衆院選での自民党の大勝から1週間が経過しようとしている。総選挙前、市場関係者の間でメインシナリオとして観測が広がっていた、「株高・円安・債券安」の高市トレードの強まりには、変化の動きも出ている。

一転、円高に動いた円相場

大幅な株高の勢いを見せた先週の東京株式市場は、日経平均株価が、10日の終値で5万7650円の最高値をつけ、週間で2688円の上昇となった。12日は、取引時間中として初の5万8000円台に突入した。

外国為替市場の円相場は、9日早朝に1ドル=157円台後半まで円安に振れたが、その後の東京市場では156円台前半に上昇した。安定的な政権基盤を固めた高市首相が、過度な財政拡張に動かないとの見方に傾く市場関係者が増えるなか、一方的な円売りに歯止めがかかった形となった。

11日、一時1ドル=152円台をつけた
11日、一時1ドル=152円台をつけた
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中国の米国債保有抑制についての報道やアメリカの景気減速懸念につながる小売統計の発表を受けて、一段と円高に動いた円相場は、11日には152円台をつけた。

“円高はこのまま一気には進みにくい”

財政懸念の後退が債券売りを一服させるなか、国債の利回りは比較的落ち着いた推移が続いた。

円安が進めばインフレ圧力が上昇し、日銀による利上げ前倒しにつながるとの見方があったが、円相場が円高・ドル安に振れたことで、日銀の早期利上げ観測が薄れ、国内債買いを促した面もある。

市場関係者の視線は、消費税減税の行方に集まっている。

高市首相は9日の会見で、食料品の消費税減税について、2年間の時限措置である点や「特例公債に依存しない」ことについて改めて説明したが、積極財政を掲げる高市政権のもとで、円高はこのまま一気には進みにくいとの見方は少なくない。

13日のニューヨーク市場の円相場は、1ドル=152円70銭近辺で取引を終えたが、将来の国債発行が想定以上に膨らんでいくことや、財政出動が強まって通貨価値が下がっていくことへの警戒感は依然くすぶっている。

「SaaSの死」めぐる懸念の行方

一方、株式市場の波乱材料として意識されつつあるのが、「SaaSの死」だ。

AIが業務ソフトの事業モデルを崩してしまう「SaaSの死」
AIが業務ソフトの事業モデルを崩してしまう「SaaSの死」

「SaaS」は、「Software as a Service(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)」の略で、その死は、AIが業務ソフトの事業モデルを崩してしまうことを指す。

震源となったのは、AI開発の新興企業「アンソロピック」だ。資料作成や表計算ソフト「エクエル」のデータ分析を自動化する新たなAIツール「Cowork(コワーク)」の提供を始め、その後、法務や財務会計など専門分野もこなせる新機能を追加して、法人向けAIの主役に躍り出た。

AIが業務ソフトの事業モデルを崩してしまう「SaaSの死」
AIが業務ソフトの事業モデルを崩してしまう「SaaSの死」

アメリカ市場では、こうしたツールが既存の業務ソフトや情報サービスを代替するのではとの警戒感から、2月に入ってソフト関連株が大きく値下がりする場面が目立つようになってきた。

12日には、人員を増やさず貨物取扱量を急拡大できるとのAIプラットフォームの導入事例が発表されるなか、大型ハイテク株のほか物流関連銘柄などにも売りが広がり、ダウ平均など主要3指数が軒並み値を下げた。

先週末の東京市場も、こうしたアメリカ株安の流れが波及し、それまでの株価上昇による過熱感を意識した利益確定売りが強まる様相となった。

一方で、AIが相場上昇を引き続き支えるとの評価は衰えておらず、「SaaSの死」が短期的に実現することへの疑問の声も聞かれる。

今週は、18日に特別国会が召集され、20日に高市首相の施政方針演説が予定されている。市場関係者は、「責任ある積極財政」での財政拡大への懸念をめぐりどのような言及がなされるかに関心を寄せていて、円相場が動く材料になる可能性がある。

株式市場では、政権安定化を材料に積極的な買いが入り、最高値圏で推移してきた相場をさらに押し上げる展開になるかが、注目ポイントになりそうだ。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一) 

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、経済部にて兜・日銀キャップ、財務省・内閣府担当、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、農水省政策評価第三者委員会委員