おでかけ中に子どもが突然ぐずったとき、どうすればいいのか――。
そんな心配に寄り添う「まほうのシール」が広島から広がっている。子育て世代のアイデアで誕生したこの小さなシールが、ご当地バージョンとして新たな一歩を踏み出した。
SNSで集まった“ママたちの思い”
レストランや公共交通機関で、子どもが突然泣きだして困った経験。
広島の親たちからこんな声が聞かれた。

「周りに迷惑をかけてはいけないと思って、静かにしなさいと焦ることはありました」
「なるようにしかならないんで、そのままうるさくさせてました。周りに子どものいる家族がいないと、なかなか理解を得にくいこともありますね」

そんな不安をやわらげようと、6年前に誕生したのが「まほうのシール」。名刺サイズのシールに子どもが大好きなゾウやリンゴが描かれ、無料で配布されている。
泣いている子どもに手渡すと、シールを見た子どもが笑顔に。また、保護者には「泣いても大丈夫」という思いを届けられる。
「子連れのおでかけに優しい社会になればと思ってシールのプロジェクトを始めました」
そう話すのは「広島こそだて未来会議」の津福彩夏さん。SNSの呼びかけで集まった子育て中のメンバーが中心となり、2019年に製作を始めた。

街でシールを手にしたパパ・ママからの反応も温かい。
「『大丈夫だよ』という気持ちが目に見えてわかるのでありがたいです」
「その場でペタッと貼って遊べるので、子どももご機嫌になります」
「周りの目が気になる中で、こうした優しさは本当に助かります」
広島らしい“英語付き”デザインに
子育てしやすい社会を目指すこの取り組みが、2025年に新しい動きを見せている。
「広島バージョンとしてご当地シールを作りました」

まほうのシール事務局の片元友紀さんと津福さんが見せてくれたのは、宮島の鳥居や折り鶴が描かれた新デザイン。近年、平和公園や宮島を訪れる外国人観光客が過去最多を更新している。それに合わせ、シールに英語での説明文を追加した。

「広島は子育てに優しい街。泣いても大丈夫だから、安心して観光を楽しんでください――そんな思いを伝えたかったんです」
シールを見た外国人観光客の反応も上々だ。

スイスから来た父親は「子どもが感情を表現できることを示すよい方法だと思う。泣くことが悪いことではないのだから」と肯定的。子どもを抱いたデンマーク人の父親も「とてもかわいいし、いいアイデアだと思う。日本人は礼儀正しいので、もちろん迷惑をかけたくないし、私も溶け込みたい」と話す。

ベビーカーを押すアメリカ人の母親も共感する。
「ぐずるかって?ええ、よくぐずるわ。だから彼女がぐずり始めたら、すぐにおやつをあげなきゃいけない」
シールを差し出すと母親は笑顔でこう言った。
「すごくかわいい。この子はゾウが大好きなの。一番好きな動物よ」
「子育てを応援されている」4人に1人
「まほうのシール」はこれまでに福岡、熊本、山口などの5県に広がり、累計10万枚を発行。

ただし、市民グループの活動のため、シールの製作費は広告によって支えられている。1口5万円の協賛で2000枚を製作。広告が途絶えれば発行も止まってしまうという課題がある。

「子育てで嫌な思いをした話がクローズアップされがちですが、“優しくしてもらって温かい気持ちになりました”という声も広げたい」と片元さん。
津福さんは「財布の中にこのシールを1枚入れておくだけで、ただ持ってくれているだけで、子育てに優しい社会に近づく気がします」と語る。

広島県が2023年に実施した「子育て支援に関する調査」によると、社会全体で子どもを育てる雰囲気があるかという問いに対し「応援されている」と感じている人はわずか25.8%にとどまった。一方で、「応援されていない」と答えた人は34.7%。「どちらともいえない」が39.6%だった。
まだ多くの人が、子育てを“個人の努力”として抱え込んでいる現実がある。そんな中、「まほうのシール」は小さくても確かな連帯の証として届けられている。
(テレビ新広島)