稲城市だけなぜ 東京消防庁に業務委託せず
火事、事故、災害、救急…。あらゆる現場に臨場し、国民の生命や財産を守るために活動している消防隊員。消防法には、「市町村は、当該市町村の区域における消防を十分に果たすべき責任を有する。」「市町村の消防に要する費用は、当該市町村がこれを負担しなければならない。」と明記されていて、基本的には各市町村が責任を持って管理、運営することが定められている。

しかし東京都の場合、都の機関である東京消防庁が、都内ほぼ全域の消防業務にあたっている。これは特別区、すなわち23区を有する東京都において、行政の一体性及び統一性を確保するため。23区以外の市町村も、東京消防庁に、消防事務を委託する形を取っている。実際、ほとんどの市町村が東京消防庁に委託料を支払って業務委託し、消防組織の運営にあたっている。
そんな中、東京消防庁に業務委託せず、自前の消防組織を有しているのが稲城市だ。2010年に東久留米市が東京消防庁に業務委託したことで、島嶼部を除いて、東京都で市町村単独で消防本部を運営しているのは、2022年1月現在で稲城市のみとなっている。
業務委託のメリットは「高度な装備とヘリコプター」
その理由がなぜなのか探るため、まずは直近で業務委託した東久留米市の担当者に話を聞いた。
Q:業務委託の検討を始めたのはいつか?
東久留米市・行政管理課:2003年から東京消防庁への業務委託を検討し始め、様々なハードルがあって最終的に2010年に実現しました。

Q:検討開始から委託まで時間がかかったのはなぜか?
東久留米市・行政管理課:時間がかかった理由は人事の面です。業務委託に伴って市の職員から都の職員になるので、その部分の整理に支障があると考えられていました。あと、懸念点として地元の消防団と消防署が近い関係性だったので、うまく連携が取れなくなる恐れがあると考えられていました。しかし実際に委託してみて、デメリットになり得ると考えられていた部分は、あまり問題になりませんでした。
Q:業務委託する上で支払う委託料は負担になっていないのか?
東久留米市・行政管理課:職員の人件費を考えると、若返った分むしろ支出は低いのではないでしょうか。装備の面を考えるとトントンくらいにはなるかもしれませんが。極端に負担が増大しているということはありません。
Q:東京消防庁に業務委託したことによるメリットはあるか?
東久留米市・行政管理課:消防職員は若返り、装備が最新のものになりました。ヘリコプターも配備され、市民の安全安心を守る上で、確実によい体制を組めるようになりました。地域防災を考える上で、高度な救急の道具やヘリコプターがあることのメリットは大きいと考えています。

稲城市「単独消防のデメリットなし」
一方、これらの話を受けて、稲城市にもいくつか質問をしたところ、次のような答えが返ってきた。
Q:単独消防を現在も継続されている理由をお聞かせください。
稲城市・消防総務課:稲城市は、消防組織法に基づいて市長が消防の管理を行い、計画的に消防力の強化を進めています。これまで計画的に消防体制の強化に努めてきたことや、消防本部に防災課を配置して、消防・防災の連携が保たれていることなどを理由に、現在も単独消防を継続しています。
Q:東京消防庁に業務委託する上でのメリットとデメリットは何か?
稲城市・消防総務課:稲城市として、単独消防としてのメリットを次のように掲げております。①消防・防災対策に関する施策の意思決定が速く、迅速に実現できる。②地域防災関係団体との連携のとれた消防・防災行政を推進できる。③消防職員が市職員であることから、緊急時の連絡体制の確保が迅速に処理できる。また、消防本部が市の一部局であることから、各種消防施策を市と連携して遂行できる。

稲城市・消防総務課:④職員の市外異動がないことから、職員が管内情勢に精通できる。⑤防災課を消防本部に配置しており、防災業務の一元化を図ることができる。東京消防庁に委託するデメリットは、単独消防としてのメリットが生かせないことだと考えています。また、単独消防のデメリットがないため、業務委託するメリットはないと考えています。
Q:市の消防では対応出来ないレベルの大規模災害が発生した場合に、どのように対応する想定をしているか?
稲城市・消防総務課:大規模災害を見据えて消防出張所を新たに建設し、消防職員も計画的に増員、消防機動力も整備しています。また、緊急消防援助隊の活動訓練に参加したり、実災害として被災地に出動するなど、応援・受援体制を構築しています。
Q:今後、東京消防庁に業務委託する考えはあるか?
稲城市・消防総務課:現段階では考えていません。

両者の質問を比較検討したところ、東久留米市は大きな組織に加わることで防災体制を強化しようとしたのに対し、稲城市は、より地域に根ざし、その場所に適した体制を組むことを優先して消防運営に当たっているということが見て取れた。
実際の社会でも、大きい組織だからこそできること、小さい組織だからこそできることなどということは、往々にしてあるのではないだろうか。火事や災害は一つとして同じ状況のものはなく、どちらの体制が良いかは比較しようがない。
ただ、大規模な災害が発生した場合などには、東京消防庁、稲城市消防本部がそれぞれ応援を要請できる協定が結ばれている。有事の際には、それぞれが消防力を結集して、都民の安心安全を守るために全力で活動に当たってほしいと思う。
(フジテレビ社会部・東京消防庁担当 石竹爽馬)