数字は少し増えています。
一方、死者数は撤廃後の5カ月間では撤廃前と比べて1718人減っていました。

ーー医療機関が感染症対策を最低限しか行わないことに関して国民の感情は?

ジャーナリスト 小林恭子氏:
最初は不安があって、とくに医療関係者の中には反対の声があったのですけども、重症化しないと言うことがだんだん広まってきたんです。
感染者が増えても、重症化しないのでこのままでいこうと。ただ、過去に死者の数も含めて痛みを経験してきていまして、市中感染、かなりの方が免疫を持つようになったと言うことも功を奏したような感じはします。

規制撤廃で混乱も…荷物があふれかえるヒースロー空港

徐々に規制が撤廃された生活に慣れつつあるイギリス国民。
しかし、意外なところに影響が出ていました。

それは、交通機関。
イギリス政府は規制撤廃とともに、在宅勤務の推奨も終了させました。
しかし、多くの企業が自主的に在宅勤務を継続。在来線の利用者の回復に遅れが出ています。

さらに空の便では、水際対策による利用者減少に伴い人員を大幅削減していたところ、規制が撤廃。
これにより、利用者が急増したものの、人員不足に陥ってしまったというのです。
出国手続きにも支障が出ており、現在は短距離の便数を減らすなどして対応しています。

日本でも規制撤廃は可能なのか?イギリスと日本の違い

日本でも今後規制撤廃は可能なのでしょうか?
小林恭子氏は日本とイギリスの違いを指摘します。

ジャーナリスト 小林恭子氏:
残酷な言い方かもしれないのですけれど。
市中感染といいますか、免疫ができるまではある程度の方が病気になったりする形で、イギリスの場合は痛みを伴いながら今の状況になりました。
(日本も)そういう道を通らざるを得ないときもあるかもしれないなと。
日本は感染者が少ないと言うことで世界的に有名でしたが、それが逆にマイナスの状況になってしまい、非常に残念だなと思っています。

(めざまし8 「わかるまで解説」8月9日放送)