少子化が進む日本。出産後の母親と赤ちゃんに対して、心身のケアや育児のサポートなどをきめ細かく支援する“産後ケア”が今、注目されている。国や自治体が後押しする事業で、民間も含め、様々な内容のものが登場している。人気で予約が取りにくい福岡市の新しい産後ケアを取材した。
リゾートホテルで“産後ケア”
福岡市に住む阿武帆菜美さんが、生後3ヵ月の長女、芽依ちゃんを抱いて、この日訪れたのは、福岡市東区にあるリゾートホテル、『ザ・ルイガンズ.スパ&リゾート』。

初めての出産と育児で休む間もない阿武さんが申し込んだ産後ケアサービスは、ホテルに助産師が常駐して行うデラックスな内容だ。

ホテルを会場に産後ケアサービスが行われるのは、福岡県内初の取組み。2025年4月の開始以来、予約がなかなか取れない人気のコースになっている。

産後ケアとは、出産後1年以内の母子に対し、心と体をサポートするサービスのこと。こども家庭庁の調査(2023年度)によると、日本では、産後1割ほどの母親が、「産後うつ」を発症している可能性があり、ケアの重要性が高まっている。

出産後、赤ちゃんと2人きりで部屋にこもる状況になりやすい阿武さん。今回、「ホテルの非現実的な環境で、ちょっとした旅行気分を味わえるのも凄くいい」と、このホテルでの産後ケアを希望したという。

24時間体制で助産師に相談も
チェックイン後、娘の芽依ちゃんを担当の助産師に預けて阿武さんが、まず、向かったのは、ホテル内のレストラン。

「普段は、旦那と交代で子供を抱っこしながら、ばーっとご飯を食べているような感じ」と話す阿部さん。ほんの少しの間だが、育児から解放され、久しぶりにゆっくりと自分のための昼食をとれたという。「子育てでいつも緊張しているので、解放されてゆっくり寝られたら」と寝不足の体を休めに海が見える部屋に入って行った。

この間、娘の芽依ちゃんは、担当の助産師が24時間体制で見守っている。

阿武さんは、部屋で体を休める前に、助産師に日頃から気になっているという母乳量のことを相談。助産師からの「80CCくらい飲めているし、ミルクの量もちょうどいいと思う」という答えに阿武さんも安心した様子だ。

この産後ケアの最大の特徴は、24時間いつでも助産師に育児相談ができるところ。

「出産後、退院して自宅に戻ると、いきなり自分と赤ちゃんの2人きりになるので、やはり心細い。不安というか、心配もあったし、日中どうやって過ごそうかなと…。特に、赤ちゃんが泣いていると、他のことができないというのがあったので。今回のような産後ケアは、凄く有難い」と阿武さんは話す。

「子育てはとてもストレスがかかるもの」
このホテルでの取り組みを始めたのは、福岡市東区の『真田産婦人科麻酔科クリニック』。

11年前から病院内での産後ケアを行っていたが、「運用が不安定」なため、ホテルでの産後ケア提供を考えたと理事長の平川俊夫さんは話す。

病院の空いているベッドを使い、産後ケアの予約を受け付けているものの、出産する人の対応が優先で、ケアを受けようとしていた人にスケジュールの変更をお願いせざるを得ない状況だった。

一方、ホテルでは、常に3部屋が確保されているので、安定して産後ケアを提供できる。理事長の平川さんは、「子育ては、とてもストレスがかかるものなので、そういう時にホテルでゆっくりして欲しい。そして、次の日からまた、育児に元気が出るならば、それは、とてもいいこと」と産後ケアの重要性を強調する。

福岡市「1泊2日の宿泊」6千円
体と心を休め、育児の不安解消にも一役買ってくれる産後ケア。このホテルでの産後ケアは、生後4カ月までの赤ちゃんとその母親が対象で、福岡市からの補助を使えば、1泊2日6000円で利用できる。1日3組まで1年中受け付けていて、ほぼ予約で埋まるほどだという。

産後ケア事業の補助率は、基本的に国が2分の1、県と市町村がそれぞれ4分の1ずつ負担する。実際に利用者が負担する額は、各自治体によって異なるが、福岡市の場合、「1泊2日の宿泊型」で6000円。「日帰りのデイケア」は、2000円。そして、「2時間から3時間の訪問」の場合は、500円と利用しやすい料金に設定されている。

福岡市によると、負担軽減の施策を始めた2023年度からは、利用者がそれ以前の2倍以上に増えていて、産後ケアにあたる施設や担い手など、受け皿の確保が課題となっているという。
いまや各地で様々な企業が“産後ケアビジネス”に参入し始めている。中には、都心宿泊型で共働き支援や高級ホテルを利用した高額なサービスの提供などもあり、その裾野は、更に広がりをみせている。
(テレビ西日本)