前述のニューヨーク・タイムズ紙はその小見出しで「師である安倍晋三氏と同様、彼女は日本を右派に導くと見られている」とも指摘していた。

高市首相の政治的立場は明確な保守派であり、靖国神社への参拝や防衛力強化、対中強硬姿勢など、外国メディアが「右傾化」と受け止めやすい要素を多く持つ。

それにもかかわらず、世界の論調には敵意や懸念よりも、むしろ興味と好意が勝っている印象がある。それは、各紙が彼女を「ヘビーメタルを愛する文化的存在」として紹介したことが、政治的な緊張を和らげる効果を持ったからだろう。
 

トランプ氏とは「うまくやっていける」

硬派な政策を語る一方で、ステージ上ではスティックを振るう──その“二面性”が、保守色の強さを中和し、親しみやすい人物像を生み出した。それは、高市首相がまず試練を受けるトランプ米大統領との出会いでも効果を発揮しそうだ。

「トランプ、“ヘビーメタル首相”と意気投合?」(ニューヨークポスト電子版より)
「トランプ、“ヘビーメタル首相”と意気投合?」(ニューヨークポスト電子版より)

「トランプ、“ヘビーメタル首相”と意気投合?日本初の女性リーダー・高市早苗に“ロックな”期待」

ニューヨークの大衆紙ニューヨーク・ポストは、すでに18日にこう伝えていた。

記事は「日本の次期首相に就任予定の高市早苗氏は『鉄の意志』を持つヘビーメタルのドラマー。そしてその強靭さこそが『トランプ大統領との相性の良さ』につながると関係者は語る」と始まり、「彼女はトランプ大統領とうまくやっていけると思う」という元駐日大使ビル・ハガティ上院議員の言葉を紹介している。

21日に発足した高市内閣
21日に発足した高市内閣

ドラムのリズムで政治を変えることはできるのだろうか。

海外のメディアが彼女の音楽性をことさら強調するのは、単なる珍しさではない。
重いスネアとバスドラムの響きのように、既存の秩序を打ち破るリズムが、静かな日本社会に鳴り響くことへの期待がある。そして、それが同時に保守的な政治姿勢をも柔らかく包み込み、国際的な警戒心を解く役割を果たしている。

“ヘビーメタル首相”という呼称には、音楽を超えた象徴性がある。世界は今、高市早苗という人物に、サッチャーのような強さと、日本社会が長く封じてきた女性の自由な表現力、その両方を見ているのかもしれない。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。