全身の筋肉が緊張すると
「寝つけない」の原因としてもう1つあげられるのが、さきほどもお話しした全身の筋肉の緊張です。
なかなか寝つけないとき、人は「また眠れなかったらどうしよう」「朝がつらいなあ」などとつぶやいているものです。そうすると寝苦しく、少しまどろんでもすぐに目が覚めてしまいます。

このとき、全身の筋肉は頭のてっぺんから足の先まで、おしなべて緊張しています。特に緊張しているのは、顔面、首、肩、二の腕から前腕、胸の筋肉にかけてです。下半身よりも上半身です。この筋肉の緊張は交感神経の興奮性を高め、それがさらに筋肉を緊張させます。
こうして悪循環が形成され、不眠はいっそう強化されていくのです。
この筋肉の緊張も、「頭の中のつぶやき」と同様に、なかなか意識されません。力を入れているつもりはないのに、知らず知らずのうちにあごや肩、腕に力が入っています。ふと気がついて緩めても、いつしか自然と力がこもっています。特に、あごに力が入っています。このあごの筋肉(咬こうきん筋)の力を抜くようにします。
具体的には、電車で居眠りしている人を想像して口をぽかんと開けてください。そして、これでもか、というくらい徹底的にあごの力を抜き続けてください。そうすると、自然と首から肩にかけての筋肉群も力が抜けてきます。さらに、上腕から二の腕へと脱力が波及し、やがて全身がリラックスしてきます。
「頭の中での独り言の消去」と「あごの脱力」は同時に行っていきますが、慣れないうちはどちらか1つに集中して、1つずつやっていきましょう。決して難しい方法ではありませんので、要領さえつかめてしまえば必ずできるようになります。

森下克也
心療内科医、医学博士。著書に『決定版「軽症うつ」を治す』(角川SSC新書)、『うつ消し漢方』(方丈社)、『もしかして、適応障害?』(CEメディアハウス)他、多数。