8日に投開票が行われた衆議院選挙で、野党第一党の中道改革連合(以下「中道」)は議席を3分の1以下に減らす惨敗を喫し、共同代表が辞任に追い込まれるなど、再出発を余儀なくされている。
「中道」の敗因については、選挙直前の立憲民主党と公明党の合併により新党の周知期間が不足したこと、候補者調整が不十分だったことなどさまざまな指摘がある。しかし、より本質的な問題として、いみじくも野田前共同代表が「どうしても時代遅れ感が(斉藤共同代表と)2人には付きまとっていたと思います」と語ったように、従来型のリベラル政治が有権者、とりわけ若い世代に十分届かなかったという見方が広がっている。生活コストや将来不安に直結するテーマで新しい政治言語を提示できなかったことが、支持離れにつながったとの分析は説得力を持つ。
こうした状況を受け、「中道」は新執行部の下で新たなリベラル理念の再構築を模索しているとされるが、その方向性はまだ定まっていない。福祉や格差是正を掲げる従来路線を強めるのか、それとも現役世代支援や成長政策を前面に出すのか。政策とメッセージの再設計という難題に直面しているのが現状のようだ。
「AI社会主義」アメリカでは中間選挙の主要争点に
興味深いのは、同じ時期に米国では左派政治の新しい潮流が台頭している点だ。ニューヨーク市長選では、民主社会主義者を自認するゾーラン・マムダニ氏が当選し、若年層を中心に支持を拡大した。その背景には、人工知能(AI)の急速な普及がもたらす社会変化への不安があると指摘されている。
AIは生産性を飛躍的に高める一方、雇用構造を大きく変えつつある。アマゾンによる大規模な人員削減に象徴されるように、企業はAI導入による効率化を進め、ホワイトカラーを含む多くの職種で雇用削減の可能性が議論されている。さらに、巨大データセンターの建設に伴う電力需要の増大や、AI投資の利益が一部企業に集中する構造は、格差拡大への懸念を強めている。
こうした問題に対する政治的応答として登場しつつあるのが、「AI社会主義」とも呼ばれる新しい思想潮流である。AIが生み出す富を広く社会に分配する仕組みを構築すべきだという考え方で、AI企業への課税強化、ベーシックインカム、労働時間短縮などが政策議論の俎上に載り始めている。従来の社会主義とは異なり、テクノロジーの発展を前提に再分配を設計する点に特徴がある。
米国では、こうした議論が若い世代を中心に支持を広げており、今年11月の中間選挙でも主要な争点の一つになるとの見方が強い。
「2026年の米中間選挙では、人工知能(AI)政策をめぐる対立が主要争点の一つとなりつつあり、民主・共和両党の内部やテック業界自体を分断する『三つ巴』の政治争いが形成されている」(ハフポスト・2025年12月31日)
つまり、AIがもたらす雇用不安や生活コスト上昇が、従来の左右対立とは異なる新しい政治対立軸を形成し始めているのである。
こうした中で民主党で頭角を表しているアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(ニューヨーク州)らが、AIによる雇用喪失や社会的孤立、電力・水資源の消費増大などを理由に、データセンター建設の一時停止を含む強硬な規制を訴えている。各地でデータセンターへの住民反対運動が広がっていることも、この流れを後押ししている。
今、米国で起きているのはリベラリズムの後退ではなく、その内容の変質である。テクノロジーによって富の創出構造が変化する以上、再分配のあり方をめぐる政治が再び前面に出てくるのは自然な流れとも言える。
AI時代にどのような理念で向き合うか
この動きは日本にとっても無関係ではない。AI導入が進めば、日本でも同様に雇用構造の変化や所得格差の問題が顕在化する可能性が高い。そのとき、どの政治勢力が新しい社会像を提示できるのかが問われることになるだろう。
もし「中道」が日本のリベラル派を代表する政治グループとして存在し続けるのであれば、従来型の福祉国家論だけではなく、AI時代の再分配や働き方を含めた新しいビジョンを示す必要がある。そうした議論を主導できなければ、新興勢力である「チームみらい」などが先にその役割を担う可能性も否定できない。
日本政治が直面しているのは、単なる政党支持率の問題ではなく、テクノロジーが変える社会構造にどのような理念で向き合うかという問いである。新しい「中道」のモデルを国内に求めるのが難しいとすれば、そのヒントはむしろ、AI時代の社会像をめぐる激しい論争が始まっている米国政治の中にあるのかもしれない――そう映る。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
