お湯や水を注ぐだけで手軽に食べられ、食卓の強い味方でもあるフリーズドライの食品はみそ汁や雑炊などバラエティに富んだ商品がスーパーやコンビニに並ぶ。「おいしい」「手軽で持ち運びも軽い」と生産量も増えているが、実はいま鹿児島県で、農産物の付加価値を高めようと研究が進んでいるのだ。

フリーズドライ製品の生産量は年々増加、今後も拡大の可能性大

フリーズドライは、食材や食品を凍結してから真空状態にし、水分を抜いて乾燥させる技術。圧力が低い条件下では、水は温度に関係なく気体になるという性質を利用したもので、凍結によって氷になった水分をそのまま水蒸気にして、食品の外へ逃す形で乾燥させる製法だ。低温でゆっくりと乾燥させるため、栄養価や食感、風味が損なわれにくいのが特徴。

業界関係者によると、フリーズドライ製品の生産量は年々増えていて、「おいしい」「手軽で持ち運びも軽い」といった理由から、今後も市場規模が拡大する可能性が非常に高いという。

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農産物の付加価値向上のため県がフリーズドライ専用の機械導入

このフリーズドライ、実は鹿児島で熱心に研究が行われている。加工品開発の支援などを行う、鹿屋市の大隅加工技術研究センターを訪ねた。

開発・試作室に案内してもらうと、広い空間にステンレス製の業務用流しや作業台、大型の冷蔵庫など食品製造に必要な様々な器具類が置いてある。

職員の山崎栄次さんが、フリーズドライ専用の機械を見せてくれた。「小型のタイプですけれども、フリーズドライ真空凍結乾燥機です」。大きさは、標準的な家庭用の冷蔵庫くらいか。県内の農産物の付加価値を高めようと、10年前のセンター開業時に導入された。上3分の1が食品を入れて加工する部分になっていて、見た目はまるでコインランドリーにある乾燥機だ。

フリーズドライ真空凍結乾燥機
フリーズドライ真空凍結乾燥機

難しい緑茶のフリーズドライ化。新技術で成功、特許を取得

山崎さんが、「できたばかりのものが入っています。今は真空状態になっていますので、真空を解除して取り出します」と、丸い扉を開けて製氷皿のようなトレーを取り出した。細かい仕切りのあるトレーをボウルの上で返して軽くトントンとたたくと、緑色の四角い物体がポロポロッと落ちてきた。フリーズドライの緑茶だ。

フリーズドライの緑茶
フリーズドライの緑茶

通常の方法でお茶を加工すると、水分が多いため乾燥させた際に空洞が多くてもろくなってしまう。しかし、このセンターはお茶の成分を濃縮させる新技術で、緑茶のフリーズドライ化に成功。5年の開発期間を経て、2025年1月に特許を取得した。

「味も薄くなりがちなんですけど、そこをちゃんとしっかりおいしく召し上がれる濃度に持って行くのが技術的に大変でした」。山崎さんは、開発中の苦労話を披露した。

お茶の成分を濃縮させる新技術は特許を取得した
お茶の成分を濃縮させる新技術は特許を取得した

お茶どころ鹿児島の救世主!?「香り高く甘い」緑茶が手軽に

茶わんにフリーズドライのお茶を1個入れ湯を注ぐと、ホロホロと溶けて、またたく間に深みのある緑色のおいしそうなお茶が入った。

記者は思わず「いい香り~」。さらに口に含むと「おいしい!すごくすっきり甘くて、最後に香りが抜けていく感じが心地いいですね」。香りと味わいをしっかり感じられた様子。

鹿児島県は2024年、荒茶の生産量で静岡を上回り日本一になったお茶どころ。また2025年産の一番茶の荒茶生産量でも全国1位となったことがわかった。だが近年は、茶葉を急須で入れる手間が敬遠され、リーフ茶の消費量は全国的に減少傾向。手軽なフリーズドライは鹿児島にとって救世主となる可能性を秘めている。

山崎さんは、「おいしいお茶を提供したいというお茶屋さんに、技術をぜひ利用していただきたいと思っています」と呼びかける。

フリーズドライ先進県 開発を支援した製品の4割がフリーズドライ

大隅加工技術研究センターは、緑茶を加工した小型のものに加え、さらに大型のフリーズドライ真空凍結乾燥機を導入している。これは全国的にも珍しく、鹿児島はフリーズドライ先進県としての歩みを進めているといえよう。

それを裏付けるように、センターでこの10年で開発を支援した175の製品のうち、実に4割がフリーズドライだった。

「新鮮」「食いつきがいい」フリーズドライで愛犬に幸せと健康を

鹿児島市で開かれたイベントで、フリーズドライの商品を紹介していたのは牧山商店の牧山寿志さん・利美さん夫婦。主力商品のひとつが鹿肉などを使った犬用のフリーズドライ食品だ。会場には多くの愛犬家が集まり、犬たちは寿志さんが手に持っているおやつを「もっとちょうだい、もっとちょうだい!」と、しっぽを左右に振りながらおねだりしていた。

牧山さん夫婦は全く違う業種からフリーズドライの世界へ入った。2年前、愛犬を病気で亡くしたことをきっかけに、自宅にフリーズドライの機械を購入し「人にも犬にも健康であるために」をコンセプトにした商品づくりに励んでいる。

牧山商店の犬用のフリーズドライは水を注ぐと、あっという間に手で裂けるほどしっとり柔らかい肉に戻る。犬を連れて来店した客の男性は「いつも使わせてもらっているんですけど、食いつきがよくて助かる」。

また、別の客も「新鮮さが違う。水に溶かすとすぐ食べられるので」。愛犬家たちの評判は上々のようだ。

愛犬家たちの評判も上々だ
愛犬家たちの評判も上々だ

素材ごとの温度設定が難しく、製造コストが高いのが課題

このほか、イベント会場にはバナナやドラゴンフルーツ、パッションフルーツなど、果物のフリーズドライも並んでいた。試食した男性は「甘いですね。珍しいですよね 食べるまでは『大丈夫かな?』という感覚はあるけれど、実際食べてみたら甘みもあって、生の果物より甘みを感じてとてもおいしい」。水で戻さずに食べると、サクサクした食感が楽しめるという。

果物のフリーズドライ
果物のフリーズドライ

牧山さんは「ものによって温度設定を変えていきます。何回も失敗して苦くなったり」と笑いながら話してくれたが、このおいしさを生み出すまでの苦労もあるようだ。

凍結や乾燥をする際に、味や栄養分を損なわないための温度設定が難しいこと、乾燥には半日から一日の時間が必要で製造コストがかかるという課題もある。

「おいしくて日持ちして栄養もとれる」夫婦二人三脚でフリーズドライの魅力を広めたい

「おいしくてフレッシュに味わえるのに、日持ちもして軽くて栄養もとれる」のがフリーズドライの魅力だと、寿志さん。

妻の利美さんは、「フリーズドライという言葉を知っている人は多いが、ほかの乾燥方法と何が違うか知らない方が多いので、地道にイベントに出て試食してもらっておいしさを広めたい」と意気込みを語ると、ふたり顔を見合わせて「地道にですね、うんうん」と笑った。

牧山さん夫妻
牧山さん夫妻

忙しい時に手軽に食べられ、災害時の保存食としても活用されるなど、フリーズドライ食品のニーズは今後も増えていくことだろう。フリーズドライ先進県、鹿児島の挑戦はまだまだ続く。

(動画で見る:特許取得の緑茶や果物、ペットフードまで 「フリーズドライ」の最新事情とは?

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鹿児島テレビ
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