シリーズで伝える『くまもとニュースの深層』。今回は2025年に熊本から大都市圏へ広がりを見せた赤ちゃんポスト、内密出産について。今回、泉佐野市の千代松市長にインタビューし、国内初となる自治体主導での取り組みについて、熊本の視点から考える。
慈恵病院の取り組みを泉佐野市が視察
泉佐野市といえば関西国際空港が立地する臨空都市。大阪府の南部に位置し、人口は約10万人。その泉佐野市は2025年に親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる『赤ちゃんポスト』、そして病院の担当者にのみ身元を明かして出産する『内密出産』を2026年度中に導入すると表明した。自治体主導での取り組みは全国で初めてとなる。

11月26日に泉佐野市の職員や医師らが熊本へ視察に訪れた。熊本市の民間病院・慈恵病院が2007年に運用を始めた『こうのとりのゆりかご』。国内では法制化されていない中、当時慈恵病院の申請を受け熊本市が設置を許可した。

以後、地元行政との連携で運用が続けられていて、赤ちゃんの処遇などを熊本市の児童相談所が担っている。『ゆりかご』には昨年度までに193人が預け入れられ、同じく慈恵病院が取り組む『内密出産』は2021年の初事例からこれまでに60例を数えている。

慈恵病院職員:ここは一般の病室とは別のフロアにある内密出産を希望する妊婦が滞在する部屋です
泉佐野市職員:最長どれくらい(の期間)ここにいたのか?
慈恵病院職員:2カ月くらい
泉佐野市職員:勝手に離れるのを防ぐ仕組みは?
慈恵病院職員:妊娠なさっているので戻って来ていただかないと危ない。コミュニケーションをとる。色々な事情で外出する人はいる
泉佐野市職員:滞在費は?
慈恵病院職員:無料で
蓮田理事長が運営に求めることとは
慈恵病院の蓮田健理事長は『ゆりかご』や『内密出産』を求める女性たちの実情を説明した。

蓮田理事長は「安易な気持ちで来ているわけではないので、そこをよく推し量っておかないと『突き放しても他のどこかに頼るだろう』と思い込んではいけない」や「『そのくらい出来るだろう、どうしてできないんだ』と言いたくなるが、できない特性を持っていたり家族の環境を含め『できる人の論理』は通用しない」と話し、「パニックになりやすいので『どうしよう、どうしよう』となり(赤ちゃんの)首を絞めるなど含め、あらぬことをしてしまう可能性がある」と、これまでの経験を交えて話す。

また、蓮田理事長は女性の『匿名性を保障する』こと、そして『費用負担を求めない』ことが大前提だと強調した。

視察したりんくう総合医療センターの松岡哲也院長は「匿名性の担保、環境整備についても今のりんくう総合医療センターで『ゆりかご』『内密出産』をするには、整備すべきハード面ソフト面、多々あると実感した」と話した。

泉佐野市こども部の島田純一部長は慈恵病院のノウハウをどう生かすか報道陣に問われ、「秘匿をどこまで守れるか懸念されていると思うので、児童相談所を持たない泉佐野市として(大阪府の)児童相談所と、どうやって連携していけるかということを感じている」と述べた。
泉佐野市・千代松市長に単独インタビュー
今回の熊本視察を泉佐野市の市長はどのように受け止めたのだろうか。泉佐野市の千代松大耕市長(52)に12月直接話を聞いた。

千代松泉佐野市長は「色々と報告受けたが非常に必要性、重要性を感じて帰って来てくれていると私は思った。どういう費用が発生するか、どういう改修が必要になるかなど、細かく検討を進めてもらうワーキンググループの設置経費を、今定例会に提案している」と話した。

設置予定のワーキンググループでの検討を経て、2026年度の当初予算案に具体的な経費を盛り込みたいと語った泉佐野市の千代松市長。匿名性の保障については「匿名性という部分を担保しなければ、赤ちゃんポスト・内密出産を望む女性たちの支援につながることは少ないのかなと思う」と述べた。
法整備ない中で自治体主導どう進む
泉佐野市に対し慈恵病院の蓮田理事長が『匿名性の保障』を強調したのには理由がある。

蓮田理事長は「匿名を前提としたサービスを、これまで行政はされていない。例えば生活保護もそう。法的よりどころがあれば、積極的に動けるけれども、内密出産、赤ちゃんポストは法律がない中で、動きにくいのが行政。心配している。ただ期待はしている」と述べている。

これに対して、千代泉佐野市長は「匿名性を担保することをどういう形でやっていくのかは、これからりんくう総合医療センターと検討を深めていきたい。できる限り匿名性は担保できるという中で進めていくことが、前提になってくると思っている」と述べた。

こども基本条例を制定している泉佐野市、千代松市長は取り組みの必要性を「こどもの生きる権利を保障していく中において、最後の砦となる赤ちゃんのゆりかご事業について行政として取り組むべきだと考えたので、しっかりと進めていきたい」と語った。

泉佐野市は赤ちゃんポストなどの取り組みに先立って、妊娠に悩む人からの相談に夜間や休日も対応するオンライン窓口を近く新たに開設する予定だ。法制化されていない国内で事例を重ねてきた熊本の取り組みはどう生かれるのだろうか。泉佐野市は2026年度中の導入を目指している。
2026年2月には千代松市長も視察へ
赤ちゃんポストといえば、これまで長きにわたって全国の病院で熊本の慈恵病院だけが取り組んできたが、2025年は大きく広がりを見せる年となった。

2026年度中の導入を目指す泉佐野市はこれまでの病院主導とは違って、『自治体主導』という初のケースだ。法律がない中で行政職員が女性の匿名性をどう保障していくのかや、費用負担、専門人材の確保など課題が指摘されている。費用については、ふるさと納税を活用したいという。

総務省が2025年7月に発表したふるさと納税ランキングでは、泉佐野市は全国3位。181億円を超える金額が寄せられている。泉佐野市は赤ちゃんポストなどの取り組みについて、福祉基金を活用する考えで、その大部分がふるさと納税によって積み立てられているという。

2026年度中の開始を目指す泉佐野市、2026年2月には千代松市長本人が議員らとともに熊本へ視察に訪れる予定だ。
(テレビ熊本)
