2025年、北朝鮮を取り巻く環境は大きく変わった。ロシアとの軍事協力が加速し、金正恩総書記は一段と強固な指導体制を築いた。一方で、アメリカのトランプ大統領が米朝会談に意欲を示し、米朝関係が再始動するか世界が注目している。

2026年初めには、5年に1度の重要会議「第9回党大会」が控えており、北朝鮮の進路を占う節目となる。新局面で北朝鮮はどう動くのか。日韓の専門家3人と多角的に読み解く。

ロシアとの軍事協力で“特需” 軍事パレードで示した北朝鮮の「地位」

2025年9月、中国の戦勝節軍事パレードで、金正恩総書記習近平国主席、ロシアのプーチン大統領と並び立った光景は、現在の北朝鮮外交を象徴する場面だった。

世宗研究所のチョン・ソンジャン副所長は「中国とロシアによって、北朝鮮が事実上の核保有国として扱われた瞬間だった」と分析する。

中国の軍事パレードで、中露朝の3首脳が一堂に会した(2025年9月3日)
中国の軍事パレードで、中露朝の3首脳が一堂に会した(2025年9月3日)
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国際的に孤立してきた北朝鮮にとって、二大国首脳と肩を並べる姿を内外に示した意味は大きい。ロシアとの急接近で中国の不信を招いた北朝鮮が、あえて中国の舞台で存在感を誇示することで、中露双方との関係を世界に示した形だ。

慶応義塾大学の礒﨑敦仁教授も、北朝鮮が中露との友好を演出しつつ、どちらにも過度に依存しない「バランス外交」に回帰しつつあると指摘する。今回の立ち位置は、その象徴的な表現だったと言える。

プーチン大統領、習近平主席と肩を並べた正恩氏(2025年9月3日・朝鮮中央テレビ)
プーチン大統領、習近平主席と肩を並べた正恩氏(2025年9月3日・朝鮮中央テレビ)

また礒﨑教授(慶応大)はウクライナへの侵攻を続けるロシアへの武器輸出や派兵による“戦争特需”が北朝鮮経済を押し上げたと指摘する。

「平壌中心部では慢性的な停電がほぼ解消され、巨大リゾートの建設や病院の開設など、民生分野でも“実績”を残した。90年代の飢餓や金正恩政権初期の混乱とは比べ物にならないほど経済状況が好転している」(慶応義塾大学・礒﨑教授)

半減したミサイル発射実験 「稼げるうちに稼ぐ」北朝鮮

2025年の弾道ミサイル発射は6回で、2024年の13回から半減した。

チョン・ソンジャン氏(世宗研究所)は「技術的理由ではなく、ロシアへの武器輸出に生産力を集中させたため」と説明する。礒﨑教授(慶応大)も、北朝鮮が「稼げるうちに稼ぐ」戦略をとったとみる。

また、統一研究院のチョ・ハンボム碩座研究委員は「弾道ミサイルはほとんどの部分の開発が終わり、試験発射の必要性がだいぶ減っている」と指摘する。

トランプ大統領の就任前に弾道ミサイルを発射(2025年1月6日・労働新聞)
トランプ大統領の就任前に弾道ミサイルを発射(2025年1月6日・労働新聞)

2025年は北朝鮮の「国防5カ年計画」の最終年だった。軍事偵察衛星など一部未達成の開発目標はあるものの、国防5カ年計画は、北朝鮮の自己評価としては“成功”扱いになるとみるのが大方の予測だ。

北朝鮮の今後5年を占う重要な節目「党大会」

2026年1月に開催が予想されている「第9回党大会」は、朝鮮労働党の最高意思決定機関とされ、金総書記にとっては、5年間の自身の統治を総括し次の5年を方向づける場になる。

前回の「第8回党大会」では米韓への対決姿勢を強めた(2021年1月6日・朝鮮中央テレビ)
前回の「第8回党大会」では米韓への対決姿勢を強めた(2021年1月6日・朝鮮中央テレビ)

チョン・ソンジャン氏(世宗研究所)は、核戦力と通常戦力を並進させる新たな戦略や、「第2次国防5カ年計画」が打ち出される可能性を指摘する。また、「金総書記の地位も党大会を通じて一段高める方向に進む可能性がある」としている。

一方、礒﨑教授(慶応大)は「対外関係、特に対米で(金総書記が)どんなメッセージを投げるかに注目している」と話す。2021年の「第8回党大会」で金総書記は、対米政策では「米国の敵視政策が撤回されない限り対話に意味はない」と明言し、制裁解除と体制保証を伴わない交渉には応じない姿勢を鮮明にした。対韓政策でも、韓国を事実上の交渉相手から外す構えを示した。

果たして今回、金総書記はどんなメッセージを出すのか。やはりトランプ大統領が大きな鍵となりそうだ。

正恩氏の対米政策――「会うかどうか」より「何をもらえるか」

トランプ大統領は2025年10月、訪韓・アジア歴訪に先立ち、「キム・ジョンウンに会いたい。連絡はないが、私は彼に会いたい」「私は金正恩と非常によい関係を持っている。もし会いたいと思うなら、私は韓国にいる予定だ」と、米朝会談の再開に前向きな姿勢を強調していた。

金総書記は応じなかったが、2026年4月にはトランプ大統領が中国を訪問する予定だ。トランプ大統領が再び金総書記に呼びかける可能性も低くない。

正恩氏がトランプ大統領と再び握手を交わす日は来るか?(板門店・2019年6月30日)
正恩氏がトランプ大統領と再び握手を交わす日は来るか?(板門店・2019年6月30日)

しかし、2026年の対米関係を占う上で鍵となるのは、米朝首脳会談が実現するか否かではない。重要なのは、金正恩総書記が「条件が整った」と判断するかどうかだ。

チョ・ハンボム氏(統一研究院)は、金正恩総書記がトランプ大統領との個人的関係を完全には否定していない点に注目する。

「『良い思い出がある』との発言や、金与正氏による『首脳部同士の親交がある』との言及は、対話の扉を完全に閉ざしていないことを示している。ただし、それは『とりあえず会う』という段階には戻らないという意味でもある。ハノイ会談での決裂を経て、金正恩氏は『会談そのものが目的化すること』への警戒心を強めている」(統一研究院 チョ・ハンボム氏)

制裁緩和や体制保証といった具体的な見返りが事前に確認できなければ、金総書記が首脳会談に踏み切る可能性は低い。

礒﨑教授(慶応大)も、北朝鮮側には「譲歩する必要はない」という一貫したスタンスがあると指摘する。

2026年の北朝鮮の対米政策は、核・ミサイルを「交渉のためのカード」として温存しつつ、アメリカ側の出方を見極める慎重な姿勢が続くだろう。北朝鮮は「交渉を壊しかねない一線」を意識しながら、戦略的曖昧さを維持するとみられる。

一方、礒﨑教授(慶応大)は、トランプ大統領について「トランプ大統領がノーベル平和賞欲しさに北朝鮮への大幅譲歩を提案するような局面が生じた時に、日本はどうすべきか、今の段階から考えておく必要がある」と警鐘を鳴らす。

「尊敬するお子様」“キム・ジュエ” 未公表の名前が明らかに?

“キム・ジュエ”とされる金総書記の娘をめぐる動きにも注目が集まる。2025年は、ジュエ氏が父親に帯同して軍関連行事や閲兵式、さらには訪中の場にも姿を見せるなど、象徴的な露出が積み重ねられた年だった。朝鮮人民軍空軍創建節では、単独で敬礼を受ける場面も確認され、体制内での立場が一段階引き上げられたことを印象づけた。

共に革のコートをまとい並んで歩く金総書記と“キム・ジュエ氏”(2025年11月28日・労働新聞)
共に革のコートをまとい並んで歩く金総書記と“キム・ジュエ氏”(2025年11月28日・労働新聞)

こうした流れを踏まえると、2026年は「後継構図を完成させる年」というより、「既成事実を制度化する年」になるとみられる。チョ・ハンボム氏(統一研究院)は、「後継構図そのものはすでに確立しており、残る焦点は、いつ、どのような形で公式な肩書き役割が付与されるかだ」と指摘する。

「第9回党大会」は、その節目となる可能性がある。

北朝鮮当局はこれまで公式に金総書記の娘の名前を発表していないが、チョン・ソンジャン氏(世宗研究所)は、党大会を通じてジュエ氏に党の要職が与えられたり、名前や肩書きがより明確に示される可能性を指摘する。ただし、それが対外的に大きく宣伝されるとは限らず、北朝鮮は引き続き「見せる部分」と「隠す部分」を巧みに使い分けるだろう。

「見せるが語らない」という演出は、北朝鮮内には統治の安定を、対外的には体制の持続性を印象づける効果を持つ。2026年は、そうした“静かなメッセージ”が一層鮮明になる年になるとみられる。

金正恩体制は、「後継」という最大の政治テーマさえも管理可能な領域に置きつつ、次の段階へと歩みを進めようとしている。
(FNNソウル支局長 一之瀬登)

◆専門家プロフィール◆
礒﨑 敦仁 氏

慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治外交。
長年にわたり北朝鮮の体制変化と対外行動を分析している。

チョ・ハンボム 氏
韓国・統一研究院 碩座研究委員。北朝鮮の権力構造、後継問題、対外戦略を専門とし、韓国政府の政策諮問にも関与してきた。

チョン・ソンジャン 氏
世宗研究所 副所長。北朝鮮の党・軍・統治機構の動向や指導体制の分析を手がけ、党大会や体制運営に関する研究で知られる。

一之瀬登
一之瀬登

FNNソウル支局長。韓国駐在5年目。「めざましテレビ」「とくダネ!」など情報番組を制作。その後、報道局で東京都庁、東京オリンピック・パラリンピック担当キャップ。2021年10月から現職。辛いものは好きですが食べると「滝汗」です。