観光客「廃線はありえない」 利用者の声に町長も対策案

富山地方鉄道の立山線・岩峅寺〜立山間の廃線問題に、地元自治体が存続策を模索している。同鉄道は6期連続の赤字、累積赤字61億円を抱え、採算の取れない本線の滑川〜宇奈月温泉間および立山線の岩峅寺〜立山間について、沿線自治体からの要請や支援方針がなければ来年11月末での廃線を検討している。
観光客で賑わう立山線


電鉄富山駅を訪れると、県内外や海外からの多くの観光客でにぎわっていた。午前8時20分発の立山行き列車は座席が埋まり、つり革を握って立つ乗客の姿も見られる。

廃線が検討されている区間について、札幌から訪れた観光客は「え?じゃあ不便じゃないですか?こんなに外国の人もいっぱいいるのに困りますよね。なくなると個人で来る人が不便になる」と驚きを隠せない様子だった。
大阪からの観光客も「我々は来たい時に来るので勝手ですけど、廃線はありえない。こんだけ人が来ているのに。とくに外国の人がたくさん並んでいたので、ぜひ続けてほしい」と話す。

イギリスからの外国人観光客も「この電車に乗ることも1つの楽しみ、これから立山に行けなくなったら残念」と廃線検討のニュースに心配の声を上げた。
厳しい経営状況

富山地方鉄道企画部の吉川護副部長は「かなり緊迫しております。少子化や燃料費、資材費の高騰などで非常に収支が厳しくなっている」と現状を説明する。

同社は採算が取れる立山線区間を電鉄富山から五百石までとし、採算が取れない五百石から岩峅寺までについては、不二越・上滝線との結節点であることを考慮して運営継続の方針を示している。

しかし、岩峅寺から立山までの区間は山間部でメンテナンス費用が高く、経営を圧迫している。現段階では廃止届の提出に向けた準備を進めているという。
立山町は存続策を模索

これに対し立山町の舟橋貴之町長は「町にとって(立山線は)背骨だと思う」と強調し、11月末までに立山線を残すための提案をする意向を示した。

立山線の利用実態を見ると、廃線が検討されている区間の1日あたり平均乗降客数は岩峅寺駅が320人、立山駅が471人である一方、その他の駅は20人未満と極めて少ない。取材時の立山駅行き列車に乗る客のほとんどはアルペンルートへ向かう観光客だった。
観光客負担で路線維持を

舟橋町長は、アルペンルートの観光客82万人のうち、10万人が立山線を利用している実績を踏まえ、路線維持費用の一部を観光客に負担してもらう案を検討している。
「電鉄富山から立山が1420円でも2000円でも乗られる方は乗られるだろう。仮に580円の差額があれば1万人で580万円。アルペンルートに来られる人のうち10万人は地鉄立山線を利用するならば580円の値上げで5800万円の売り上げ増になる。利用者の多くが観光客ですから観光客の方に負担していただく方法を考えている」と舟橋町長は具体的な数字を挙げて説明する。
観光客から多く運賃を取る一方で、学生などの地元利用者にはICカードや定期券で補助や割引を行い、すみ分けが可能だとしている。
複数の財源確保策を検討

観光客からの運賃値上げ以外にも、町では今後導入を検討する宿泊税で得た財源の活用や、現在県が管理する立山駅前の無料駐車場を町で運営し有料化することで財源を確保するなど、複数の方策を提案する予定だ。
舟橋町長は「立山駅まで電車が繋がらなくなると4〜5月の大勢のインバウンドをどう運ぶのか、どちらかといえば経済効果からすれば富山市にとって大変な問題、富山市は県都だから県全体の問題なんだろうと思う」と、この問題が立山町だけでなく県全体の課題であることを強調した。
地域との合意形成が鍵
富山地方鉄道が廃止届の提出を予定しているのは今年12月。それまでに存続策がまとまるかが注目される。

吉川副部長は「お金を出していただけたら維持するというようなことは言ったことがない。地域と一緒になって必要なのかどうか、どういう風に残していくかを問いかけている。地域の人がどう思っているか理解とコンセンサス(合意)をどう求めていくのか、どんな取り組みをやっていく思いがあるか話をいただければと考えている」と述べ、単なる財政支援ではなく地域との合意形成を重視する姿勢を示している。
富山地方鉄道の廃線問題は、地域の足をどう守るか、観光資源としての価値をどう評価するかなど、多角的な視点からの検討が求められている。