2025年の夏は暑い日が続き、葉物野菜の価格が高騰した。そんな中、鹿児島県鹿屋市では「工場育ち」のレタスが売り上げを伸ばしている。生コンクリートを製造する会社が、14年前に生産を開始。植物工場がこれからの農業を支える一つの選択肢になると注目されている。

異常気象で「工場育ち」のレタスが売り上げ増

大隅半島のほぼ中央部に位置する鹿屋市。カンパチや肉用牛、豚などの産出額が国内でも上位で、漁業、農業、畜産のまちというイメージがある。そんな鹿屋市内の、しかも工場地帯にある工場で栽培され、このところ売り上げを伸ばしている野菜がある。

それは、シャキシャキの食感が楽しめる「フリルレタス」。見た目は鮮やかな緑色で、名前の通りフリルのように華やかな葉が特徴の葉物野菜だ。

猛暑と大雨が影響して葉物野菜の収穫量が減り、価格が上がった2025年の夏。そんな中でも天候の影響を受けず、高品質かつ安定的に出荷できる「工場育ち」のフリルレタスは例年と比べ、取り引きが3割ほど増えているという。

「工場育ち」のフリルレタス
「工場育ち」のフリルレタス
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毎日出荷 天候や季節に左右されないレタス栽培

広い工場の中は室温が17℃から19℃に保たれていて、栽培用の棚がぎっしりと並んでいる。床から天井までの高さがあり6段に仕切られたその棚には、各段の上部に照明がついていて、赤や青の光が成長中のレタスを照らしている。

6段に仕切られた栽培用の棚
6段に仕切られた栽培用の棚

ちょうど衛生服を着たスタッフが、適期を迎えた「フリルレタス」を収穫していた。天候や季節に左右されることもなく、市場が休みの日以外は毎日出荷している「フリルレタス」。取材した日は、約400株が袋詰めされていた。

市場の休み以外は毎日出荷している
市場の休み以外は毎日出荷している

このレタス工場の道路向いには、陸砂、海砂と書かれた大きなサイロがあったり、コンクリートミキサー車が止まっていたりする。実はレタス栽培に取り組むのは、生コンクリートを製造する旭信興産。文字通り“畑違い”の会社だ。

レタス工場
レタス工場
レタス工場の道路向かいには、生コンクリートの製造工場。どちらも旭信興産の工場だ
レタス工場の道路向かいには、生コンクリートの製造工場。どちらも旭信興産の工場だ

14年前にこの事業を始めたのは、先代社長。農業経験はなかったが、大手の自動車部品メーカーで最年少役員を務めた経歴を持ち、「ものづくりなら自分にもできる」と始めた。

当時は、工場での野菜の栽培が今ほど普及していなかった時代。ステンレスの棚や水をためるトレー、ライトの設置など全ての設備をゼロから設計し、工場を作り上げたという。

ではなぜ設備をゼロから設計してまで、このレタス栽培を始めることになったのか?

14年前に事業を開始した前社長・大石博資さん
14年前に事業を開始した前社長・大石博資さん

桜島の灰が「ジャリッ」としたのがきっかけ

理由は「桜島の火山灰」にあった。

現社長の大石万希生さんは「私も先代も鹿児島、鹿屋の出身ではないんですけれども、こちらの露地もののレタスを食べると、どうしても灰が入っていて洗っても若干『ジャリッ』ってする。ああいうのがちょっと気になるなということで。」

兵庫県出身でフランスでの暮らしが長かった先代社長が、鹿児島で初めて灰を経験したのが、工場でレタス栽培を始めるきっかけになったという。

こうして生まれた、鹿屋の「工場育ち」のレタス。土を使わない水耕栽培のため、口の中で灰が「ジャリッ」とする心配がないどころか、洗わずに食べられる優れものなのだ。

洗わずに食べることができる
洗わずに食べることができる

「君は光合成も知らないのか」失敗も経験

一方で、大失敗も経験した。「一度、工場内のレタスが一気に枯れてしまったことがあって、原因がわからなくて。」そういう時にアドバイスをもらっていた植物工場の権威で、千葉の大学の先生に「君は光合成も知らないのか。」ズバリ、言われてしまった大石社長。

「光合成は、当然、水と光と二酸化炭素が必要なんですけれども、工場内で二酸化炭素が欠乏している状態で、そのせいで光合成ができなくなって枯れてしまっていたということがわかりまして。今では二酸化炭素を購入して、そういうことが起こらないように濃度を一定にしています。」と頭をかく。

失敗も笑いに変え、「ものづくり」の精神でレタス栽培を続けてきた。

大石万希生社長
大石万希生社長

植物工場がこれからの農業を支える一つの選択肢に

種まきから収穫まで、約40日。赤や青の光に照らされた空間は昭和でいえば「ディスコ」、今だったら「クラブ」という雰囲気の中で育つ。実はこの光の色には意味があり、赤い光が強いと光合成が促進されて甘みが増し、青い光が強いとストレスを感じビタミンやポリフェノールを蓄積するという。

大石社長は、植物工場がこれからの農業を支える一つの選択肢になると感じている。

「これだけ気温が上がってきてしまうと、レタスが特定の時期だけしか手に入らなくなるんじゃないかと。ただ我々のようなこういう植物工場であれば、年中、同じ品質のものが食べられるということで、そういう形でみなさんに貢献できればいいなぁと思っています。」

「桜島の火山灰」がきっかけで生まれ、工場の中で青や赤の光を浴びて育つ、鹿屋の「フリルレタス」。今後もどんどん出荷され、鹿屋市の新たな特産品として、そして、新しい農業のカタチの一つとして、脚光を浴びて成長していくことだろう。

(動画で見る:猛暑で需要増! 工場育ちのレタス きっかけは鹿児島特有のアレ!? 鹿児島・鹿屋市

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鹿児島テレビ
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